人生には、自分ではどうにもできない現実や、勇気を出して変えるべき課題が数多く存在します。そうした中で、何を受け入れ、何に立ち向かい、どう判断するべきか――その答えのヒントを与えてくれるのが、20世紀アメリカの神学者・倫理学者ラインホルト・ニーバーの言葉です。
彼の残した「ニーバーの祈り」は、宗教を超えて現代の心理学や自己啓発にも深く影響を与えており、多くの人の心を支えてきました。
本記事では、ニーバーの人物像や代表的な著作、そして「ニーバーの祈り」が私たちの生き方にどのようなメリットをもたらすのかを、心理学の視点も交えて丁寧に解説していきます。
ラインホルト・ニーバーとは?
ラインホルト・ニーバー(Reinhold Niebuhr)は、20世紀を代表するアメリカの神学者・倫理学者です。
二ーバーの思想は、宗教的な枠を超えて、政治・倫理・社会問題にまで深く関わりを持っています。特に冷戦期のアメリカ政治にも強い影響を与えました。
ニーバーは1892年にアメリカで生まれ、ドイツ系の家庭に育ちました。彼は牧師として活動を始めますが、やがて社会の不平等や戦争という現実と向き合う中で、単純な理想主義では解決できない「人間の罪深さ」や「力の倫理」を説くようになります。
彼の代表的な著書『道徳的人間と非道徳的社会』(Moral Man and Immoral Society)では、個人が道徳的であっても、社会としては非道徳的になりうるという現実を描いています。これは現代にも通じる視点であり、国際政治や集団行動を考える上での基本的な洞察を与えてくれます。
「ニーバーの祈り」
ニーバーで有名なのが「ニーバーの祈り」です。これは多くの人々に希望と癒やしを与えた言葉として有名です。
神よ、変えられないものを受け入れる静けさを、変えられるものを変える勇気を、そしてその違いを見分ける知恵を、我に与えたまえ。
「受容と勇気と知恵」のこの考え方は、現在の心理学においても非常に有効な考え方です。
この短い祈りの中に、人間の限界と神への信頼、そして行動する勇気が凝縮されています。
コントロールできるものに意識を向けるコントロールフォーカスを短い言葉でまとめてくれています。
コントロールフォーカスとは?
コントロールフォーカスとは、自分が経験する出来事や結果から、どの程度自分でコントロールできると考えていることです。
、大きく分けて「内的フォーカス」と「外的フォーカス」の2種類があります。これらは、人生における出来事や成果が、自分の行動によって影響を受けるか、それとも外部の要因に依存していると考えるかによって分類されます。どちらのフォーカスを持つかによって、私たちの自己効力感やストレスの感じ方、目標達成の意欲が大きく異なってきます。
ニーバーの祈りの〇つのメリットとは?
① 自己受容の力を与える
「変えられないものを受け入れる静けさ」は、人生における「どうしようもない現実」を認めるための心の支えとなります。
たとえば、過去の出来事や他人の性格、病気や老いなど、自分ではどうにもならない事実に直面したときに、この祈りは「それでも平穏に生きる」力を与えてくれます。
② 行動する勇気を支える
「変えられるものを変える勇気を」は、人生を良い方向に進めるために「行動する意志」を後押しします。
変化を恐れず、自らの手で問題を解決していくことの大切さを教えてくれます。自己受容がただのあきらめではなく、前向きな行動に変わります。
③ 冷静な判断力を養う
「その違いを見分ける知恵を」は、何を受け入れ、何を変えるべきかを見極める冷静さを育てます。
この部分が特に重要で、感情的にならずに物事を客観的に見る力を育ててくれるのです。
「変えられるものを変える」の意識が、自責につながる?
「変えられるものを変える」意識は、自責につながりやすい考えです。ただ、自責そのものは悪いものではなく、自責をどう使うかが問題です。
もう少し言葉を付け加えるなら、「変えられるものから変えたいものを選び、変えること」が大事です。変える選択権を常に自分に持つ意識を持ちましょう。
まとめ
ニーバーは、「ただ信じる」だけではなく、「行動する信仰」を提唱しました。その教えは、宗教的であれ非宗教的であれ、私たちがよりよく生きるための指針を与えてくれます。
このような思想家の言葉に触れることで、日々の判断や人間関係にも新たな視点が加わるかもしれません。