睡眠は、私たちの健康に欠かせない要素ですが、そのパターンやスタイルには個人差があります。
現代社会では、夜にまとめて睡眠を取る「単相性睡眠」が一般的です。
しかし、一部の人々は「多相睡眠」を実践し、異なる睡眠スケジュールを生活に取り入れています。
この記事では、単相性睡眠と多相睡眠の違い、それぞれのメリットやデメリット、そして自分に合った睡眠スタイルを見つけるための方法について詳しく解説します。
単相性睡眠とは?
単相性睡眠(Monophasic Sleep)とは、一日の中で一度にまとめて睡眠をとる睡眠パターンのことです。一般的には夜間に6〜8時間の睡眠をとることがほとんどで、現代の生活スタイルに最もよく見られる形です。仕事や学校のスケジュールに合わせ、夜にしっかり寝て、日中は活動するというライフサイクルが基本となっています。
1.単相性睡眠の3つのメリット
①体と脳の十分な回復が期待できる
連続した深い睡眠(特にノンレム睡眠第3・4段階)が得やすく、成長ホルモンの分泌や免疫力の向上が促進します。脳の記憶整理、感情の調整、身体の修復が一晩の間に効率よく行われます。
②社会生活に適応しやすい
学校や仕事、家庭のスケジュールなど、多くの社会活動が「夜に眠る」前提で組まれています。単相性睡眠はこのライフスタイルと合致しており、無理なく日常に取り入れられるのが大きな利点です。
③体内リズム(サーカディアンリズム)と調和しやすい
単相性睡眠は、朝起きて夜眠るという自然な体内時計(概日リズム)と一致しているため、睡眠の質が安定しやすい傾向があります。朝日を浴びて活動し、夜にはメラトニンが分泌されて眠くなるといった自然のリズムに乗った生活が可能です。
2.単相性睡眠のデメリット
① 柔軟性が低い
一度にまとまった時間が必要なため、時間が制約されやすく、多忙な人には不便なことがあります。
睡眠時間が確保できないときに、睡眠の質を補う柔軟性が少ないため、疲労やパフォーマンス低下につながりやすいです。
②午後に強い眠気が出やすい
単相性睡眠では昼間に睡眠を取らないため、特に昼食後や午後3時前後に強い眠気や倦怠感を感じやすくなります。この時間帯のパフォーマンス低下は、多くの人が経験している典型的な現象です。
③短時間睡眠では効果が得にくい
単相性睡眠はある程度の時間(6〜8時間)が連続して必要なため、短時間睡眠しかとれない場合、深い睡眠に到達する前に目覚めてしまうことがあります。結果として、睡眠の質が下がり、日中の集中力や判断力の低下が生じることも。
3.単相性睡眠の歴史的背景
私たちが現在一般的に採用している「単相性睡眠」とは、夜間にまとめて6〜8時間ほど眠る、いわゆる「一晩通して眠るスタイル」を指します。
現代社会では当然のように思われていますが、実はこの睡眠スタイルは歴史的には比較的新しい現象であり、過去の多くの時代や文化においては、異なる睡眠習慣が一般的でした。
産業革命以前の「分割睡眠(セグメント睡眠)」
17〜18世紀以前のヨーロッパや日本などでは、多くの人々が「分割睡眠(二相性睡眠)」というスタイルを自然に実践していました。
分割睡眠とは?
- 日没とともに就寝し、深夜に一度自然と目が覚める
- その後、しばらく(1〜2時間程度)読書や祈り、会話、家事、さらには軽い労働や性生活などを行う
- 再び床につき、「第二の眠り」へと戻る
このように一晩の中に2つの睡眠セッションがあるのが一般的だったのです。
なぜこのような睡眠スタイルだったのか?
この習慣の背景には、当時の生活環境や技術的制約が関係しています:
- 照明の乏しさ:人工照明がなく、夜は暗くなると自然に活動を終える生活リズム
- 農耕社会のリズム:日中に体を酷使する生活では、夜に長時間連続して眠る必要がなかった
- 時間感覚の違い:現代のように時間に追われず、自然のリズムに合わせて生活していた
このような背景から、夜間に1回起きて活動することが「普通」だったのです。
単相性睡眠の普及と現代化
19世紀の産業革命以降、労働時間の固定化や電気の普及などにより、人々の生活リズムは大きく変化しました。
- 工場や職場に合わせた時間管理
- 夜間も活動できる照明の発達
- 効率と生産性を重視した社会構造
こうした変化の中で、一晩でまとめて眠る「単相性睡眠」が標準的になったのです。
つまり、現代人の睡眠スタイルは、歴史的にも文化的にも「唯一の正解」ではなく、社会環境の変化によって形作られたものだと言えます。
単相性睡眠は現代社会の合理性に基づいた習慣ですが、過去においては分割睡眠の方が自然で一般的でした。
このことからも、「理想的な睡眠の形」は一つではなく、環境や個人の体質に応じて多様であるべきという考え方が近年見直されつつあります。
多相睡眠とは?
多相睡眠(Polyphasic Sleep)は、1日の中で複数回に分けて短時間の睡眠をとるパターンです。これにより、長時間連続して寝ることなく、複数の睡眠セッションを組み合わせる形になります。多相睡眠にはいくつかのバリエーションがあり、個々のスケジュールに応じて柔軟に取り入れられることが特徴です。
1.多相睡眠の3つの種類
多相睡眠(Polyphasic Sleep)とは、1日の睡眠を複数回に分けてとる睡眠スタイルです。これは単相性睡眠(夜にまとめて眠る)とは異なり、時間の効率化や生活の柔軟性を重視する人々の間で注目されています。以下に代表的な多相睡眠のパターンをご紹介します。
①Uberman(ウーバーマン)スケジュール
- 内容:1日に約6回、20分ずつの短時間睡眠を行う(合計約2時間)
- 特徴:夜間にまとまった睡眠を取らず、短い昼寝だけで1日を過ごす
- 目的:短時間で深いノンレム睡眠(特に第3・4段階)を効率よく得ること
- 難点:非常に厳格なスケジュールで、社会生活との両立が難しく、体への負担も大きい
②Everyman(エブリマン)スケジュール
- 内容:1回のコア睡眠(3〜4時間)に加え、20分程度のナップを2〜3回組み合わせる
- 特徴:Ubermanほど極端ではなく、多くの人にとって実現しやすい柔軟な形式
- 利点:比較的取り組みやすく、コア睡眠で深い眠りを確保しつつ、日中の疲労も分散できる
③ Dymaxion(ダイマクション)スケジュール
- 内容:1日に4回、30分ずつの睡眠(合計2時間)
- 特徴:Ubermanに似ているが、より長めの昼寝を取り、回数を減らしている
- 発案者:建築家・思想家のバックミンスター・フラー氏によって提唱されたとされる
- 注意点:やはり一般的な生活リズムとは大きく異なるため、適応には高度な自己管理が必要
多相睡眠の3つのメリット
多相睡眠を正しく実践できれば、さまざまな利点があります。
特に時間の使い方に柔軟性を求める人々にとっては魅力的な選択肢となることがあります。
①効率的な時間の活用
睡眠時間を最小限に抑えることで、起きて活動できる時間を最大化できます。特に忙しいビジネスパーソン、学習時間を確保したい学生、創作活動を行う人に向いています。
② 昼間の疲労軽減
定期的に短い昼寝を挟むことで、午後の眠気や集中力の低下を予防しやすくなります。一度に長時間眠る必要がないため、体と脳をリフレッシュしやすいという効果もあります。
③ フレキシブルなスケジュール
固定された就寝時間に縛られず、個人のライフスタイルに合わせて睡眠を分割できます。夜勤やシフト勤務など、変則的な生活に対応しやすいという利点もあります。
多相睡眠の3つのデメリット
一方で、多相睡眠には慎重に検討すべきリスクや課題も存在します。
①社会生活との不調和
多くの社会活動(勤務時間、家族の生活リズムなど)が単相性睡眠を前提に設計されているため、スケジュールを合わせにくい。会議、学校、イベントなどに支障が出ることもあります。
②適応に時間がかかる
多相睡眠に慣れるには数日〜数週間かかることが多く、その間は眠気・疲労感・集中力の低下を感じることがあります適応期間中に重要な仕事や試験がある場合は大きなリスクとなる可能性も
③ 健康リスクの懸念
特に極端な多相睡眠では、深いノンレム睡眠(徐波睡眠)が十分に確保できない可能性があり、身体・脳の修復が不十分になる恐れがあります長期的な健康影響(免疫力の低下、記憶力の低下、ホルモンバランスの乱れなど)は、まだ研究が不十分で明確な結論は出ていません
単相性睡眠と多相睡眠の比較
単相性睡眠と多相睡眠には、それぞれの利点と欠点がありますが、どちらが良いかは個人のライフスタイルや体調に依存します。ここでは、いくつかの重要な要素について比較してみます。
時間の効率
- 単相性睡眠
一度にまとまった睡眠を取るため、睡眠自体にかける時間が6〜8時間と多くなりますが、日中に自由な時間が確保できます。 - 多相睡眠
合計の睡眠時間が短縮されるため、理論的には活動時間を増やせますが、昼寝のタイミングを調整する必要があり、厳密なスケジュール管理が求められます。
睡眠の質
- 単相性睡眠
深いノンレム睡眠とレム睡眠がバランスよく得られるため、身体と脳の回復がしっかり行われます。 - 多相睡眠
適応に成功すれば、短時間の睡眠で効果的にノンレム睡眠を取ることができますが、睡眠不足に陥るリスクも高いため注意が必要です。
健康への影響
- 単相性睡眠
長期的に見て、健康にとって最も安定的な睡眠パターンとされています。現代医学でも推奨されており、特に成人には6〜8時間の連続睡眠が理想とされています。 - 多相睡眠
一部の実践者や研究者からは、効率的な睡眠とされていますが、まだその長期的な影響については十分な研究が行われていないため、慎重に取り組む必要があります。
| 比較項目 | 単相性睡眠 | 多相性睡眠 |
|---|---|---|
| 基本スタイル | 夜に1回、6〜8時間程度の連続睡眠をとる | 1日を通して複数回に分けて短時間ずつ眠る |
| 睡眠回数 | 1回 | 2回以上(3〜6回など) |
| 1日の総睡眠時間 | 6〜8時間 | 2〜6時間(スケジュールによる) |
| メリット | ・体と脳の十分な回復ができる ・社会生活に適応しやすい ・体内リズムに合っている | ・時間を有効活用できる ・昼間の疲労を分散できる ・スケジュールの自由度が高い |
| デメリット | ・柔軟性が低い ・午後に眠気が出やすい ・短時間睡眠では不十分なことがある | ・社会との生活リズムに合いにくい ・適応に時間がかかる ・健康への影響が不明瞭 |
| 向いている人 | 規則正しい生活を送る人/一般的な会社員・学生 | 自由な働き方をしている人/クリエイター・フリーランス |
多相睡眠を実践するための3つのヒント
多相睡眠に挑戦したいと考える人向けに、実践のための具体的なヒントを紹介します。
1.段階的にスケジュールを調整
いきなり多相睡眠に切り替えるのではなく、まずはEverymanスケジュールのような、コア睡眠を残した柔軟な多相睡眠から始めると良いでしょう。
徐々に昼寝の回数を増やして、適応期間を設けることで、体が慣れるまでの負担を軽減できます。
2.睡眠環境の最適化
短時間でも質の高い睡眠を取るためには、睡眠環境が重要です。
暗く静かな部屋、快適な温度、そして目覚まし時計の利用などで、昼寝の質を最大限に高めましょう。
3.睡眠ログを取る
多相睡眠は調整が難しいため、睡眠の質や体調を日々記録し、自分に合ったスケジュールを見つけることが大切です。
アプリやノートを活用して、日々の睡眠と体調を追跡し、必要に応じて修正を加えてください。
どちらの睡眠パターンが自分に合っているか?
単相性睡眠と多相睡眠のどちらが良いかは、個人の生活スタイル、仕事、健康状態、そして体のリズムに依存します。
一般的には、社会的生活や安定したリズムが重要な場合は単相性睡眠が推奨されますが、創造的な活動やプロジェクトに集中したい期間などには、短期的に多相睡眠を試す価値もあるかもしれません。
まとめ
単相性睡眠と多相睡眠は、それぞれ異なるメリットとデメリットを持っています。
自分の生活リズムや目標に応じて、最適な睡眠パターンを選ぶことが大切です。多相睡眠に挑戦したい場合は、慎重に計画を立て、適応期間を考慮して無理なく実践することが成功の鍵となります。

