不安障害の人は、良い気分で過ごしている人に比べて、「ネガティブな気持ちを好むことが多い」ことが、ペンシルベニア州立大学2019年の研究で報告されています。
この「不安に安心できる場所を求める気持ち」が、コントラスト回避モデルで分かります。
「コントラスト回避モデル(Contrast Avoidance Model, CAM)」は、心理学で注目されている理論の1つです。このモデルは、心配や不安の思考する理由にあたる理論です。
分かりやすく言うと「個人が否定的な感情の急激な変化(感情コントラスト)を避けるために、心配や反芻思考といった行動をする」というものです。
コントラスト回避モデルとは?
コントラスト回避モデルは、感情障害における「感情的な安定を守るための心理的な動き」です。
コントラスト回避モデルは、ポジティブな感情からネガティブな感情への急激な変化(感情コントラスト)、または反対のネガティブな感情からポジティブな感情への変化を避けることが、心配や反芻の動機と考えるものです。
心配や反芻につながりやすくなる「コントラスト回避的な考え方」
「悪いことがないのが、一番」
「良いことは長くは続かない」
「幸せになるのが怖い」
そもそも感情コントラストとは?
感情コントラストとは、現在の感情状態と次に経験する感情状態の間の急激な変化を指します。
つまり、感情のギャップが大きいこと、感情のズレが大きいことです。
例えば、次のような感情の変化を避けるためのものです。
- ポジティブ → ネガティブ:落胆、悲しみ、ショック。
- ネガティブ → ポジティブ:安堵感や喜びからネガティブに戻ってしまう不安
感情コントラストでは、特にポジティブな状態からネガティブな状態への移行を避けるために心配が使われることを強調しています。
「ポジティブ→ネガティブへのギャップを避ける気持ちが強い」ほど、皮肉なことにネガティブ感情が高まる可能性があります。
参考:シアトルパシフィック大学2017年の調査
コントラスト回避モデルの影響
1. 全般性不安障害
全般的不安障害の方は、慢性的に心配を抱え続ける傾向があります。
この「心配」が感情コントラストを避けるために働いています。
- 心配の目的: ネガティブな感情に対する「準備状態」を維持し、予想外の感情的ショックをやわらげる。
- 結果: 長期的には、慢性的なストレスや不安を高まって、人生の満足が下がってしまう。
2. うつ病(MDD)
コントラスト回避モデルは、うつ病における反芻思考にもつながります。
反芻思考は、ポジティブな感情を意図的に避けることで感情が安定する効果があります。
- 反芻の特徴: 過去の失敗や後悔を繰り返し考え続ける。
- 目的: 感情の変動を抑えることで、想像していない感情的な苦痛を抑える。
3. 他の感情障害への適用
コントラスト回避モデルは、強迫性障害(OCD)、社会不安障害、パニック障害、さらにはPTSDなど、さまざまな感情障害にも応用できる可能性が示唆されています。
コントラスト回避モデルの影響を軽くする3つの方法
1. 不安や恐怖を受け入れていく
コントラスト回避モデルでは、大きな不安や恐怖を避けるために、小さな不安を感じ続けたり、恐怖の準備のために緊張状態が続くものです。
そのため、不安や恐怖などを受け入れていくことが大切です。
- 目標: ネガティブな結果の可能性を現実的に評価し、心配や反芻思考がもたらす感情の安定感に依存しない方法を身につける。
- 具体的な方法:
- 認知行動療法
- ACTやセルフコンパッションなどマインドフルネス系テクニック
2. 少しずつリラックス状態に慣れていく
コントラスト回避モデルでは、心配や反芻思考は「自分を守るために行っている」ので、単にリラックスしようとしてもネガティブな結果に終わることがあります。
「リラックスしていても大丈夫」という体験を積み重ねていくことが大切です。
リラックスしようとすると、逆に不安や緊張感が増すリラグゼーション誘発性不安もコントラスト回避モデルが主な原因と言われてます。
- 実践法:
①呼吸法などを行うときに「リラックスしなくても、酸素が体中に巡ればOK」と考える。
②自分の意識がそれるリラックス法を試す。
好きな音楽を聴く、動画を見るなど、注意力を方向を変えやすいもの。
①は感情調整の「認知的再評価」、②は「注意の選択」
3. 感情コントラストへのエクスポージャー
エクスポージャーはもともとは不安に慣れるものですが、感情コントラスト回避では「ポジティブな感情を楽しむこと」や「ネガティブな感情が予期せぬ形で訪れる状況」に少しずつ慣れていくことが大切です。
- 目的: 感情コントラスト(感情が大きく動く事)を体験して、その影響を実際よりも少ないものとして認識する。
- 実践例:
大きなリスクがないレベルで「新しい体験」に少しずつ慣れていく。
※結果、ポジティブになるかネガティブになるか分からないことに慣れる。
心配や不安を必要としているのがポイント
感情コントラストを避けるために、心配や不安や反芻思考を心理的な防御として必要としているのがポイントです。
そのため、「大丈夫」「なんとかなる」がマイナスに働くことがあります。
大切なのは「現実的な根拠」や「理由」を同時に考えること。
そのため、人に言う場合は「(根拠や理由を伝えて)だから、大丈夫」や「(根拠や理由を伝えて)だから、なんとかなるよ」と言い方を変えるのが大事です。
自分が自分に対して伝えるときも同じです。
根拠や理由を伝えずに、「大丈夫」とだけ伝えると、「必要としている心配と不安だけがなくなるだけで、そのあと感情が不安定になる可能性がある」からです。
誰かに言う場合は、誰かが大丈夫と声をかけないと、不安になってしまう可能性があります。
【動画】コントラスト回避モデルに関連する悩み
まとめ
コントラスト回避モデル(CAM)は、不安や心配が「感情の急激な変化」を避けるための心理的な防御として働くことを説明する理論です。
感情コントラストを避けるために心配や反芻が続くことで、結果的にストレスや不安を慢性的に高める可能性があります。
感情コントラスト回避を軽減するためには、不安や恐怖を受け入れたり、リラックス状態に少しずつ慣れたり、感情の変動を少しずつ体験して慣れることが重要です。
また、「大丈夫」と伝える際には、現実的な根拠や理由を一緒に添えることが大切です。