僕たちは通常、リラックスを「ストレスを解消し、心を落ち着けるための手段」と考えます。
しかし、一部の人にとっては、リラックスが逆に不安を引き起こす現象があります。
それが「リラクゼーション誘発性不安(Relaxation-induced anxiety)」です。
本記事では、この現象についての理解を深め、原因や対処法について詳しく解説していきます。
野上しもん
・29年間の睡眠障害を克服
・5年以上の双極性障害とうつを克服
・上級睡眠健康指導士
・メンタル心理カウンセラー
・食生活アドバイザー
・YouTube「メンタルコーチしもん」登録数1.3万
著書
・眠れない理由を知って眠れる方法を知れば安眠
・脱・中途覚醒 “夜中に目覚める”悩みが消える
・12歳になるまでに読みたい 「子どもの睡眠」
リラクゼーション誘発性不安とは?
リラクゼーション誘発性不安は、リラックスしようとしたり、安静な状態に入ったりすると逆に不安や緊張が生じる心理現象です。これは一般的な不安障害の一つの形として考えられることがありますが、リラックス状態がきっかけになるのが特徴です。
リラクゼーション誘発性不安は、現代社会におけるストレスフルな生活スタイルや、慢性的な緊張状態が背景にあることが多いとされています。
2012年の国際統合医療・研究会議では17~53%が該当すると発表されています。
でも、時間効率を高めるタイパ主義を重んじる人々が増える現代は、より確率は高まっている可能性がありますね。
一般的な不安障害とリラックス誘発性不安の違い
- 一般的な不安障害: 仕事や人間関係、未来への不安など、特定の原因に基づくことが多い。
- リラクゼーション誘発性不安: 特定の外部要因がなくても、リラックスそのものが不安の引き金となる。
リラグゼーション誘発性不安は、休むときやリラックスするときなどに症状がでます。
例えば、深呼吸しているとき、ヨガなど瞑想しているとき、お風呂に入っている時、休日で時間が空いたときなどです。
リラックス誘発性不安の症状とは?
リラクゼーション誘発性不安)は、リラックスしようとする際に不安や落ち着かなさを感じる心理現象です。以下に、具体的な症状を挙げます。
身体的な症状
- 緊張感の持続: リラックスしようとしても、逆に緊張が増すように感じる。
- 心拍数の上昇: 心臓がドキドキし、安静時でも動悸を感じる。
- リラックス時の違和感: リラックスに伴う「じわっと温かくなる感覚」や「体が重く感じる感覚」が、不安を引き起こす。
心理的な症状
- 制御不能感: リラックスの感覚そのものが自分でコントロールできないように感じ、不安が高まる。または不安のコントロール感を失うことへの恐怖。
- 何もしないことへの抵抗感: 「何もしないこと」や静かな時間を過ごすこと自体が落ち着かない。
- リラックスへの過剰なプレッシャー: 「リラックスしなければならない」と考えすぎることで、さらに不安が増す。
- 未解決の問題:抱えている問題やストレスがリラックス中に意識に浮かび上がり、不安を感じる。
認知的な症状
- リラックスを無意識に避けてしまう :リラックスしても緊張や不安がでるため、無意識に避けてしまう。
- リラクゼーションへの否定的な解釈: リラックス法を「無駄な努力」または「危険」と感じ始める。
- 抑圧された感情の表出: 普段抑えていた感情がリラックスによって表に出てきて、不安を引き起こす。
リラグゼーション誘発性不安を高める原因
1. 慣れない感覚に対する不安
普段からストレスや緊張の多い生活を送っていると、体が「緊張状態」を日常的な状態として認識します。その結果、リラックスした状態が「非日常的な状態」と感じられ、不安を誘発します。
交感神経が日常的に優位なため、副交感神経の状態に不安を感じる。
例:
・仕事が忙しく、常に期限を意識している人が、休日になると逆に「何もしないこと」に落ち着かなくなる。
2. 抑圧されていた感情が表面化する
リラックスすると、普段は意識に上がらないよう抑え込んでいた感情や思考が浮かび上がります。これらはトラウマや未解決の問題が影響していることが多く、不安を感じる原因となります。
例:
・静かに過ごしていると、急に過去の失敗や辛い出来事が頭に浮かび、不安感が高まる。
3. 完璧主義的な思考
「リラックスを完璧にやらなければならない」というプレッシャーが、逆に不安感を増幅させる場合があります。完璧主義の人は、リラックスがうまくいかないと自己否定に陥りやすい傾向があります。
例:
・ヨガのポーズが理想通りにできないことでストレスを感じる。
リラクゼーション誘発性不安への具体的な対処法
リラクゼーション誘発性不安は、リラックス中に不安を感じる心理現象です。
この不安を軽減し、リラックスをよりポジティブな体験に変えるために、以下の対処法を試してみてください。
1. リラックスの不快感を「サイン」として受け止める
リラックス中の不快感は、自分の心や体が「まだリラックスを恐れている状態」にあることを示すサインです。これを受け入れ、無理にリラックスを目指さないことが重要です。
理由:
不快感を感じても、それを否定せず「今はリラックスが少し怖いんだ」と理解することで、気負わずにリラックスを目指せます。
具体的な方法:
リラックスを試みる際に不安が生じた場合、「今はまだリラックスに慣れていないだけだから、少しずつリラックスに慣れていこう」と自分に語り掛ける。
2. 少しずつリラックスに慣れる
リラックスに対する不安を減らすには、少しずつリラックス体験に慣れていくことが有効です。
これは心理療法の一つである「エクスポージャー法」にも基づいています。
理由:
リラックス体験を短時間から始めて少しずつに慣れることで、不安を和らげ、リラックスを心地よいものとして受け入れられるようになります。結果、リラグゼーション誘発性不安がなくなっていきます。
ペンシルベニア州立大学2018年の研究では、全般性不安障害の方も治療終了までに「リラックス誘発性不安」に完全に慣れている人は治療に最適に反応したと、結果が出ています。
具体的な方法:
1日数回に分けて、深呼吸を取り入れて、リラックス状態に慣れていく。
①深呼吸3回。不安や緊張感がなければ②へ
②腹式呼吸を1分間。不安や緊張感がなければ③へ
③腹式呼吸を3分間、5分間と時間をのばしていく。
※呼吸法以外のリラックスも、少しずつ時間を伸ばしながら慣れていくことが大事。
3. リラックス中に不快に感じたらやめる
リラックス中に不安や不快感が高まる場合は、無理せず中断しましょう。
理由:
リラックス中の不安が強ければ強いほど、リラックス自体が嫌な体験として記憶されてしまい、リラグゼーション誘発性不安誘発不安が高まってしまいます。
ペンシルベニア州立大学2018年の研究では、1 回のセッションでもピークのリラックス誘発性不安のレベルが特に高ければ、効果が減ると、結果がでています。
関連:記憶の残る仕組み「ピークエンドの法則」とは?
具体的な方法:
・リラックス中に不快感を感じ始めたら、すぐに中断する。
・「心地よい」と感じるところで終えるように意識する。
4.リラックス後に気分転換をする
リラックス後にポジティブな気分転換をすることで、リラックス体験を良い記憶として残せます。
理由
最後の体験がその全体の印象を左右するため、リラックス後にポジティブな行動を取り入れることで、リラックスの良い印象を強化できます。
ペンシルベニア州立大学の2019年の研究では、リラクゼーションセッションを受けた後、ネガティブな感情を誘発する映像(恐怖や悲しみを描写した映画のシーン)を視聴すると、リラックス誘発性不安を引き起こす結果がでています。
関連:行動のポジティブ強化「ポジティブリインフォースメント」
具体的な方法:
リラックス後に、好きな音楽を聴く、動画を見る、軽いお散歩をするなど、ポジティブな行動を取り入れる。
5. リラックス感覚をポジティブに捉えなおす
リラックス時に感じる体の感覚を、ネガティブに捉えるのではなく、体や心が回復している証拠だとポジティブに再解釈しましょう。
理由
リラグゼーション誘発性不安の原因が、リラックス中の不安や不快感のため。
具体的な方法
リラックス中の感覚に対し、自分にポジティブな言葉をかける
「血が巡って、体が回復している感じがする」
「体がリラックスして、力が抜けている証拠だ」
※自分に合ったポジティブな捉え方を見つけることが重要
【動画】リラクゼーション誘発性不安に関連する悩み
リラクゼーション誘発性不安の理解と対処法のまとめ
リラクゼーション誘発性不安(RIA)は、リラックスを試みる際に不安や緊張を感じる現象で、ストレスの多い現代社会や慢性的な緊張状態がその背景にあります。多くの人が「リラックス=安らぎ」と捉える一方で、一部の人にとってはリラックスそのものが不安のトリガーとなり、日常生活に影響を与えています。
リラクゼーション誘発性不安の主な症状は、リラックス中の緊張感や心拍数の上昇、未解決の問題が浮かび上がること、リラックスそのものへの否定的な解釈などが挙げられます。また、慣れない感覚や抑圧された感情の浮上、完璧主義的な思考が不安を増幅する要因となっています。
対処法としては、リラックスに伴う不快感を「サイン」として受け入れること、短時間からリラックスに慣れていくこと、リラックス中に不快感を感じたら中断することなどが効果的です。また、リラックス感覚をポジティブに捉えなおし、リラックス後には気分転換を取り入れることで、リラックスに対する良い印象を形成できます。
リラクゼーション誘発性不安は簡単に克服できるものではありませんが、少しずつ慣れていくことで、不安を軽減し、リラックスを心地よい体験に変えることが可能です。自分に合った方法で無理なく取り組み、リラックスを取り戻す一歩を踏み出しましょう。