現代のマーケティングは、単に「良い商品をつくる」だけでは成功できません。
消費者の価値観が多様化し、競合がひしめく市場では、「誰に、何を、どのように届けるか」という戦略的な視点が不可欠です。
そこで注目されるのが、STP(セグメンテーション・ターゲティング・ポジショニング)というフレームワーク。
市場を適切に細分化し、最も価値の高いターゲットを選び、そのニーズに合ったメッセージを明確に届けることで、マーケティングの成果を最大化することができます。
本記事では、STPの基本から、実務に活かせる実践ポイントまでを詳しく解説します。
自社の強みを正しく伝え、顧客に選ばれるブランドになるために、今こそSTPを理解しておきましょう。
STPとは?
STPとは、以下の3つのステップを指します:
- セグメンテーション(Segmentation):市場を特性に応じて細分化する
- ターゲティング(Targeting):最も有望な市場セグメントを選定する
- ポジショニング(Positioning):競争優位性を築き、ブランドの立ち位置を明確にする
これらを戦略的に活用することで、企業は顧客ニーズに即した最適なマーケティング戦略を展開することができます。
STPが大事な理由
STP(セグメンテーション・ターゲティング・ポジショニング)が重要な理由は、「誰に」「何を」「どうやって」届けるかを明確にすることで、マーケティングの無駄をなくし、効果を最大化できるからです。
具体的には以下のような点で重要です:
1. 顧客ニーズの多様化に対応できる
現代の市場には、「価格重視の人」「品質を重視する人」「環境への配慮を気にする人」など、さまざまな価値観を持つ消費者が存在します。
例えば、同じ「シャンプー」を販売する場合でも:
- 敏感肌の人向けの低刺激商品
- 美容重視の人向けの高機能商品
- 環境意識の高い人向けのオーガニック商品
のように、ニーズに応じた商品やメッセージを用意することで、より多くの顧客に「自分に合っている」と感じてもらえます。
STPを活用すると、このようなニーズの違いを把握し、それぞれに最適なアプローチを設計することが可能になります。
2. 効果的なリソース配分ができる
企業には限られた「お金・人・時間」というリソースしかありません。すべての人にアプローチしようとすると、コストがかさみ、効果も分散してしまいます。
そこでSTPを使って、「本当に買ってくれそうな人たち=ターゲット」に絞ってアプローチすることで、少ないリソースでも大きな成果を出すことができます。
例えば:
- 新しいスポーツドリンクを開発した場合、全年齢に広告を出すよりも、
- 「毎日運動をしている20〜30代の男性」に絞って広告を出す方が、
→ 広告費のムダが減り、売上につながる確率もアップします。
このように、STPはリソースの「集中と選択」を可能にし、効率の良いマーケティング投資を実現します。
3. 競争優位性を築ける
多くの商品やサービスが溢れる中で、ただ「良いもの」だけでは選ばれません。顧客に「このブランドは、自分にぴったりだ」と感じてもらうことが重要です。
そこで活躍するのがポジショニングです。
例えば
- スマートフォン市場では、Appleは「デザインと操作性で洗練されたライフスタイルを提供」
- 一方で、Xiaomiは「高機能ながら低価格でコスパ重視」とポジショニングしています。
このように、「誰のために、どんな価値を提供しているか」を明確にすることで、競合と差別化された独自の立ち位置(ポジション)を築けます。
結果として、顧客の記憶に残りやすくなり、価格競争に巻き込まれにくくなるのです。
4. 顧客ロイヤルティの向上
STP戦略で「自分のためのブランドだ」と感じてもらえれば、顧客の満足度やロイヤルティが高まり、長期的な関係構築が可能になります。
つまり、STPは単なるマーケティング手法ではなく、戦略的な意思決定の基盤なのです。
セグメンテーション(Segmentation):市場を細分化する
市場セグメンテーションとは?
市場セグメンテーションは、購入者のグループを市場の特性と傾向を決定するさまざまな変数に従って分割し、プロファイル化するプロセスです。
これにより、企業は顧客のニーズに合った製品・サービスを提供しやすくなります。
セグメンテーションの主な4つの基準基準
1. 地理的セグメンテーション(Geographic)
地域や場所に基づいて市場を分類します。
主な変数:
- 国/地域(例:日本、関東、関西)
- 気候(例:寒冷地向けの暖房器具、南国向けの冷感素材衣類)
- 都市の規模・人口密度(例:都市部と地方ではニーズや購買行動が異なる)
具体例:
- コンビニで売られるおでんは冬季に東北地方で人気ですが、沖縄では売られない場合もある。
2. 人口統計的セグメンテーション(Demographic)
年齢・性別・職業・家族構成など、客観的な属性に基づく分類です。最も一般的かつ多くの企業で使われています。
主な変数:
- 年齢(例:子ども向け、シニア向け商品)
- 性別(例:女性向けコスメ、男性用スキンケア)
- 職業(例:学生、会社員、自営業者)
- 収入(例:高級ブランド vs 格安ブランド)
- 学歴、家族構成(例:単身者向けの小容量食品)
具体例:
- ベビー用品メーカーは「0~2歳の子どもがいる家庭の母親」を主ターゲットに設定。
3. 心理的セグメンテーション(Psychographic)
人々の価値観やライフスタイル、性格、興味・関心に基づく分類です。より深く消費者の「心の動き」に迫る分析ができます。
主な変数:
- ライフスタイル(例:健康志向、アウトドア派、ミニマリスト)
- 価値観(例:環境保護を重視、安全性重視、利便性重視)
- 性格(例:冒険好き、保守的)
- 興味・関心(例:アニメ好き、料理好き、旅行好き)
具体例:
- サステナブル志向の若者向けに「エコ素材のアパレル商品」を展開するブランド。
4. 行動的セグメンテーション(Behavioral)
消費者の行動や購買パターンに基づく分類です。購買頻度やロイヤルティなど、実際のアクションからニーズを推測します。
主な変数:
- 購買頻度(例:常連客 vs 初回購入者)
- 使用状況(例:日常的に使う vs 特別な日にだけ使う)
- ブランドロイヤルティ(例:いつも同じブランドを買う)
- 購入のタイミング(例:誕生日プレゼント、季節限定)
具体例:
- 飛行機のマイレージプログラムは、「よく利用する顧客」に特典を与え、ロイヤルティを高める戦略。
このように、4つの基準をうまく使い分けたり組み合わせたりすることで、ターゲット顧客の姿をより明確に描き出すことが可能になります。
市場セグメントを定義する際に重視すべき4つの特性
1. 測定可能性(Measurability)
そのセグメントの規模や特徴、購買行動が数値やデータとして把握できるかどうかを意味します。
ポイント:
- 客観的なデータがなければ、正確なマーケティング戦略を立てにくくなる。
- セグメントの大きさ、成長性、消費傾向が見えるかが重要。
具体例:
- 「東京23区に住む20代女性の一人暮らし層」は、人口統計やSNS分析を使って明確に測定できるため、戦略立案に向いている。
2. アクセシビリティ(Accessibility)
そのセグメントに対して、実際に広告・販売活動などのマーケティング施策が届くかどうかを表します。
ポイント:
- 良いセグメントを見つけても、アプローチできなければ意味がない。
- 配送手段、広告媒体、チャネルの有無なども関係する。
具体例:
- 特定の地域の高齢者層が魅力的なセグメントであっても、インターネット広告しか打てない場合、効果的にリーチするのは難しい。
3. 持続可能性(Substantiality)
そのセグメントが十分な規模・収益性を持ち、ビジネスとして成り立つかどうかを指します。
ポイント:
- どれだけ明確なセグメントでも、あまりに小さく、利益が見込めなければ実行は難しい。
- 「ニッチすぎる=リスクが高い」こともある。
具体例:
- 月に数人しか利用しないような超限定的ニーズ向けの製品は、開発コストに見合わない場合がある。
4. 実行可能性(Actionability)
自社がそのセグメントに対して、適切な製品・サービス・戦略を展開できるかという視点です。
ポイント:
- 魅力的でアクセス可能でも、自社の強み・体制・予算で実際に対応できなければ意味がない。
具体例:
- 海外の富裕層向けに高級ファッションを販売したくても、自社に海外展開のノウハウやブランド力がなければ実行は困難。
この4つの視点をバランスよく検討することで、「実現性があり、かつ効果的なセグメント選定」が可能になります。
市場セグメントの決定方法
市場を効果的にセグメント化するためには、「分析アプローチ」と「発見アプローチ」という2つの方法があります。それぞれ異なる視点から市場を捉えるため、状況に応じて使い分けたり、組み合わせることが重要です。
1. 分析アプローチ(Analytical Approach)
既存のデータや数値に基づいて市場を分類する方法です。マーケティングリサーチや販売データ、顧客データベースなどを活用して、過去の行動や傾向からセグメントを特定します。
活用する主なデータ:
- 顧客の購買履歴
- アンケート結果
- ウェブサイトのアクセスデータ
- 顧客属性情報(年齢・性別など)
具体例:
- ECサイトで「よく購入されている商品の傾向」を分析し、「リピーター向け」「初回購入者向け」などのセグメントを形成する。
特徴:
- 客観的・再現性が高い
- データが豊富な場合に有効
2. 発見アプローチ(Discovery Approach)
市場の観察や直感、現場の声などから新たなニーズやセグメントを見つける方法です。まだ顕在化していない需要や、従来の枠に収まらないユニークなターゲットを見つけ出すのに向いています。
活用する情報源:
- 店舗スタッフの声
- 顧客インタビューやSNS投稿
- トレンドの兆し(社会・文化的な変化)
具体例:
- SNS上で「ある商品が特定の趣味層に人気」と判明し、その層を新しいターゲットセグメントとして認識する。
特徴:
- イノベーションの源になる
- 主観的だが新しい可能性を発見しやすい
両方を組み合わせると効果的
企業はこれら2つのアプローチをバランスよく活用することで、より正確かつ柔軟にターゲット市場を特定できます。
たとえば:
- 分析アプローチで主要顧客層を特定し、
- 発見アプローチで新たな潜在市場(例:Z世代の特定サブカル層など)を探索する
といった具合です。
ターゲティング(Targeting):ターゲット市場を選定する
ターゲティングは、セグメント化した市場の中から、最も収益性が高く、ビジネスに適したターゲット市場を選定するプロセスです。
ターゲティングの主な4つの戦略
1. 無差別型マーケティング(Mass Marketing)
市場全体を1つの大きなターゲットと見なし、すべての消費者に同じ製品・同じメッセージを提供する戦略です。
特徴:
- 製品の種類を絞り、コストを削減しやすい
- 広範な顧客層に対する知名度向上に有効
主な用途:
- 日用品や基本的な消費財など、ニーズが広く共通している商品
具体例:
- 「砂糖」や「食塩」のような日常的に使われる商品は、誰が使っても同じ価値があるため、無差別に販売されることが多い。
2. 差別型マーケティング(Segmented Marketing)
市場をいくつかのセグメントに分け、それぞれに異なる製品・広告戦略を展開する方法です。
特徴:
- 各セグメントのニーズに応えることで、顧客満足度を高めやすい
- 製品開発や広告コストはやや増えるが、効果も大きい
主な用途:
- 商品バリエーションが豊富なブランド
- 異なる属性・嗜好の顧客層を複数抱える業種
具体例:
- 化粧品ブランドが「乾燥肌用」「脂性肌用」「敏感肌用」など肌質別に商品を開発し、異なる広告を打つ。
3. ニッチマーケティング(Niche Marketing)
市場の中でも特に規模の小さいが明確なニーズを持つセグメントに特化する戦略です。
特徴:
- 競争相手が少なく、高い専門性が求められる
- 顧客との関係性が深まりやすく、ロイヤルティが高くなりやすい
主な用途:
- 大企業ではカバーしにくい細かな市場
- 特定趣味・志向・価値観を持つ層に向けた商品
具体例:
- 「完全菜食主義者(ビーガン)」向けの食品ブランドは、ニッチ層に特化しているが、強いブランド支持を得やすい。
4. マイクロマーケティング(Micro Marketing)
個々の顧客やごく狭い地域に合わせて、きめ細かく商品・サービスをカスタマイズする戦略です。
特徴:
- 顧客ごとのニーズに合わせられるため、高いパーソナライズ効果
- データ活用・テクノロジーの進化により近年増加中
主な用途:
- 地域密着型のサービス
- パーソナライズされた広告(AI、CRMを活用)
具体例:
- スーパーマーケットが地域の季節行事に合わせて独自の販促キャンペーンを行う
- ECサイトが顧客の閲覧履歴に基づいて「あなたへのおすすめ商品」を表示する
このように、製品や業界、ターゲットの特徴によって最適なターゲティング戦略は異なります。複数の戦略を組み合わせることも可能です。
ターゲティングの進化:デジタル時代のターゲティング
近年、ターゲティングは従来の広告(テレビ、新聞、雑誌)から、データ駆動型の行動ターゲティングへと進化しました。企業はクッキー情報やSNSデータを活用し、より精度の高いターゲティングが可能になっています。
ポジショニング(Positioning):市場での立ち位置を明確にする
ポジショニングとは、「このブランドは〇〇のためのもの」というイメージを顧客の中に築くことです。大きく分けて、以下の3つのアプローチがあります。
1. 機能的ポジショニング(Functional Positioning)
製品・サービスの性能や機能面で差別化する戦略です。
特徴:
- 実用的な価値に焦点を当てる
- 論理的・具体的な優位性を強調
- 技術力・品質の高さをアピールするのに最適
主な訴求ポイント:
- 高性能(速い・強い・高解像度など)
- 高品質(長持ち、安全性が高いなど)
- 機能の独自性(他にない便利な使い方)
具体例:
- スマートフォン: 「高画質カメラ搭載」や「バッテリー長持ち」など、機能を前面に出して他社と差別化
- 洗濯機: 節水・時短機能で、共働き世帯をターゲットにする
2. 象徴的ポジショニング(Symbolic Positioning)
ブランドのイメージや価値観、ライフスタイルへの訴求を通じて、消費者の感情的・社会的ニーズに応える戦略です。
特徴:
- 社会的承認や自己表現を重視する層に響く
- ステータス、アイデンティティ、所属感などがキーワード
- 機能ではなく「意味」を売る
主な訴求ポイント:
- 高級感やエリート性
- ブランドの世界観や哲学
- 所有することで得られる「優越感」や「特別感」
具体例:
- 高級時計ブランド(ロレックスなど): 「成功者の証」として象徴的な価値を提供
- Apple: 技術面も優れているが、「革新性」や「クリエイティブな人が使う」イメージが強い
3. 経験的ポジショニング(Experiential Positioning)
顧客が商品やサービスを利用する過程で得られる感覚・感情・体験に訴える戦略です。
特徴:
- 楽しさ、快適さ、安心感、ワクワク感など感情面に訴える
- 商品そのものだけでなく、「使うシーン」や「体験全体」を重要視
- B2C商材(特に飲食・小売・エンタメ)と相性が良い
主な訴求ポイント:
- 心地よさや満足感
- 空間やサービス体験の心地よさ
- 「思い出に残る体験」
具体例:
- スターバックス: 「コーヒーを飲む場所」ではなく、「くつろげる空間と体験」を提供することを重視
- テーマパーク(ディズニーなど): 世界観や感動体験そのものが商品価値になる
3つのポジショニングは組み合わせも可能
実際のブランド戦略では、これらを単独で使うのではなく、組み合わせて設計するケースも多く見られます。
たとえば:
- Appleは「機能的(高性能)」「象徴的(創造性の象徴)」「経験的(洗練されたユーザー体験)」のすべてを持っています。
B2CとB2BのSTP戦略の違い
STP(セグメンテーション・ターゲティング・ポジショニング)は、B2CとB2Bのどちらにも使える戦略フレームワークですが、顧客の性質や意思決定のプロセスが異なるため、アプローチ方法も異なります。
【B2C】一般消費者向けマーケティングのSTP
セグメンテーション
- 人口統計的(年齢・性別など)や心理的(ライフスタイル・価値観)な軸での分類が多い
- 感情や趣味・行動傾向を重視
例:
- 20代の「美容意識が高い女性」
- SNSを活用する「トレンド感度の高い層」
ターゲティング
- より広範な市場から、共通の価値観や嗜好を持つグループを絞ってアプローチ
- 「自分ごと」として受け取られるような広告や体験を重視
例:
- Nike: 「ただのスポーツ用品ではなく、“自分を高める手段”としてのブランド」を訴求
ポジショニング
- 感情・体験・世界観への訴求が中心
- ブランドの「物語性」「共感」「自己表現との一致」を大切にする
例:
- Apple:「あなたは他の人とは違う」=クリエイティブなライフスタイルの象徴
【B2B】企業向けマーケティングのSTP
セグメンテーション
- 業種、企業規模、取引形態、課題(業務効率・コスト削減)などが中心
- 「合理性」と「ニーズの緊急性」で分類されることが多い
例:
- 中小製造業で「IT化が遅れている工場」
- 年商10億円以上で「営業自動化を検討中の企業」
ターゲティング
- キーパーソン(経営者、部門長など)に向けて、ニーズと導入メリットが明確な提案を行う
- ROI(費用対効果)や信頼性が非常に重視される
例:
- クラウドサービス: 「月〇万円で、業務時間を30%削減」など、数値的根拠を提示する
ポジショニング
- 課題解決力や実績、サポート体制、専門性で差別化
- 「選ばれる理由」を論理的に伝える必要がある
例:
- Salesforce: 世界中の企業が導入=信頼・実績の象徴
感情と論理、個人と組織の違い
比較項目 | B2C | B2B |
---|---|---|
セグメント軸 | 感情・ライフスタイル・趣味嗜好 | 業種・規模・課題・業務内容 |
ターゲティング | ブランド共感・ライフスタイル重視 | 導入メリット・費用対効果重視 |
ポジショニング | 感情・共感・体験に訴える | 論理・信頼・実績で説得 |
B2Cでは「心を動かすこと」、B2Bでは「頭を納得させること」がカギになります。
まとめ:STPを活用して成功するマーケティング戦略を構築しよう
STP(セグメンテーション・ターゲティング・ポジショニング)は、顧客の多様なニーズに応え、限られた経営資源を最大限に活かすための、極めて実践的なフレームワークです。
- セグメンテーションによって市場を細分化し、
- ターゲティングによって最も効果的な顧客層を見極め、
- ポジショニングによって競合と差別化された明確な立ち位置を築く。
この3つの視点を体系的に活用することで、企業は単なる製品の提供者ではなく、「選ばれるブランド」へと進化することができます。
マーケティング成果に伸び悩む企業こそ、STPを見直すことで、新たな可能性と成果への突破口が見えてくるはずです。