慢性痛に対する認知行動療法は、「痛みを完全に消す治療」というよりも、「痛みとともによりよく生活できる状態を目指す治療」といえます。
近年の研究では、痛みの強さそのものだけでなく、生活の質(QOL)、気分の落ち込みや不安、さらには社会生活への参加といった幅広い側面に良い影響を与えることが示されています。
痛みは身体だけの問題ではなく、心理的・社会的要因とも密接に関わっています。
そのため、考え方や行動のパターンを整えることで、痛みの感じ方や生活への影響が変化する可能性があります。
では、痛みの認知行動療法について、詳しくお伝えしていきます。
痛みの認知行動療法とは?
痛みの認知行動療法とは、慢性的な痛み(3か月以上続く痛み)に対して行われる心理療法です。
Cognitive Behavioral Therapy for Chronic Pain(CBT-CP) とも呼ばれます。
目的は「痛みを完全に消すこと」ではなく、痛みに振り回されず生活できるようにすることです。
なぜ心理療法で痛みが変わるの?
慢性痛では、
- 神経が過敏になっている
- 不安やストレスで痛みが増幅する
- 「動いたら悪化する」という恐怖で活動量が低下する
といった悪循環が起きます。
認知行動療法はこの悪循環を断ち切る治療です。
痛みの認知行動療法の具体的な5つのやり方
① 痛みの仕組みを学ぶ(ペインエデュケーション)
慢性痛では、とくに次の理解が大切です。
- 痛み=組織の損傷の量と“常に一致するわけではない”
- 痛みは「体からの警報」だけど、警報が過敏になって鳴りやすくなることがある
- ストレス、不安、睡眠不足、過労などで痛みは増幅しやすい
「痛い=壊れている=動くと危険」と思うほど、人は動かなくなります。
すると筋力や体力が落ち、気分も落ち、結果的に痛みが増えやすくなる…という悪循環に入ります。
ペインエデュケーションの狙いは、
“必要以上に怖がらない”ための理解を作ることです。
※もちろん、急な強い痛み、しびれや麻痺、発熱、原因不明の体重減少などがある場合は、心理療法より先に医療機関での評価が優先です。
② 思考の見直し(認知再構成)
痛いときに浮かびやすい「自動思考(瞬間的な考え)」をつかまえて、
極端さ・決めつけを少し現実的に整えます。
よくあるパターン:
- 破局化:「もう終わりだ」「一生治らない」
- 予測のしすぎ:「動いたら絶対悪化する」
- 全か無か:「できない=ダメ」
具体的なやり方(短い型)
- 状況:いつ・どこで・何をして痛んだ?
- 自動思考:その瞬間に頭に浮かんだ言葉は?
- 気分・身体反応:不安は何点?体はどう固まる?
- 根拠:本当に100%そう言える証拠は?逆の例は?
- バランス思考:もう少し現実的に言い直すと?
例)
❌「もう治らない」
→ 根拠:痛い日が続いている
→ 逆の例:軽い日もある/対処で楽になる瞬間がある
⭕「波はある。悪い日もあるが、睡眠や負荷調整で軽くなる日も作れる」
ポイントは前向きにすることより、“正確さ”を上げることです。
③ ペーシング(活動量の調整)
慢性痛で多いのが「ブンブン→ガタン」パターンです。
- 痛みが軽い日に頑張る(家事・仕事・運動を一気に)
- 翌日〜数日悪化して寝込む
- 体力が落ちる
- さらに痛みが出やすくなる
コツは「良い日でもやりすぎない」です。
手順(実用的)
- まず「今の安定量(悪化しにくい量)」を探す
例:散歩10分ならOK、15分だと翌日悪化…など - 少し余裕のある所で止める(8割で止めるイメージ)
- できたら、週ごとに5〜10%だけ増やす
また、家事や作業は
- 連続30分 → 休憩5分
のように「小分け+休憩」を最初から組み込みます。
④ リラクゼーション(呼吸法・筋弛緩法・マインドフルネス)
慢性痛では、痛みそのものに加えて
- 体の緊張
- 交感神経の高ぶり(警戒モード)
が痛みを増幅しやすいです。
リラクゼーションは、**神経の過敏さを落ち着かせる“土台づくり”**です。
具体例(簡易版)
- 鼻から4秒吸う
- 口 or 鼻から6秒吐く
- これを10回
「吐く」を長めにすると落ち着きやすいです。
- 肩をすくめて5秒力を入れる
- スッと抜いて10秒ゆるめる
これを2〜3回。
「力を抜く感覚」を体に教えます。
- 痛みを消そうとせず
- 呼吸や足裏の感覚に注意を向ける
- それてOK、気づいたら戻す
これは「痛みがあっても注意の主導権を取り戻す」練習です。
⑤ 行動活性化(
痛みが続くと、自然に生活が縮みます。
痛み → 外出減少 → 楽しみ減少 → 気分低下
→ 体力低下・睡眠悪化 → 痛み悪化
行動活性化は、ここを小さく断ち切る方法です。
ポイントは「気分が上がったらやる」ではなく、“少しやるから気分が動く”です。
実践のコツ
- 目標は小さく:
「散歩30分」ではなく「玄関まで」「1分外気」でもOK - “価値”に沿って選ぶ:
例)家族、仕事、健康、趣味、友人など - 記録する:
「やった/やってない」より
やった後の気分・痛みの変化をメモ
使い方のおすすめ(迷ったらこの順)
- 呼吸法(④):即日できる
- ペーシング(③):悪化の波を小さくする
- 行動活性化(⑤):生活を戻す
- 認知再構成(②):不安と予測を整える
- 教育(①):全体の理解を深めて継続力を上げる
痛みの認知行動療法の効果
慢性痛に対する Cognitive Behavioral Therapy for Chronic Pain(CBT-CP) は、多くの臨床研究で効果が検証されています。その特徴は、「痛みを完全に消すこと」を目標にするのではなく、痛みによる生活への支障や心理的な苦痛を軽減することにあります。
研究では、痛みの強さそのものが軽くなることも確認されていますが、その変化は劇的というよりも中等度から軽度の改善が積み重なる形で現れることが多いとされています。重要なのは、痛みの数値的な強さだけでなく、痛みに対する恐怖や破局的思考(「もう治らない」「動いたら悪化する」といった極端な予測)が減少し、痛みに振り回される感覚が弱まる点です。その結果、「痛みはあるが、以前よりも対処できている」と感じられるようになることが多いのです。
また、生活の質(QOL)の改善も大きなポイントです。活動量が安定し、睡眠が整い、日常の役割や楽しみが少しずつ回復することで、「できること」が増えていきます。痛みの強さが同じであっても、生活の満足度や自信が向上するケースは少なくありません。
さらに、不安や抑うつの軽減も重要な効果です。慢性痛は気分の落ち込みや将来への不安と強く結びついていますが、認知行動療法によって思考や行動のパターンが整うと、心理的な安定が得られやすくなります。気分が安定すると、痛みの感じ方も過度に増幅されにくくなり、悪循環が緩やかになります。
その結果として、社会生活への参加や仕事への復帰が促進されることもあります。ペーシングによって活動が安定し、恐怖回避が減ることで、段階的に生活の範囲が広がっていきます。
特に、慢性腰痛、線維筋痛症、慢性頭痛、慢性関節痛といった疾患では、これらの効果が比較的一貫して報告されています。痛みが完全に消えなくても、「生活が取り戻せる」ことが、痛みの認知行動療法の大きな意義といえるでしょう。

