「習慣逆転トレーニング」(Habit Reversal Training: HRT)は、悪習慣や自分の意図に反する行動を改善し、望ましい行動に置き換えるための行動療法の一つです。トゥーレット症やチック症、抜毛症などの「不随意行動」に対する治療としても効果があるとされ、さらに、爪を噛むや指を鳴らす、食べ過ぎなどの「日常の悪習慣」を改善するためにも活用されています。
このトレーニングの基本的な仕組みは、自分の習慣を認識し、それを意識的に逆転させる行動を取ることです。本記事では、習慣逆転トレーニングの効果や具体的な方法、実践の手順について詳しく解説します。
野上しもん
・29年間の睡眠障害を克服
・5年以上の双極性障害とうつを克服
・上級睡眠健康指導士
・メンタル心理カウンセラー
・食生活アドバイザー
・YouTube「メンタルコーチしもん」登録数1.3万
著書
・眠れない理由を知って眠れる方法を知れば安眠
・脱・中途覚醒 “夜中に目覚める”悩みが消える
・12歳になるまでに読みたい 「子どもの睡眠」
習慣逆転トレーニングが必要とされる理由
1. 悪習慣の形成とその影響
私たちの日常生活には、知らず知らずのうちに習慣化している行動が多くあります。これらの行動が悪影響を及ぼす場合、それらは「悪習慣」として人生の質を低下させる原因となります。例えば、爪を噛む習慣はストレスの一因であり、食べ過ぎは健康問題に繋がります。
2. 悪習慣を改善する難しさ
一度形成された習慣を変えることは難しいと感じる人が多いのではないでしょうか。悪習慣を改善するには、無意識に行っている行動を意識的に認識し、それを別の行動に置き換える必要があります。習慣逆転トレーニングは、このような「意図に反する行動」を管理するための効果的な方法として注目されています。
習慣逆転トレーニングの4つの基本ステップ
習慣逆転トレーニングには、基本的に以下の4つのステップがあります。
1. 気づきの訓練
最初のステップは、無意識的な行動を意識的に認識することです。例えば、爪を噛む人であれば、どのような状況で爪を噛んでしまうのか、その行動が起こるトリガー(手が空いている、ストレスを感じているなど)を理解する必要があります。こうした行動のタイミングや頻度、状況をメモすることで、習慣の原因を明確に把握します。
実践方法
- ノートやアプリに行動の記録をつける。
- 行動が起こるきっかけや状況をメモし、パターンを見つける。
2. 競合反応訓練
次に行うのが「競合反応訓練(Competing Response Training)」です。これは、悪習慣を行うのを防ぐための代替行動を用意するステップです。たとえば、爪を噛む習慣がある場合、手を握る、指先を軽く押さえるなど、噛む行動を妨げる別の動作を代わりに行います。このようにすることで、徐々に悪習慣を減らしていきます。
実践方法
- 具体的な代替行動を設定する。
- 競合する行動を数分間続け、悪習慣が落ち着くまで続ける。
3. 動機付け
習慣逆転トレーニングの継続には、自分を動機づける工夫も重要です。このステップでは、悪習慣が続いた場合のデメリットや、逆に改善することによるメリットを明確に意識し、自分を励まします。例えば、悪習慣が改善されれば、周囲の印象が良くなったり、健康状態が向上したりするなどのポジティブな要因を確認します。
実践方法
- 悪習慣が与えるデメリットを書き出す。
- 悪習慣を克服した後のポジティブなイメージを思い描く。
4. 支援の確保
習慣を変えるには、周囲からの支援が大きな助けになります。家族や友人にトレーニングの内容を共有し、改善への意欲を伝えることで、励ましや支援が得られ、成功率が高まります。また、プロのカウンセラーやコーチのサポートを受けるのも効果的です。
実践方法
- 家族や友人に目標を伝え、サポートを依頼する。
- 必要に応じて専門家の指導を受ける。
習慣逆転トレーニングの具体的な実践例
1. 爪を噛む習慣を改善する
爪を噛む行動が癖になっている人は、まずその行動が発生するトリガー(仕事のストレス、不安感など)を認識します。その上で、爪を噛みたくなったら手を握ったり、ペンを持って手を塞ぐことで、競合反応を使って癖を改善します。さらに、家族に「今日、噛んでいなかったか」を確認してもらい、動機づけと支援を受けながら進めます。
2. 食べ過ぎの改善
食べ過ぎる癖を改善するためには、どのような場面で食べ過ぎてしまうのか(例えば夜中、ストレスを感じたときなど)を記録し、行動パターンを把握します。次に、食べ過ぎたくなったら水を飲む、深呼吸をする、散歩をするなどの競合反応を取り入れて、気持ちを落ち着かせます。また、理想的な体重や健康的な食生活のメリットを常に意識し、家族や友人と進捗を共有することで継続的な支援を確保します。
3. 指鳴らしや髪を触る癖の改善
指鳴らしや髪を触る癖がある場合も、習慣逆転トレーニングが有効です。自分がその行動を取ってしまうタイミングを把握し、代わりに指を組む、手を机に置くなどの競合反応を行います。また、仕事中や勉強中など特定の場面で癖が現れるならば、周囲の人に一言頼んでおき、必要なサポートを受けることも効果的です。
習慣逆転トレーニングのメリット
1. 自分の行動を意識的に管理できる
習慣逆転トレーニングでは、自分の行動をしっかりと認識し、管理するスキルが身につきます。これにより、他の悪習慣や新しい目標に対してもアプローチできる自己管理能力が向上します。
2. ストレス軽減と自己効力感の向上
悪習慣が減ることで、ストレスの原因も取り除かれ、精神的な安定が得られる場合があります。また、自分の行動をコントロールできるようになると自己効力感が高まり、自己肯定感の向上にも繋がります。
3. 健康と生活の質の向上
悪習慣が改善されることで、日常生活の質が向上し、健康状態の改善や社会的な印象が良くなることも多いです。これにより、より充実した生活が実現できるでしょう。
習慣逆転トレーニングのデメリットと注意点
1. 継続が難しい
習慣逆転トレーニングは、最初のうちは意識的な行動を要するため、慣れないと負担に感じることがあります。継続のためにはモチベーション維持が重要で、家族や友人の支援が必要です。
2. 専門的なサポートが必要な場合もある
悪習慣が長期的に続いている場合や、深刻な心の問題に関連している場合は、専門家のサポートが推奨されます。特にトゥーレット症やチック症の治療には、医師や心理療法士の指導が効果的です。
3. 完全な改善には時間がかかる
習慣を改善するには時間がかかることを理解することが大切です。短期的に効果を期待するよりも、長期的に少しずつ悪習慣を改善していく姿勢が求められます。
まとめ:習慣逆転トレーニングで生活を改善しよう
習慣逆転トレーニングは、悪習慣を克服するための有効な方法であり、日常生活の質を向上させるための手段です。日々の生活で気になる癖や悪習慣がある方は、まずは気づきの訓練から始め、少しずつ自分の行動を意識的にコントロールしていくことで、生活の質が大きく向上します。
悪習慣に悩んでいる人は、この記事で紹介したステップを実践し、少しずつ前向きな変化を感じていくことで、自己改善の喜びを実感できるでしょう。