瞑想の実践と瞑想に基づく療法における有害事象:系統的レビュー
この論文は、瞑想の実践によって引き起こされる**有害事象(MAE: Meditation-Associated Adverse Events)**に関する83件の研究を系統的にレビューしたものです。
対象となる瞑想法は、マインドフルネス(MBI: Mindfulness-Based Interventions)や超越瞑想(TM: Transcendental Meditation)などが中心で、アーサナ(ヨガのポーズ)などの身体的要素を伴う介入は除外されました。
レビュー対象は1974年から2019年に発表された論文で、6464人の瞑想者を分析しました。
研究の方法
1. 研究の選定
- タイトルと要約を2名の著者が独立して精査。
- 適格と判断された論文は全文が3名の著者によって確認され、意見が異なる場合は合意に至るまで議論。
2. データ抽出
- サンプルサイズ、瞑想の種類、期間、有害事象の詳細などが抽出されました。
- 不明点がある場合は研究の著者に問い合わせを行いました。
3. リスク評価
- **国立衛生研究所(NIH)**のツールを使い、研究の方法論的品質を評価。
- 実験研究や観察研究のリスクを「高・中・低」で分類しました。
分析対象の研究
- 実験研究およびランダム化比較試験(RCT):54件(参加者2673名)
- 観察研究:14件(参加者4023名)
- 症例研究:15件(参加者31名)
結果概要
MAEの発生率
- 全体的なMAEの発生率:8.3%(95% CI 0.05–0.12)
- 実験研究:3.7%(95% CI 0.02–0.05)
- 観察研究:33.2%(95% CI 0.25–0.41)
➡ 実験研究と観察研究で大きな差が見られました。
観察研究は自己報告が中心で、瞑想の実践状況が管理されていないことが影響した可能性があります。
MAEの種類と頻度
- 精神的有害事象(40件、49%)
- 不安(18件)
- うつ(15件)
- 精神病/妄想(10件)
- 解離(9件)
- 恐怖/パニック(9件)
- 自殺念慮/行動(6件)
- 身体的有害事象(26件、31%)
- ストレス、身体的緊張(11件)
- 痛み(9件)
- 消化器系の不調(6件)
- 神経学的/認知的有害事象(17件、20%)
- 思考の混乱(3件)
- 健忘症、記憶障害(14件)
- 不随意運動や筋肉の収縮(3件)
瞑想中のリスク要因
- 瞑想リトリートへの参加がMAEリスクを高める可能性があります(42%の参加者)。
- 瞑想の実践期間が長いほど、有害事象の頻度が高い傾向がありました。
- 過去の精神疾患歴がMAE発生に関与しているかは不明確。症例研究では、大多数が瞑想前に精神疾患の履歴がありませんでした。
長期的な影響
- 83件の研究のうち**33件(64%)**は、瞑想中または直後にMAEが発生したと報告しています。
- **9件(17%)**は6ヶ月以上持続する長期的な影響を示しました。
問題点と課題
- 有害事象の過小報告:瞑想のポジティブな側面が強調され、ネガティブな結果は報告されにくい傾向があります。
- 標準化の欠如:MAEの評価方法が統一されておらず、自己報告や観察に依存しているため、信頼性にばらつきがあります。
- 実験研究では重篤な有害事象(SAE)のみを報告しており、軽度の影響は見逃されがちです。
瞑想時間・期間に関する記述
- 実験研究やランダム化比較試験(RCT)では、1回あたりの瞑想時間が10分〜45分と記述されています。
- 期間は、4週間〜8週間のプログラムが多く、週1回のクラスと自宅での毎日の瞑想が組み合わされています。
- 例:
- MBSR(マインドフルネスストレス軽減法):1日30〜45分、8週間
- MBCT(マインドフルネス認知療法):1日20〜30分、8週間
- 観察研究では、瞑想経験が数年〜10年以上の長期実践者も対象となっており、1日1時間以上の瞑想を行うケースも含まれています。
- リトリート(集中瞑想合宿):
短期間で集中的に瞑想を行うリトリートでは、1日10時間以上瞑想を続けるケースがありました。
例)ヴィパッサナー瞑想の10日間コースでは、1日10〜12時間の瞑想が行われることがあります。
重要なポイント
- 長時間の瞑想やリトリートで有害事象が報告される傾向がありました。
- 特に、1日1時間以上の長時間瞑想を行う参加者で、不安やうつ、解離などの精神的有害事象が報告されています。
- ただし、瞑想時間が短いから安全というわけではないため、初心者でも短時間の瞑想で不快な体験をすることがあると指摘されています。
防衛策・対応策
- 瞑想指導者や研究者の責任
- 瞑想プログラムでは、有害事象の可能性について事前に参加者へ説明する必要があります。
- 臨床試験には、有害事象が発生する可能性を明記した同意書を導入すべきです。
- 教育とサポート体制の強化
- 苦痛な体験に対処する心理的教育を瞑想プログラムに組み込む。
- 必要に応じて精神的サポートを提供する体制を整える。
- モニタリングとデータ蓄積
- 瞑想体験の積極的なモニタリングが求められます。
- 苦痛な体験を含む瞑想体験のデータ収集と標準評価を進めることが重要です。
今後の研究の必要性
- 有害事象の頻度、種類、長期的影響を明確にするために、大規模かつ質の高い研究が必要です。
- MAEを経験する瞑想者の背景や脆弱性を特定し、リスク管理に役立てる必要があります。
- ポジティブな体験とネガティブな体験の境界を明確にし、文化や宗教的背景がどのように影響するかを調査する必要があります。
結論
瞑想は多くの恩恵をもたらしますが、一定のリスクも伴う実践です。この研究は、瞑想の普及に伴い、潜在的な有害事象への理解と対応の必要性を強調しています。
今後は、個々の瞑想者の状態に応じた適切なガイドラインの確立が求められます。