私たちが毎晩眠るとき、睡眠は「ノンレム睡眠(Non-REM Sleep)」と「レム睡眠(REM Sleep)」の2つの状態が交互に現れます。
このうち、体の疲れを癒し、脳をしっかり休ませてくれるのがノンレム睡眠です。
今回は、その仕組みや役割、そして健康との関係についてわかりやすく解説します!
ノンレム睡眠とは?
ノンレム睡眠とは、深い眠りの状態のことで、脳と体がしっかり休息を取っている重要な睡眠段階です。眠り始めてから最初に訪れ、徐々に深くなっていきます。
「レム睡眠(Rapid Eye Movement)」と対になる概念で、夢を見ることが多いレム睡眠とは異なり、ノンレム睡眠中は夢を見にくく、脳の活動が穏やかになります。
レム睡眠とノンレム睡眠は約90分ごとに交互に現れるため、1晩で何度もノンレム睡眠が訪れますが、最初のサイクルで最も深いノンレム睡眠が得られるのが特徴です。
ノンレム睡眠は3つの段階に分かれる
ノンレム睡眠は、脳の活動が徐々に静かになる深い睡眠の過程です。
眠りが深くなるにつれ、体と脳の回復が進みます。それぞれの段階には特徴があります。
ステージ1(N1:うとうと状態)
眠りに入るごく初期の段階です。
意識はまだ部分的に残っており、周囲の音や刺激に反応しやすい状態です。
まぶたが重くなり、体の筋肉が少しずつリラックスしていきます。この段階では、「ビクッ」と体が動くジャーキング現象(睡眠時ミオクローヌス)が起こることもあります。数分程度で終了し、次の段階へ移行します。
ステージ2(N2:浅い眠り)
眠りが安定し始める段階で、外部からの刺激への反応が減っていきます。
脳波が少しずつ遅くなり、体温・心拍数・呼吸が徐々に低下します。
このステージは、全睡眠時間の約50%を占めると言われており、最も長く滞在する段階です。脳内では「睡眠紡錘波(すいみんぼうすいは)」と呼ばれる特殊な脳波活動が見られ、記憶の定着にも関わっています。
ステージ3(N3:深い眠り・徐波睡眠)
ノンレム睡眠の中で最も深い眠りの段階です。
「徐波(じょは)睡眠」とも呼ばれ、脳波が非常にゆっくりで大きくなるのが特徴です。
この時期は、体の修復・免疫機能の強化・成長ホルモンの分泌など、身体の回復に欠かせない働きが活発になります。目を覚ますのが最も困難な段階で、このタイミングで無理に起こされると強い眠気やだるさを感じやすくなります。
以前はステージ1~4(N1~4)で分類していました。
2007年以降、アメリカ睡眠医学会(AASM)がステージ3と4は統合し、現在のように3段階(ステージ1〜3)に簡略化しました。
理由としては、「ステージ3と4の脳波の違いが微細で、医学的意義に大きな差がない」「現場での分析や診断の効率を高めるため」です。この統合によって、「深い睡眠」は現在の「ステージ3」として扱われています。
ノンレム睡眠がもたらす効果
1. 疲労回復
ノンレム睡眠、得にステージ3(深い睡眠)の時間帯では、成長ホルモン(ヒト成長ホルモン:HGH)が大量に分泌されます。
成長ホルモンは、筋肉や内臓、皮膚などの細胞を修復・再生する作用があります。
日中の活動で傷ついた組織や、運動によって微細な損傷を受けた筋繊維などが、この時間に積極的に修復します。また、成長ホルモンは新陳代謝を促進するため、美肌効果も期待されており、いわゆる「睡眠美容」とも関係があります。
そのため、運動後や疲労の蓄積があるときには、質の良いノンレム睡眠が最も有効な回復手段となるのです。
2. 免疫力の向上
ノンレム睡眠中には、免疫機能を司る白血球やナチュラルキラー細胞(NK細胞)などが活発に働きます。
体内のウイルスや細菌を排除する防御反応を強化し、自然治癒力が高まります。
また、免疫細胞の情報伝達を助けるサイトカインという物質の分泌も増加します。これが、炎症や感染に対抗する重要な役割を担います。
睡眠不足が続くと、この免疫反応が低下し、風邪やインフルエンザにかかりやすくなることが研究でも明らかになっています。
健康を維持し、病気にかかりにくい体を作るためには、深く十分なノンレム睡眠が不可欠です。
3. 脳のデトックス
ノンレム睡眠中、とくに深い段階で、脳内では「グリンパティックシステム(glymphatic system)」と呼ばれる老廃物の排出機構が活性化します。
グリンパティックシステムは、脳脊髄液を使って脳内の不要なタンパク質や老廃物を洗い流す働きをします。
特に「アミロイドβ」と呼ばれる物質は、アルツハイマー病との関連が強く、これが深いノンレム睡眠中に効率よく除去されることがわかっています。十分な睡眠を取ることで、脳の健康を長期的に保つことができ、認知症予防にもつながる可能性があります。
まさにノンレム睡眠は、脳の掃除時間とも言える貴重なプロセスなのです。
4. 記憶の定着
ノンレム睡眠中には、海馬(かいば)と大脳皮質が連携し、日中に得た情報や経験を整理し、短期記憶を長期記憶へと変換する作業を行います。
特にステージ2で見られる「睡眠紡錘波(sleep spindles)」と呼ばれる脳波活動が、このプロセスを支えていると考えられています。勉強や仕事で学んだ知識、感情的な体験なども、この整理整頓の時間に脳内で保存先が決まり、定着していきます。睡眠が不足すると、記憶力の低下や集中力の低下を招きやすく、学習効率が落ちる原因にもなります。
つまり、しっかり眠ることが、「覚える力」を強化する近道なのです。
ノンレム睡眠が不足するとどうなる?
もしノンレム睡眠が十分に取れないと、次のような症状が現れることがあります。
- 慢性的な疲労感
- 集中力や判断力の低下
- 免疫力の低下で風邪を引きやすくなる
- ストレス増加や気分の不安定化
- 生活習慣病のリスク増加
深いノンレム睡眠が不足すると、心身ともに負担がかかり、仕事や学業のパフォーマンス低下や精神的な不調にもつながることがあります。
質の良いノンレム睡眠を得るための4つのポイント
1. 毎日同じ時間に寝る・起きる
規則正しい睡眠スケジュールを保つことは、深いノンレム睡眠(すなわち「ステージ 3」など)を得るうえで非常に重要です。
人間には「体内時計(サーカディアンリズム)」というリズムがあり、一定の時間に就寝・起床を習慣化することでこのリズムが整い、眠りに入りやすく、深く眠りやすくなります。
例えば毎晩同じ時間に布団に入り、毎朝同じ時間に起きるという習慣が、脳と身体に「そろそろ眠る/そろそろ起きる」という信号を与え、眠りの準備が整いやすくなります。
また「早寝早起き」ではなく “早起きを楽にするにはどうすればいいか” という観点も大切です。
つまり、就寝時間を無理に早めるより、起床時間を整えて起きることを習慣化し、そこから逆算して就寝時間を定めると、自然と眠りに入るタイミングが整いやすくなります。
規則的なスケジュールがあることで、就寝直後におとずれる深いノンレム睡眠の効果(身体の回復・脳の整理など)を最大化しやすくなります。
2. 寝る前のスマホやPCを控える
就寝前の電子機器使用を控えることも、質の良いノンレム睡眠を促すうえで重要です。
スマホやパソコンの画面から出る「ブルーライト(青色光)」は、脳を覚醒させる働きがあります。本来、夜はメラトニンという「眠りを促すホルモン」が分泌され始め、身体が“そろそろ眠る”と準備を始める時間です。
しかし、ブルーライトを浴びると、この準備プロセスが妨げられ、眠りに入りづらくなったり、眠りが浅くなったりします。
寝る 1時間前くらいからスマホ・PCを控えることが推奨されます。例えば、就寝30〜60分前には画面から離れ、照明を少し落とす、スマホを見ないようにする、などの工夫が効果的です。
こうした習慣を通じて、寝付きがよくなり、ノンレム睡眠の深い段階(身体・脳の回復モード)にスムーズに移行しやすくなります。
2024年のエチオピアの医学生351名を対象にした研究では、就寝時のスマートフォン使用が2時間を超える学生は、睡眠の質が著しく低くなる傾向がありました。
具体的には、
「スマートフォンを就寝前に2時間以上使用していた学生は、使用しない学生と比べて2.93倍も睡眠の質が悪化。」
「就寝前にスマートフォンを使ってソーシャルメディア(SNS)を利用していた学生は、学業目的で使っていた学生に比べて、約2.92倍も睡眠の質が悪化。」
「スマートフォンをベッドの上に置いて寝る学生は、ベッドの近くに置く学生に比べて、2.87倍も睡眠の質が悪化。」
3.適度な運動を取り入れる
運動習慣も、ノンレム睡眠を質良くするために有効です。ただし「適度に」「就寝前ではない時間に」という条件があります。
日中に 軽い~中程度の運動(ウォーキング、ストレッチ、軽めのジョギングなど)を取り入れることで、身体が適度に疲れ、夜に深く眠る準備が促します。
なぜ「適度」かというと、運動が強すぎる(激しい筋トレや激走など)と、交感神経が活発になったり、筋肉痛や興奮状態が残ったりして、逆に眠りを妨げる要因となるからです。
また、 就寝3時間前までに運動を終えるというのもポイントです。
運動直後は体温が高めだったり、心拍が上がっていたりします。これが寝る直前だと、眠りに入りにくい・深い眠りに移行しづらいといった影響があります。
運動と睡眠の良い関係を保つことで、深いノンレム睡眠の時間が増え、その結果、身体も脳も回復しやすくなります。
4.快適な寝室環境を整える
おすすめの室温は20~22度ぐらいです。
良好な寝室環境の目安の温度と湿度は、
・日本睡眠教育機構によると16~26度、湿度は50~60%ほどです[i]。
・全米の優れた病院2018-2019年度でランキング1位となったメイヨークリニックでは約15.6~21.1度。[ii]
・ハーバード大学の2023年の研究では高齢者は20~25度が理想的と伝えています。[iii]
つまり、全体的に「20~22度」のあたりに最適な室温があると考えられます。
寒さに強い方は20度ぐらい、寒さに弱い方は22度ぐらいをいったん目安にするのがおすすめです。
- 寝る直前に室温を少し下げて、身体の深部体温が自然と下がるようにすると眠りに入りやすい。
- 過度な冷やしすぎ/暖めすぎも要注意。
寒すぎる、暑すぎる寝室では睡眠が断続しやすくなります。 - 寝具やパジャマも、その温度・湿度に適した素材を選ぶことで、快適性が高まります(通気性/保温性など)。
- 寝室の明るさ・音・電子機器のありなしも環境整備の一部として重要です。
ノンレム睡眠を味方にして健康な毎日を
ノンレム睡眠は、単なる「深い眠り」ではなく、体の修復・成長・免疫力向上に欠かせない重要な時間です。質の高いノンレム睡眠を確保することで、心も体も元気になります。
「最近疲れが取れない」「寝てもスッキリしない」と感じている方は、まず睡眠の質を見直してみましょう。

