MECEの本当の役割は、全部を考えることではありません。
考えなくていいことを捨て、本当に重要な問題だけに集中することです。
MECEというと、「漏れなく、ダブりなく、できるだけ全部を考えるための技術」というイメージを持つ人は多いかもしれません。しかし、全体を整理する目的は、すべてを深く考えることではありません。
問題を分け、どこに原因があるのかを見極め、重要でない論点を外していく。
そうすることで、「何を考えるべきか」「次に何をするべきか」が明確になります。この記事では、売上の具体例を使いながら、MECEがなぜ必要なのかを解説します。
もくじ
1.「売上が落ちた」では、何も決められない
2.なぜ、問題はそのままでは考えられないのか?
3.「漏れなく」より先に、「何を決めたいか」があります
4.なぜ「漏れ」と「ダブり」が問題なのか?
5.MECEとは「問題の地図」を作ること
6.MECEの目的は「考えること」ではなく「捨てること」
7.実際には、どう使えばいいのか?
8.MECEを使っても、答えが正しくなるとは限りません
9.MECEを見る目が変わると、問題の見え方も変わります
10.まとめ:MECEを身につければ、複雑な問題も一歩ずつ解ける
1.「売上が落ちた」では、何も決められない
「MECEで考えよう」
仕事をしていると、一度はこんな言葉を聞くことがあります。
MECEとは、簡単に言えば「漏れなく、ダブりなく」物事を分けることです。
たとえば、売上を
- 客数
- 客単価
に分けます。
さらに客数を
- 新規客
- 既存客
に分けます。
こうして物事を整理していきます。ここまでは分かりやすいでしょう。
しかし、ここで一つ疑問が残ります。
なぜ、わざわざ「漏れなく、ダブりなく」分ける必要があるのでしょうか。
単に情報をきれいに整理したいだけなら、MECEでなくてもかまいません。
実は、MECEの本当の価値は「きれいに分類すること」にはありません。
「複雑な問題を、人間が判断できる形に変えること」にあります。
2.なぜ、問題はそのままでは考えられないのか?
たとえば、ある店の売上が落ちたとします。
会議では、こんな意見が出ます。
「広告を増やしたほうがいい」
「価格が高いんじゃないか」
「競合店が増えたからでは?」
「営業力が落ちているのかもしれない」
どれも、もっともらしく聞こえます。
しかし、この状態には問題があります。
話している人それぞれが、別の問題を見ているのです。
広告の話をしている人は新規顧客を見ています。
価格の話をしている人は客単価や購入率を見ています。
競合の話をしている人は市場環境を見ています。
営業力の話をしている人は社内の実行力を見ています。
全部を「売上が落ちた原因」として並べてしまうと、何を比較しているのか分からなくなります。
その結果、会議では大量の意見が出るのに、結局、何をすればいいのか決まりません。
ここでMECEが必要になります。
売上を、まず売上 = 客数 × 客単価と分けてみます。
すると、最初の問いが変わります。
「なぜ売上が落ちたのか?」ではなく、「客数が減ったのか?」「客単価が下がったのか?」になります。もし客単価が変わっておらず、客数だけが20%減っているなら、価格の議論はひとまず後回しにできます。
さらに客数を客数 = 新規客 + 既存客と分けます。
調べてみると、新規客はほとんど変わっていません。減っているのは既存客でした。
さらに見ると、既存顧客の人数そのものではなく、再来店率が落ちていました。
すると、「売上が落ちている」という大きな問題が、「既存顧客の再来店率が落ちている」という具体的な問題に変わります。
広告を増やすべきか。
値下げするべきか。
営業を強化するべきか。
そうした議論をする前に、「なぜ既存顧客が戻ってこなくなったのか?」を調べるべきだと分かります。
MECEによって起きているのは、単なる整理ではありません。
問題の解像度が上がっているのです。
3.「漏れなく」より先に、「何を決めたいか」があります
では、なぜ問題を分ける必要があるのでしょうか。
理由は単純です。
人間は、複雑なものを複雑なまま扱うのが苦手だからです。
「売上が落ちた」という一つの言葉の中には、本当は多くの可能性が入っています。
客数が減ったのかもしれません。
一人あたりの購入額が減ったのかもしれません。
新規客が来なくなったのかもしれません。
既存客が離れているのかもしれません。
商品単価が落ちたのかもしれません。
購入点数が減ったのかもしれません。
これらを全部まとめて「売上低下」と呼んでいます。
つまり、大きな問題とは、多くの場合、複数の小さな問題が混ざった状態です。
混ざったまま考えると、人は目についた原因から考え始めます。
広告担当者なら広告を疑います。
営業担当者なら営業を疑います。
商品担当者なら商品を疑います。
自分がよく知っているものほど、原因に見えやすくなります。
だから、一度問題を分解します。
「何が起きている可能性があるのか」を先に並べます。
そうすると、思いついた原因を追いかける思考から、可能性を比較する思考に変わります。これがMECEを使う大きな理由の一つです。
4.「漏れなく」より先に、「何を決めたいか」があります
ここで、MECEについて少し見方を変える必要があります。
MECEという言葉を聞くと、「完全に漏れなく分類しなければならない」と思いやすくなります。
しかし、実務では必ずしもそうではありません。
たとえば顧客を分類するとします。
年齢別にも分けられます。
地域別にも分けられます。
男女別にも分けられます。
購入頻度別にも分けられます。
購入金額別にも分けられます。
どれも分類としては成立します。
では、どれが正しいMECEなのでしょうか。
答えは、目的によります。
再購入を増やしたいなら、「10代、20代、30代」より、「初回購入者、低頻度購入者、高頻度購入者」と分けたほうが役に立つかもしれません。
物流を改善したいなら、地域別に分けたほうがよいでしょう。
商品企画なら、利用目的別のほうがよいかもしれません。
つまり、MECEには、目的から独立した唯一の正解があるわけではありません。
重要なのは、「何を分けるか」より、「何を判断するために分けるのか」です。
この視点を持つと、MECEは分類テクニックではなくなります。
意思決定のための道具になります。
4.なぜ「漏れ」と「ダブり」が問題なのか?
では、MECEの有名な二つの条件、
①漏れなく
➁ダブりなく
には、どんな意味があるのでしょうか。
まず「漏れ」から考えてみます。
売上低下の原因を、
- 広告
- 営業
- 商品
だけで考えたとします。
もし本当の原因が「既存顧客の離脱」だったらどうなるでしょうか。
候補に入っていないため、そもそも検討されません。
つまり、漏れがあると、存在する問題を、存在しないものとして扱ってしまいます。
意思決定は、自分たちが認識している選択肢の中からしか行えません。
だから「漏れなく考える」必要があります。
一方、ダブりも問題になります。
たとえば、
- 集客不足
- 新規顧客不足
- 広告効果低下
を別々の大問題として扱ったとします。
実際には、三つとも同じ現象の別表現かもしれません。
すると、一つの問題が何度も議論に登場します。
その結果、「どうやら集客が最大の問題らしい」と感じやすくなります。
つまり重複があると、問題の重要度を誤って認識します。
漏れは「見落とし」を生みます。
ダブりは「過大評価」を生みます。
だから、できるだけ漏れと重複を減らします。
これは整理を美しくするためではありません。
判断を間違えにくくするためです。
5.MECEとは「問題の地図」を作ること
旅行するとき、地図がなければ、現在地と目的地の位置関係が分かりません。
問題解決も似ています。
たとえば、「利益を増やしたい」という目標があるとします。
しかし、そのままでは何をすればいいのか分かりません。
そこで、利益 = 売上 − 費用と分けます。
さらに売上を、売上 = 客数 × 客単価と分けます。
費用を、費用 = 固定費 + 変動費と分けます。
すると、
利益
→ 売上 / 費用
→ 客数 / 客単価 / 固定費 / 変動費
という地図ができます。
ここに実際の数字を入れてみます。
すると、
「客数には問題がない」
「客単価にも問題がない」
「変動費も大きく変わっていない」
「固定費だけが大きく増えている」
ということが分かるかもしれません。
問題の場所が分かれば、考える範囲を狭くできます。
これは非常に重要です。
なぜなら、ビジネスでは、すべての問題を同時に解決することはできないからです。
時間も限られています。
人も限られています。
予算も限られています。
だから、「どこに資源を集中するか」を決めなければなりません。
MECEは、そのための地図になります。
6.MECEの目的は「考えること」ではなく「捨てること」
ここまで来ると、MECEには少し意外な側面が見えてきます。
MECEというと、「たくさんの可能性を洗い出す技術」に見えます。
もちろん、それも間違いではありません。
しかし実務では、むしろ逆の役割が重要になります。
考えなくていいことを捨てるために使います。
先ほどの売上の例なら、客単価が変わっていないと分かった時点で、価格や購入点数について深く調べる優先順位は下がります。
新規顧客数が変わっていないなら、新規広告についても後回しにできます。
残った「既存顧客の再来店率」に集中できます。
つまりMECEで全体を見るのは、全部を詳しく調べるためではありません。
重要でない論点を早く消すためでもあります。
問題解決が上手い人は、すべてを考えているわけではありません。
むしろ、「今は何を考えなくていいか」を早く決めています。
MECEは、その判断を助けてくれます。
7.実際には、どう使えばいいのか?
MECEを使うときは、最初から完璧な分類を作ろうとしなくてもかまいません。
まず、次の順番で考えます。
①何を決めたいのかを決める
たとえば、「売上が落ちた理由を知りたい」では少し曖昧です。
「来月の売上を戻すために、優先して改善すべき場所を特定したい」まで具体化すると、必要な分類が見えやすくなります。
➁ 大きな問題を2〜4個程度に分ける
売上なら、客数 × 客単価のように分けます。
ここでは細かくしすぎません。
まず、大きな構造を見ます。
➂数字を入れる
分解するだけでは意味がありません。
どこが実際に変化しているのかを見ます。
客数が前年比80%で、客単価が100%なら、客数側を優先して見ます。
④問題がある場所だけ、さらに分ける
客数が落ちているなら、新規客と既存客に分けます。
既存客が落ちているなら、顧客数と再来店率に分けます。
こうして、問題がある枝だけを深く掘ります。
⑤行動できるところまで具体化
最終的には、「市場環境が悪い」のような大きな説明で終わらせません。
「購入後30日以内の再来店率が落ちている」
「特に初回購入者の再来店率が低下している」
くらいまで絞れれば、次に何を調べるか、何を変えるかを考えられます。
8.MECEを使っても、答えが正しくなるとは限りません
MECEには一つ注意点があります。
きれいに分解できると、「正しく考えられている」ように感じてしまうことです。
しかし、構造がきれいであることと、内容が正しいことは別です。
売上を客数と客単価に分けるのは正しくても、「客数低下の原因は広告不足だ」という仮説まで正しいとは限りません。また、分類する軸そのものが目的に合っていないこともあります。
だからMECEは、答えを出す技術というより、どこを調べれば答えに近づけるかを明確にする技術と考えたほうがよいでしょう。
9.MECEを見る目が変わると、問題の見え方も変わります
MECEは、「漏れなく、ダブりなく分類する方法」と説明されることが多いです。
それ自体は間違っていません。
ただ、それだけではMECEを使う理由が見えにくくなります。
本当に重要なのは、その先にあります。
・複雑な問題を分ける。
・可能性を並べる。
・問題が起きている場所を特定する。
・重要でない論点を捨てる。
・限られた時間や人員を、重要な場所に集中さる。
そうして初めて、「何をするべきか」が見えてきます。
つまりMECEとは、複雑な現実を、人間が理解し、判断し、行動できる形に変える技術です。
そう考えると、「この分類はMECEになっているか?」だけでは不十分だと分かります。
本当に問うべきなのは、「この分け方によって、次に何をすべきか分かるようになったか?」です。
MECEが役に立つかどうかは、そこで決まります。
まとめ:MECEを身につければ、複雑な問題も一歩ずつ解ける
MECEは、物事をきれいに分類するための技術ではありません。
複雑な問題を分け、どこに本当の原因があるのかを見つけ、限られた時間や人・お金を重要な場所へ集中させるための考え方です。
最初から完璧に分ける必要はありません。
「何を決めたいか」を明確にし、大きく分け、数字を見て、問題のある部分だけを深掘りすれば十分です。
MECEを使えるようになると、漠然としていた問題が「次に何をすればいいか分かる問題」に変わります。
考える力とは、すべてを知ることではなく、複雑さを一つずつ扱える形に変えること。その型を身につければ、難しい問題に出会っても、解決への一歩を自分で作れるようになります。


