「IGF-1という名前を、健康診断や病院の説明で初めて聞いた」という方もいるでしょう。
IGF-1は、子どもの身長の伸びに関わるだけでなく、大人の体でも働いている物質です。成長ホルモンと密接に関係しているため、成長の遅れやホルモンの異常を調べる際に、血液検査で測定されることがあります。
では、IGF-1は体のどこで作られ、どのように働くのでしょうか。数値が高ければよいのでしょうか。それとも、低いほうが健康的なのでしょうか。
この記事では、IGF-1の基本的な仕組みから、成長ホルモンとの違い、検査結果の読み方、研究で分かっていることまで、順を追って解説します。
IGF-1とは?体の成長を支える「インスリン様成長因子1」
IGF-1(Insulin-like Growth Factor 1)とは、日本語で「インスリン様成長因子1」と呼ばれる、タンパク質からなる成長因子です。「ソマトメジンC」という名前で表記されることもあります。
名前に「インスリン様」とあるのは、インスリンと構造や作用に似た部分があるためです。ただし、血糖値を調整するインスリンそのものとは異なります。
IGF-1は肝臓を中心に作られ、骨、筋肉などの組織でも産生されます。血液中を流れて全身へ作用する働きと、各組織の近くで働く役割を持っています。
その産生を促す重要なホルモンが、脳の下垂体から分泌される成長ホルモン(GH)です。
成長ホルモンとIGF-1は、どうつながっている?
大まかな流れは次のとおりです。
- 脳の下垂体から成長ホルモン(GH)が分泌される。
- GHが肝臓などの組織に働きかけ、IGF-1の産生を促す。
- IGF-1が骨やさまざまな組織の成長・維持に関わる。
- IGF-1はGHの分泌を調整する仕組みにも関わる。
GHとIGF-1は、どちらか一方だけが働くのではなく、相互に関係する仕組みを作っています。この仕組みは「GH–IGF-1系」と呼ばれます。
なお、GHは一日の中で分泌量が大きく変動します。一方、血液中のIGF-1は比較的安定しているため、医療現場ではGHの働きを評価する重要な手掛かりになります。
IGF-1が持つ3つの主な働き
1. 子どもの骨や体の成長に関わる
IGF-1の代表的な役割が、成長期の骨や組織の発育を支えることです。
特に子どもでは、GH–IGF-1系が身長の伸びに重要な働きをしています。ただし、身長は遺伝、栄養状態、思春期の進み方、病気など、多くの要因によって決まります。「IGF-1が多ければ必ず背が伸びる」という単純な関係ではありません。
2. 細胞や組織の維持に関わる
IGF-1は、細胞の増殖、分化、生存に関係する信号を伝えます。成長期だけでなく、成人の体でも、組織の維持や代謝に関わっています。
ここで注意したいのは、細胞の成長を促す働きがあることと、血中IGF-1を高くすれば健康になれることは別だという点です。体内の成長に関する信号には、適切な調整が必要です。
3. 成長ホルモンの異常を調べる目安になる
IGF-1は、成長ホルモンの分泌が過剰になったり、不足したりする病気の評価に使われます。
例えば、成人でGHが過剰になる先端巨大症が疑われる場合、IGF-1の血液検査が重要な診断の入口になります。一方、子どもの成長の遅れを調べる際にも、他の検査や成長の記録と合わせて使われることがあります。
IGF-1と成長ホルモン・インスリンの違い
名前や働きが似ていても、この3つは同じ物質ではありません。
| 物質 | 主な産生場所 | 主な働き | 検査での位置づけ |
|---|---|---|---|
| 成長ホルモン(GH) | 脳の下垂体 | 成長や代謝の調節、IGF-1産生の促進 | 分泌の刺激・抑制試験などに使用 |
| IGF-1 | 主に肝臓、ほかに各組織 | 骨や組織の成長・維持など | GHの作用を評価する手掛かり |
| インスリン | 膵臓 | 血糖調節など | 糖代謝の評価で使用 |
IGF-1はインスリンに似た作用を一部持ちますが、インスリンの代わりになるわけではありません。
IGF-1が正常に働くメリットとは?
IGF-1の働きは、主に次の3点から理解できます。
- 成長期の発育を支えること: 子どもの骨や組織が成長する過程に関わります。
- 成人の組織や代謝に関わること: 成長が終わった後も、生体の維持に関する信号に参加します。
- 病気を調べる目安になること: GHの過剰・不足などを疑う場合、血液検査が診断の手掛かりになります。
これらは体内での生理的な役割です。健康な人がIGF-1を意図的に増やすことで、同じメリットがさらに強く得られると証明されたわけではありません。
IGF-1が高すぎる・低すぎる場合の問題とは?
IGF-1そのものが「良い物質」「悪い物質」と決まっているわけではありません。年齢などに応じた範囲から外れている場合に、原因を調べる必要があるというのが基本的な考え方です。
IGF-1が高い場合
血中IGF-1の高値は、成長ホルモンが過剰に分泌される状態で見られます。
成人では先端巨大症が代表例です。手足が大きくなる、指輪や靴のサイズが変わる、顔立ちが徐々に変化する、といった症状が手掛かりになることがあります。小児ではGH過剰が過度な身長の伸びにつながる場合があります。
ただし、思春期にはIGF-1が生理的に高くなるため、年齢に合った基準で判断しなければなりません。
IGF-1が低い場合
IGF-1の低値は、GHの分泌不足やGHが十分に作用しない状態のほか、低栄養、肝疾患、甲状腺の病気などでも見られます。また、成人になると年齢とともに値が低下する傾向があります。
したがって、低値という結果だけでGH分泌不全症を診断することはできません。成人では、IGF-1が基準範囲に入っていてもGH分泌不全症が否定できない場合があります。
IGF-1の基準値は?血液検査の見方を4つの手順で解説
IGF-1の検査結果を受け取ったら、単独の数字を見るだけではなく、次の順番で確認しましょう。
1. 年齢・性別に合った基準範囲を見る
IGF-1は幼少期には比較的低く、思春期に高まり、成人後は次第に低下する傾向があります。そのため、全員に共通する一つの正常値はありません。年齢・性別や検査法に合った基準範囲を見る必要があります。
2. 検査機関の基準値と照らし合わせる
同じIGF-1でも、検査方法や使用する基準範囲によって、数値の評価が変わることがあります。以前の結果と比較する場合も、検査機関や方法が同じかを確認しましょう。
3. 体の状態や症状と合わせて考える
成長の経過、食事の状態、体重の変化、既往歴、服用中の薬、肝臓や甲状腺の状態などが解釈に関わる場合があります。
例えば、年齢から予想されるより低い値が出ても、栄養状態などの影響を考える必要があります。
4. 必要なら追加検査について医師に相談する
GHの過剰が疑われるときには、症状やIGF-1の測定結果に応じて追加の評価が行われます。GH分泌不全が疑われる場合には、成長の記録やGH分泌刺激試験なども用いられます。
IGF-1の数値だけで自己診断したり、治療の必要性を決めたりしないことが大切です。
IGF-1と食事・睡眠・運動はどのように関係する?
IGF-1はGHだけでなく、栄養状態やインスリン、年齢などの影響も受けています。では、生活習慣を変えれば、IGF-1を自由に調整できるのでしょうか。
食事・タンパク質との関係
2019年に発表されたシステマティックレビュー・メタ分析では、ヒトの研究をまとめた結果、タンパク質摂取量の増加が血中IGF-1の上昇と関連することが報告されました。一方、通常のカロリー制限がIGF-1を一貫して低下させるとは確認されませんでした。
別の2019年のメタ分析では、断食を取り入れた研究群でIGF-1の低下が観察されています。ただし、研究ごとに食事の制限方法や期間が異なるため、「特定の食事をすれば望ましい値になる」とは言えません。
成長期に必要な栄養を制限したり、検査数値を操作するために極端な断食をしたりすることは、健康管理の方法として勧められません。
睡眠・運動との関係
睡眠や身体活動は成長ホルモン系に関係します。しかし、睡眠時間や運動量を増やせば、誰でも血中IGF-1が一定量上がる、あるいは下がるという単純なものではありません。
睡眠・運動を整える際は、IGF-1の数字を追いかけるのではなく、全体的な健康や体調を目的にするのが適切です。
研究で分かったこと:IGF-1とがんリスクの関係
IGF-1を調べる研究には、細胞の成長を支える作用と、がんとの関係を検討するものもあります。
英国の大規模研究「UK Biobank」の参加者412,645人を追跡した2020年公表の観察研究では、血中IGF-1が高い人ほど、一部のがん(乳がん、前立腺がん、大腸がんなど)の発症率がわずかに高いという関連が報告されました。一方で、別の部位のがんでは逆方向の関連も見られました。
ここで重要なのは、関連が見つかったことは、IGF-1が直接がんを引き起こした証明ではないという点です。食事や生活習慣、ほかの体の状態などが関係している可能性も残ります。
この結果を理由に、自己判断でIGF-1を下げようとする必要があるということでもありません。IGF-1は成長や組織の維持に必要な物質でもあるからです。
IGF-1を理解する具体例:身長の伸びが気になる親子
ここで、架空の親子の話を考えてみましょう。
中学生の息子が「同級生より背が低い」と気にし始め、母親も心配になりました。インターネットで調べると、「IGF-1」という言葉が出てきます。
母親は「IGF-1が少ないから背が伸びないのかもしれない」と思い、検査について小児科で相談することにしました。
診察では、医師がまずこれまでの身長と体重の記録を確認します。いつから成長の速度が変わったのか、思春期がどの程度進んでいるのか、食事や体調に問題がないかを丁寧に調べました。
必要に応じてIGF-1などの検査も検討しますが、検査結果は年齢や成長の経過と一緒に判断します。
母親はそこで、身長の伸びを一つのホルモンの数字だけで説明できないと知りました。
この話は説明のための架空の具体例です。特定の検査結果や治療効果を示した実例ではありません。
IGF-1について知っておきたい注意点と対策
「高ければ高いほどよい」と考えない
IGF-1は成長に必要ですが、過剰なGH–IGF-1系の働きが問題になる病気もあります。数値を上げることを健康の目標にしないようにしましょう。
「低い=成長ホルモン不足」と決めつけない
低栄養や肝疾患など、GHの分泌不足以外でもIGF-1が低くなることがあります。医療機関で原因を確認することが重要です。
サプリメントや極端な食事制限で数値を操作しようとしない
IGF-1に影響する食品や生活習慣の研究はありますが、特定の食品やサプリメントで安全に「最適な値」へ調整できると確立されたわけではありません。
心配な症状があれば専門家に相談する
子どもの成長速度が気になる場合や、成人で手足・顔立ちの変化などがある場合は、医師に相談してください。必要な検査は症状や年齢によって異なります。
まとめ:IGF-1は「多さ」ではなく「適切な働き方」が大切
IGF-1は、主に肝臓で作られ、成長ホルモンと連携して骨やさまざまな組織の成長・維持に関わる物質です。
血液中の値は、成長ホルモンに関連する病気を調べる手掛かりになりますが、年齢、性別、栄養状態などによって変化します。高い・低いという数字だけで、健康状態や病気を判断することはできません。
大切なのは、IGF-1を増やすか減らすかではなく、その人の年齢や体の状態に照らして、適切に働いているかを理解することです。
参考資料・研究論文
- MedlinePlus. IGF-1 (Insulin-like Growth Factor 1) Test. 米国国立医学図書館の検査解説。
- NCBI Bookshelf, Endotext. Normal Physiology of Growth Hormone in Normal Adults. GHとIGF-1の生理学。
- Endocrine Society. Acromegaly: Clinical Practice Guideline. 先端巨大症の診療ガイドライン。
- 日本小児内分泌学会(小児慢性特定疾病情報センター). 成長ホルモン不応性症候群の診断の手引き.
- Effect of calorie restriction or protein intake on circulating levels of insulin like growth factor I in humans: A systematic review and meta-analysis. Clinical Nutrition, 2019. DOI: 10.1016/j.clnu.2019.07.030.
- The influence of fasting and energy restricting diets on IGF-1 levels in humans: A systematic review and meta-analysis. 2019年のメタ分析。
- Circulating Insulin-Like Growth Factor-1 and Risk of Total and 19 Site-Specific Cancers: Cohort Study Analyses from the UK Biobank. 2020年の前向きコホート研究。
- Consensus on criteria for acromegaly diagnosis and remission. 先端巨大症の診断基準についての国際コンセンサス。
本記事は医学・研究情報の一般向け解説です。個別の検査値の解釈、診断、治療については医療機関で相談してください。

