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完璧を目指すほど成績は上がる?エクセレンシズムとの違いを2,157人の研究から解説

「どうせ努力するなら、できる限りよい結果を出したい」。そう思うのは自然なことですよね。

では、「よい結果を目指すこと」と「絶対に完璧でなければならないと思うこと」は、同じなのでしょうか。たとえば大学の試験で、十分に高い成績を目指す人と、すべての科目でA+を取らなければ納得できない人とでは、目標への向き合い方が違うかもしれません。

2022年、Patrick Gaudreauらの研究グループは、心理学誌『Journal of Personality and Social Psychology』に、卓越性の追求(エクセレンシズム)と完璧主義を区別する必要性を検討した論文を発表しました。研究者たちは、5つの研究、合計2,157人のデータを使い、2つの特徴を測り分けられるのか、幸福感や抑うつとの関係に違いがあるのか、そして大学生の学業成績やその後の変化とどう結びつくのかを調べました。

この研究で示されたのは、完璧さへのこだわりを上乗せしても、卓越性の追求を超えるメリットが確認されるとは限らず、学業面ではむしろ不利な関連が見られたということです。5つの研究を順番に見ていきましょう。

エクセレンシズムとは?完璧主義とどう違う?

今回の研究の出発点は、高い水準を目指すことと、欠点のない水準を目指すことを分けるという考え方です。

エクセレンシズムは「高い水準」を目指す

エクセレンシズム(excellencism)は、日本語では「卓越性の追求」などと表せます。非常に高い水準の成果を目指し、努力を重ねながら取り組む傾向です。目標を高く持つことと、完全無欠であることを要求することを区別するための概念です。

完璧主義は「欠点のない水準」まで求める

この論文が採用した「エクセレンシズムと完璧主義のモデル(Model of Excellencism and Perfectionism:MEP)」では、完璧主義(perfectionism)は、優れた成果だけでなく、理想化された欠点のない状態を追い求める傾向として扱われます。

比較する点 エクセレンシズム この研究でいう完璧主義
目標 非常に高い成果 欠点のない、完璧な成果
問いかけの例 「もっとよい仕上がりにできるか?」 「少しでも不完全ならだめではないか?」
研究上の焦点 高水準を追求することの関連 完璧さを求めることを上乗せした場合の関連

※問いかけの例は概念を説明するための表現で、論文の質問項目をそのまま引用したものではありません。

ここで重要なのは、両者を単純な「努力する人」と「努力しない人」の比較にしないことです。どちらも高い水準を目指しているからこそ、その先にある「完璧でなければ」という要求に意味があるのかを検討できるのです。

なぜ「完璧を目指すこと」を別に調べたのか?

これまでの完璧主義研究では、高い目標を持つことが役立つのか、それとも心理的な負担を増やすのかについて議論が続いてきました。

そこでGaudreauは2019年にMEPを提案し、卓越性を追い求めることの効果と、その水準を超えて完璧を要求することの効果を区別して考える枠組みを示しました。

今回の2022年の論文は、このモデルの中心的な考え方を実際のデータで検証した最初の研究報告です。研究者たちは「考え方として違う」だけではなく、「測定できる違いなのか」「結果との結びつき方も違うのか」を確かめようとしました。

2,157人を対象にした5つの研究とは?

この論文は、1回の調査だけで結論を出したものではありません。5つの研究の合計参加者数は2,157人で、測定方法、心理的な指標、大学生の学業成績、時間を追った変化という複数の角度から比較しています。

研究 主に調べたこと 要旨で報告された結果
研究1 2つの特徴を別々に測定できるか 新しい尺度SCOPEの2因子構造を支持
研究2 幸福感・抑うつなどとの関連 完璧主義を加えても追加の利益や害の軽減は見られなかった
研究3 大学生が目指す成績 完璧主義を追求する人は、A+という完全な成績をより目指しやすかった
研究4 大学生が実際に得た成績 完璧を追求する人は、卓越性を追求する人より成績が低かった
研究5 学業上の変化を時間を追って見る 2つの追求傾向は、上向き・下向きの学業発達パターンとそれぞれ関連した

※この表は公開されている論文要旨に基づきます。各研究の個別参加者数、成績差の大きさ、調査間隔など、要旨から確認できない数値は記載していません。

研究結果①:2つは別々の心理特性として測れた

最初に研究者たちが取り組んだのは、そもそもエクセレンシズムと完璧主義が区別できるのか、という問題でした。

研究1では、新たに開発されたSCOPE(Scale of Perfectionism and Excellencism)という質問紙を用い、2つのサンプルで探索的因子分析と確認的因子分析を行いました。

その結果、回答をエクセレンシズムと完璧主義の2因子に分ける構造が支持されました。

「高い水準を目指している人は、みんな完璧主義なのでは?」と思うかもしれません。しかし、今回の測定結果は、その2つを区別して検討することに意味があると示しています。

ただし、この結果はSCOPEという尺度の構造に関する検証です。回答だけで個人を簡単に「良い完璧主義」「悪い完璧主義」に診断できる、という意味ではありません。

研究結果②:完璧さを上乗せしても、幸福感の追加メリットは見られなかった

次に気になるのは、完璧を目指す人のほうが人生に満足できるのか、という点です。

研究2ではSCOPEの妥当性を確かめるとともに、人生満足度や抑うつなどの指標との関係を調べました。

その結果、エクセレンシズムの影響を考慮したうえで、完璧主義を上乗せしても、人生満足度などの追加的な利益や、抑うつなどの害の減少は確認されませんでした。

この結果が示唆するのは、「高い目標を持つこと」と「完璧さまで求めること」のメリットを一緒に数えないほうがよい、ということです。

なお、ここで扱われたのは心理的な指標との統計的な関連です。「完璧主義がうつ病を引き起こす」と証明した結果ではありません。

研究結果③:完璧を目指す人ほどA+を求めたのに、実際の成績は低かった

今回の論文で、とくに印象的なのが学業成績の比較です。

研究3では、大学生のうち完璧を追求する人は、卓越性を追求する人よりも、A+という完全な成績を目標にしやすいことが示されました。

「とにかく最高の評価を取りたい」という意欲は、たしかに強かったのです。

ところが、研究4では、実際に得た成績は、完璧を追求する人のほうが卓越性を追求する人より低いという結果が報告されました。

ここには、目標の高さと実際の達成が必ずしも一致しないという重要な違いがあります。

ただし、論文要旨だけでは、成績差の具体的な点数や、その差が生じた理由までは確認できません。したがって、「完璧主義のせいで勉強時間が減った」など、説明されていない原因を研究結果として付け加えることはできません。

研究結果④:4回にわたる追跡でも、学業の発達パターンに違いが見られた

一時点の調査では、そのときの状況が結果に影響することがあります。そこで研究5では、大学生を対象に4時点の縦断研究を行いました。

研究者たちは、エクセレンシズムと完璧主義が、時間の経過に伴う学業の変化とどう関連するかを調べました。

その結果、エクセレンシズムは上向きの学業発達の連鎖に、完璧主義は下向きの学業発達の連鎖に関連することが示されました。

この結果は、5研究を通じた「卓越性を目指すことと完璧さを追求することは、同じではない」という主張を補強しています。

ただし、縦断的に関連を調べたことと、実験で原因を確定したことは別です。時間を追った結果だからといって、性格傾向だけが成績の変化を生んだと断定はできません。

この研究から考えられる3つのメリット

エクセレンシズムという考え方を知ると、目標設定を見直すための視点が得られます。ここでは、今回の研究から考えられる意味を3つに整理します。

1. 高い目標そのものを諦めずに考えられる

「完璧を目指さない」と言われると、努力しなくてもよいという意味に感じるかもしれません。しかし、この研究が比べたのは、低い目標と高い目標ではありません。高い水準を目指すことと、完全無欠を要求することです。

2. 目標の高さと結果を分けて振り返れる

研究3と研究4を合わせて見ると、A+を目指す強い意欲があっても、それだけで高い成績が保証されるわけではありません。何を目標にしたかだけでなく、実際にどのような結果になったかを見る視点が得られます。

3. 心理的な負担を考慮した目標設定につながる

研究2では、完璧さへの追求を加えることで、人生満足度などに追加のメリットが確認されたわけではありません。目標の高さだけでなく、成果と心の負担の両方を考える意義があります。

※以上は研究結果の解釈です。目標の立て方を変える介入の効果を、今回の5研究が直接確認したという意味ではありません。

完璧さを追求するときの3つのデメリット・注意点

研究で示された問題を、日常の言葉で整理してみましょう。

1. より高い目標が、よりよい結果を保証するわけではない

大学生の研究では、完璧な評価を目指す傾向が強くても、実際の成績が高いとは限りませんでした。目標の高さだけで努力の有効性を判断しないことが大切です。

2. 「完璧さの追加分」に利益が見られない場合がある

卓越性の追求を考慮すると、完璧さへの追求による人生満足度などの上積みは確認されませんでした。「もっと厳しい基準なら、もっと幸せになれる」とは単純に言えないのです。

3. 長期的な学業の変化と不利な関連が見られた

4回の追跡を行った研究5では、完璧主義と下向きの学業発達パターンとの関連が報告されました。ただし、すべての学生に同じ経過が起きることを意味しません。

具体的な3つの方法:目標をどう考え直せばよい?

では、今回の研究を日常に生かすには、何を意識するとよいのでしょうか。以下は研究結果から考えられる実践上の工夫であり、この論文で介入効果が実証された方法ではありません。

方法1:目標を「高い成果」と「完全無欠」に分ける

たとえばレポートを書くとき、「根拠を確認し、伝わる文章にする」という目標と、「誤字が一つでもあれば失敗だ」という目標は違います。自分がどちらを目指しているか、言葉にしてみましょう。

方法2:成果を、理想だけでなく実際の結果で確かめる

「もっとよくできたはず」という気持ちだけでなく、提出できたか、理解が深まったか、前回より改善した点は何かを振り返ります。これは、研究3・4で見られた目標と実際の成績の違いを意識する方法です。

方法3:一度の評価だけでなく、経過を見て判断する

4時点の縦断研究のように、学びや成長には時間の流れがあります。短い期間の結果だけで「自分はだめだ」と結論づけるのではなく、取り組み方と変化を継続して観察してみましょう。

具体例:A+にこだわる学生と、理解を深める学生

ここで、架空の2人の大学生を考えてみましょう。

Aさんは、授業で学んだ内容を深く理解し、レポートを高い水準に仕上げたいと考えています。資料を調べ、先生からの指摘を確認し、次の提出物で改善できる点を探します。

Bさんも真剣に勉強しています。ただ、Bさんの目標は「どの科目でも、絶対にA+でなければならない」というものです。十分に高い評価を得ても、満点でなければ達成した気持ちになれません。

試験が終わった後、2人はそれぞれ成績表を見ます。

Aさんは、想定より低かった科目について、どの理解が足りなかったのかを振り返ります。Bさんは、A+を取れなかったことに意識が向き、ほかの成果を見落としてしまいます。

こうした違いは、エクセレンシズムと完璧主義の考え方をイメージする助けになります。ただし、この物語は説明のための架空の例です。論文でこの2人が観察されたわけではなく、Bさんのように考える人が必ず成績を下げるという意味でもありません。

研究結果を読むときの注意点

今回の5研究には、複数の方法を使って同じ理論を確かめたという強みがあります。一方で、結果を広く当てはめる際には注意が必要です。

  • 学業成績に関する研究は大学生を中心に行われました。 仕事、スポーツ、創作活動など、別の場面で同じ関連が見られるかは、この結果だけでは分かりません。
  • 統計的な関連と因果関係は違います。 完璧さを追求する傾向を実験的に変え、その後の成績が改善するかを直接示した研究として扱うことはできません。
  • 公開要旨だけでは確認できない詳細があります。 各研究の人数、効果量、調査期間など、本文の詳しい情報が必要な点については数値を補っていません。
  • エクセレンシズムと完璧主義は、この研究で用いた理論上の概念です。 すべての完璧主義研究が同じ定義を使っているわけではありません。

また、以前紹介した2025年の大学院生376人を対象とする研究(DOI:10.1111/bjop.12798)とは、扱う理論が近いものの、別の論文です。今回の2022年論文は、5研究を通じてMEPの中心的な仮説を初めて実証的に検討した点に焦点があります。

まとめ:高い目標と完璧さへのこだわりは、分けて考えられる

今回の2022年の研究では、5研究・合計2,157人のデータから、エクセレンシズムと完璧主義を別々に測定できることが示されました。

さらに、完璧を追求する人はA+をより強く目指す一方、実際の学業成績は卓越性を追求する人より低く、縦断研究でも不利な学業発達パターンとの関連が見られました。人生満足度などについても、卓越性の追求を超える追加的な利益は確認されませんでした。

高い目標を持つことと、「完璧でなければならない」と考えることは同じではありません。 もっとよい成果を出したいと思ったとき、その目標が卓越性の追求なのか、完全無欠への要求になっているのか。そう考えてみることが、この論文から得られる大切な視点です。

参考論文

Gaudreau, P., Schellenberg, B. J. I., Gareau, A., Kljajic, K., & Manoni-Millar, S. (2022). Because excellencism is more than good enough: On the need to distinguish the pursuit of excellence from the pursuit of perfection. Journal of Personality and Social Psychology, 122(6), 1117–1145.

※研究の数値・結果の記述は、PubMedで公開されている原論文の書誌情報と要旨を根拠にしています。