首から肩にかけて張りやこりを感じたとき、「肩甲挙筋」という筋肉が関係していることがあります。
肩甲挙筋は、その名前のとおり肩甲骨を持ち上げる働きを持つ筋肉です。
かし、単純に「肩を上げる筋肉」というだけではありません。
首と肩甲骨を直接つないでいるため、
- 首の動き
- 肩甲骨の安定
- 腕を使う動作
- デスクワーク時の姿勢
- 頭の位置
- 呼吸や胸郭の動き
など、さまざまな要素の影響を受けます。
そのため、肩甲挙筋に張りや痛みがあるからといって、単純に「筋肉が硬い」「筋力が弱い」と判断することはできません。
この記事では、肩甲挙筋の役割から、鍛えるメリット、弱い場合に起こりやすいこと、筋トレ、ストレッチまで詳しく解説します。
肩甲挙筋とは?
肩甲挙筋は、首の上部から肩甲骨に向かって走っている筋肉です。
主に、
第1〜第4頸椎付近
↓
肩甲骨の上角付近
をつないでいます。
つまり、首と肩甲骨を直接つないでいる筋肉です。
肩甲挙筋の代表的な働きは、
- 肩甲骨を持ち上げる
- 肩甲骨を下方回旋させる
- 頸部の動きを補助する
- 肩甲骨と首を安定させる
ことです。
肩をすくめる動作をすると、僧帽筋上部などと一緒に肩甲挙筋も働きます。
一方で、肩甲挙筋は「大きく肩を動かすとき」だけ働いているわけではありません。
パソコン作業やスマートフォン操作などで頭や肩甲骨の位置を保つときにも活動します。
そのため、強い力を一瞬出すよりも、弱い力を長時間出し続けることで負担が蓄積することもある筋肉です。
肩甲挙筋と肩こりの関係
肩甲挙筋は、いわゆる「肩こり」を感じやすい場所の一つです。
特に、
- 首の付け根
- 肩甲骨の上側
- 肩甲骨の内側上部
に張りを感じる場合、肩甲挙筋周辺が関係していることがあります。
では、なぜ肩甲挙筋は張りやすいのでしょうか。
大きな理由の一つが、首と肩甲骨の両方に関係していることです。
例えばパソコン作業では、
頭を前に出す
↓
視線をモニターに固定する
↓
首を安定させる
↓
腕を前に出して操作する
↓
肩甲骨も安定させる
↓
肩甲挙筋を含む首・肩周囲の筋肉が働き続ける
という状態が起こることがあります。
肩甲挙筋そのものに問題があるというより、
「肩甲挙筋を長時間働かせなければならない身体の使い方になっている」
と考えたほうが分かりやすい場合もあります。
肩甲挙筋が硬くなる・張りやすくなる原因
肩甲挙筋の張りには、さまざまな要因が関係します。
長時間のデスクワーク
パソコン作業では、頭と腕を一定の位置に保つ必要があります。
その間、肩甲挙筋などの筋肉が低い強度で長時間働き続けることがあります。
一回一回の負荷は小さくても、数時間続けば総負荷は大きくなります。
肩をすくめた姿勢
机が高い、マウスが遠い、肘が浮いているなどの環境では、無意識に肩をすくめることがあります。
肩甲骨の挙上が長時間続けば、肩甲挙筋への負担も増えます。
頭が前に出た姿勢
スマートフォンやパソコンを見るとき、頭が体幹より前へ移動することがあります。
頭の位置を支えるために頸部周辺の筋活動が増え、肩甲挙筋にも負担がかかる場合があります。
肩甲骨を動かす機会が少ない
腕を身体の前だけで使う生活が続くと、肩甲骨をさまざまな方向へ動かす機会が減ります。
その結果、特定の筋肉ばかりを使う動作パターンになることがあります。
長時間同じ姿勢を続ける
重要なのは「悪い姿勢」だけではありません。
一見きれいな姿勢でも、同じ状態を何時間も続ければ特定の組織に負担が集中します。
そのため、
完璧な姿勢を維持することより、姿勢を定期的に変えることも重要です。
肩甲挙筋を鍛えるメリットは?
肩甲挙筋を適切に鍛えることで、肩甲帯を安定させる能力を高めることができます。
ただし、肩甲挙筋だけを単独で鍛える必要があるケースは多くありません。
肩甲骨は、
など複数の筋肉が協力して動かしています。
そのため、「肩甲挙筋だけを強くする」というより、肩甲帯全体の機能を高めることが基本になります。
①肩甲骨を安定させやすくなる
肩甲挙筋は、肩甲骨の位置を保つ働きに関係します。
肩甲骨が安定すると、その上で動く腕もコントロールしやすくなります。
➁荷物を持つときの安定性につながる
重い荷物を手で持つと、腕の重さによって肩甲骨は下方向へ引っ張られます。
このとき肩甲挙筋や僧帽筋などが働き、肩甲帯を安定させます。
肩甲帯の筋持久力向上につながる
デスクワークや立ち仕事では、最大筋力よりも「ある程度の力を長時間維持する能力」が必要になることがあります。
適切なトレーニングによって、こうした持久的な負荷に対応しやすくなる可能性があります。
肩甲挙筋が弱いとどうなる?
肩甲挙筋が弱い場合、肩甲骨を挙上したり安定させたりする能力が低下する可能性があります。
ただし、ここで注意したいのが、
「肩がこる=肩甲挙筋が弱い」ではないということです。
むしろ肩甲挙筋が働きすぎて張っているケースもあります。
肩甲挙筋単独の筋力低下を自分で判断することは簡単ではありません。
考えられる影響としては次のようなものがあります。
肩甲骨を持ち上げる力が低下する
肩甲挙筋は僧帽筋上部などと協力して肩甲骨を挙上します。
筋力が低下すると、肩甲骨を引き上げる動作が弱くなる可能性があります。
荷物を持ったときに肩甲帯が疲れやすくなる
バッグやダンベルなどを持つと、肩甲骨には下方向への力が加わります。
肩甲帯を支える筋力や持久力が不足していると、疲れやすくなることがあります。
他の筋肉が代わりに働く可能性がある
身体は一つの筋肉が働きにくくても、他の筋肉を使って動作を完成させようとします。
そのため、肩甲挙筋だけを見るのではなく、僧帽筋、前鋸筋、菱形筋などを含めて考える必要があります。
「弱い肩甲挙筋」と「働きすぎている肩甲挙筋」を区別する
ここは非常に重要です。
肩甲挙筋が張っている場合、
「硬いからストレッチする」
「弱いから筋トレする」
と単純に決めることはできません。
例えば、
筋力が不足している
→ 日常の負荷に耐えられない
→ 疲労する
というケースもあれば、
肩をすくめ続ける
→ 肩甲挙筋が働き続ける
→ 疲労して張る
というケースもあります。
後者の場合、さらに肩甲挙筋を強く使うトレーニングばかり行うと、負担が増えることも考えられます。
重要なのは、
「肩甲挙筋が弱いか?」ではなく、「なぜ肩甲挙筋に負担が集中しているのか?」を見ることです。
肩甲挙筋の筋トレ
肩甲挙筋だけを完全に分離して鍛えることは難しいため、実際には僧帽筋などと一緒にトレーニングします。
①ダンベルシュラッグ
肩甲挙筋を含む肩甲骨挙上筋群を鍛える基本的な種目です。
- 両手にダンベルを持つ
- 背筋を自然に伸ばす
- 肩を耳に近づけるように持ち上げる
- 一度止める
- ゆっくり肩を下ろす
10〜15回程度を目安に行います。
反動を使って肩を回す必要はありません。
肩甲骨を「真上に引き上げる」イメージで行います。
➁ファーマーズキャリー
ダンベルなどを持った状態で歩くトレーニングです。
重りによって肩甲骨が下方向へ引かれるのに対し、肩甲帯周囲の筋肉が安定させるために働きます。
- 左右の手にダンベルを持つ
- 背筋を自然に伸ばす
- 肩を過度にすくめたり下げたりしない
- そのままゆっくり歩く
20〜40秒程度から始めます。
重要なのは重量よりも、姿勢を大きく崩さず保持できることです。
➂軽いシュラッグ・ホールド
肩甲挙筋の持久力を高めたい場合は、軽い重量を使用して肩をわずかに持ち上げた位置を保持する方法もあります。
ただし、普段から肩をすくめる癖が強い人には必ずしも必要とは限りません。
肩甲挙筋だけでなく一緒に鍛えたい筋肉
肩甲骨は一つの筋肉だけでは動きません。
特に重要なのが、
- 前鋸筋
- 僧帽筋中部
- 僧帽筋下部
- 菱形筋
などです。
例えば腕を上げるときには、肩甲骨を上方回旋させる必要があります。
肩甲挙筋には肩甲骨を下方回旋させる作用があるため、肩甲挙筋ばかりを鍛えるのではなく、前鋸筋や僧帽筋などとのバランスが重要です。
肩甲骨のトレーニングでは、
「どの筋肉が強いか」より「必要なタイミングで複数の筋肉が協調して働けるか」
という視点が重要になります。
肩甲挙筋のストレッチ
肩甲挙筋に張りを感じる場合は、軽いストレッチによって楽になることがあります。
基本的な肩甲挙筋ストレッチ
右側の肩甲挙筋を伸ばす場合を例にします。
- 背筋を自然に伸ばして座る
- 右肩を軽く下げる
- 顔を左斜め方向へ向ける
- 左脇を見るように頭を斜め下へ倒す
- 首の右後方から肩甲骨上部に伸びを感じる位置で止める
- 20〜30秒程度保持する
反対側も同様に行います。
手で頭を強く引っ張る必要はありません。
「強く伸ばす」よりも、軽い伸張感がある位置でゆっくり呼吸することが重要です。
肩甲挙筋をストレッチしてもすぐ戻るのはなぜ?
肩甲挙筋をストレッチすると一時的に楽になるものの、数時間後にはまた張るという人もいます。
これは、肩甲挙筋の柔軟性だけが原因ではない可能性があります。
例えば、
ストレッチする
↓
肩甲挙筋の張りが一時的に軽くなる
↓
再びパソコン作業を始める
↓
肩をすくめる
↓
頭を前に出す
↓
肩甲挙筋が再び長時間働く
という流れになれば、張りが戻っても不思議ではありません。
そのため、ストレッチと同時に、
- モニターの高さ
- 机と椅子の高さ
- マウスの位置
- 肘の支え
- スマートフォンを見る位置
- 長時間同じ姿勢を取っていないか
なども確認するとよいでしょう。
肩甲挙筋の負担を減らすには「姿勢を変える」ことも重要
「正しい姿勢をずっと維持しよう」と考える人もいますが、どのような姿勢でも長時間固定すれば負担は偏ります。
大切なのは、
同じ姿勢を長時間続けないことです。
例えば仕事中であれば、
- 一度肩を上げ下げする
- 首を軽く動かす
- 腕を上げる
- 背中を伸ばす
- 立ち上がる
- 少し歩く
など、短時間でも姿勢を変えることが役立ちます。
肩甲挙筋に必要なのは、必ずしも「完全に脱力すること」ではありません。
同じ筋肉だけに仕事を集中させないことが重要です。
肩甲挙筋を鍛えるべき人・ストレッチを優先したい人
目安として考えるなら、筋力や持久力不足が考えられる場合には筋トレが選択肢になります。
一方、
- デスクワーク中に常に肩が上がっている
- 首から肩甲骨上部が張る
- 長時間同じ姿勢を続けると悪化する
- 肩を下げて休むと楽になる
といった場合には、単純な筋力不足より、長時間の筋活動や作業環境が関係している可能性もあります。
実際には、
筋トレかストレッチかの二択ではなく、
筋力
+
柔軟性
+
肩甲骨の動き
+
頸椎・胸椎の動き
+
作業環境
+
姿勢を変える頻度
をまとめて考えるほうが実用的です。
肩甲挙筋を見るときは首だけでなく全身を見る
肩甲挙筋は首から肩甲骨についています。
しかし、肩甲挙筋の負担を考えるときには首だけを見ればよいわけではありません。
例えば、
骨盤の位置
↓
胸郭の位置
↓
肩甲骨の位置
↓
頸椎の位置
↓
頭の位置
というように、身体は連続しています。
また、
頭
↓
視線
↓
パソコン画面
↓
机
↓
椅子
という環境との関係でも姿勢は変わります。
つまり肩甲挙筋の張りは、
「肩甲挙筋という筋肉の問題」ではなく、「肩甲挙筋に負担が集中する身体と環境の関係」
として考えたほうが理解しやすいケースがあります。
肩甲挙筋まとめ
肩甲挙筋は、首から肩甲骨上部についている筋肉で、
- 肩甲骨の挙上
- 肩甲骨の下方回旋
- 頸部の動き
- 肩甲帯の安定
などに関係します。
肩甲挙筋を鍛えることで、肩甲帯の安定性や筋持久力向上につながる可能性があります。
一方で、肩甲挙筋に張りがあるからといって、必ず筋力が弱いとは限りません。
デスクワークやスマートフォン操作などによって、
肩甲挙筋が働きすぎている
可能性もあります。
そのため、
「肩甲挙筋をどう鍛えるか」
「肩甲挙筋をどう伸ばすか」だけではなく、
「なぜ自分の身体は肩甲挙筋をこれほど使わなければならないのか?」という視点が重要です。
筋トレやストレッチに加えて、肩甲骨の動き、首や胸郭の動き、作業環境、長時間同じ姿勢を続けていないかまで確認することで、肩甲挙筋への負担をより総合的に考えられます。
なお、強い痛みが続く場合や、腕・手のしびれ、筋力低下、外傷後の痛みなどがある場合は、単純な筋肉の張り以外の原因も考えられるため、医療機関などで評価を受けてください。

