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カーネマンの「持続の軽視」とは?:人間の短期志向の心理学的背景とその影響

ダニエル・カーネマン(Daniel Kahneman)は、行動経済学の分野で多くの重要な研究を行い、人間の意思決定の非合理性を明らかにしました。
その中で「持続の軽視(Neglect of Duration)」という概念は、人々が経験の持続時間を軽視し、主にピーク(最も強烈な部分)とエンド(最後の部分)の印象によって満足度を判断する心理バイアスを指します。

この考え方は、私たちの生活のさまざまな場面、たとえば医療、教育、エンターテインメント、消費行動などに影響を与えています。
本記事では、カーネマンの「持続の軽視」の理論を詳しく解説し、それが私たちの日常や意思決定にどのような影響を与えるのかを探ります。


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執筆者:メンタルコーチしもん
・メンタルと睡眠の専門家 / 作家 / 講師
YouTube登録者数1.4万達成
・5年以上の双極性障害とうつを克服
・29年間の睡眠障害を克服
・IQ上位0.1%『GIFTED EYES』メンバー
・上級睡眠健康指導士
著書
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1. 持続の軽視とは?

「持続の軽視」は、カーネマンが提唱した「ピーク・エンドの法則(Peak-End Rule)」に基づいています。
この法則によると、人間は過去の経験を振り返るとき、次の2つの要素を重視する傾向があります。

  1. ピーク(Peak):経験の中で最も強烈な瞬間(快楽または苦痛)
  2. エンド(End):経験の最後の部分

驚くべきことに、経験の持続時間(Duration)は、それほど影響を与えません。
つまり、長い時間をかけて楽しんだことよりも、短くても強烈なピークや最後の印象が良かった経験の方が記憶に残りやすいのです。

このバイアスが発生するため、私たちは以下のような判断ミスを犯すことがあります。

  • 長時間にわたって穏やかに幸せだった体験よりも、一瞬の強烈な幸福の方を優先する。
  • 手術や痛みを伴う治療において、実際の持続時間よりも最後の感覚が大きく影響する。
  • 映画や旅行の全体的な質よりも、クライマックスや最後の印象で評価を決める。

 ピークエンドの法則とは?記憶に残る体験の作り方とビジネス・日常への活用法


2. 持続の軽視の実験と証拠

カーネマンは、「持続の軽視」が実際にどのように働くのかを実験で検証しました。

(1) 冷水実験

カーネマンと共同研究者は、被験者に異なる2つの冷水体験をしてもらい、どちらがより耐えやすかったかを尋ねました。

  1. 短い冷水体験(60秒間):非常に冷たい水に手を浸す。
  2. 長い冷水体験(90秒間):60秒間は同じ冷たい水、その後30秒間は少し温かい水に手を浸す。

理論的には、90秒間の方が辛いはずです。
しかし、驚くべきことに、多くの被験者は90秒の方を「マシな体験」と評価しました。
これは、最後の30秒が「比較的マシ」だったために、全体の経験が良いものとして記憶されたことを示しています。

(2) 痛みと医療処置

カーネマンの研究では、患者が痛みを伴う医療処置(例:内視鏡検査)をどのように記憶するかも調査されました。結果として、処置の持続時間よりも、処置中の最も痛かった瞬間(ピーク)と、処置の終わり方(エンド)が、患者の評価に大きく影響することがわかりました。

つまり、短時間でも非常に痛みを感じた場合、その体験は悪いものとして記憶される一方で、長時間続いたとしても最後の部分が比較的穏やかであれば、全体の評価は良くなるのです。


3. 持続の軽視がもたらす影響

(1) 医療分野での影響

  • 患者の満足度向上:医療従事者は、手術や処置の最後を穏やかにすることで、患者の満足度を高めることができる。
  • 慢性的な苦痛の過小評価:患者は短期間の強い痛みを重視するため、長期的な慢性痛の影響を軽視する傾向がある。

(2) 消費者行動への影響

  • 映画・旅行・サービスの評価:映画やレストランの評価では、全体の持続時間よりもクライマックスや最後の印象が影響する。
  • 商品やサービスの印象操作:企業は、最後の印象(例:おまけ、特典、心温まる接客)を良くすることで、顧客の満足度を向上させる戦略を取る。

(3) 人間関係や幸福感への影響

  • 長期的な幸福を見落とす:人は一瞬の強烈な幸福(例:派手なデート、イベント)を優先し、日常の穏やかな幸福(例:安定した人間関係)を軽視することがある。
  • 恋愛・結婚の評価:カップルは日々の満足よりも、劇的な瞬間や最後の印象に影響されやすい。

4. 持続の軽視を克服するためには?

(1) 長期的視点を意識する

「ピークとエンド」だけでなく、日々の穏やかな満足も意識することが大切。

(2) 経験の記録を活用する

日記や写真を使い、長期的な経験全体を振り返ることで、短期的な印象に左右されるのを防ぐ。

(3) 最後の印象を最適化する

仕事や人間関係において、「最後の印象」が全体の評価に影響するため、意識的に良い終わり方を心がける。


まとめ

カーネマンの「持続の軽視」は、私たちの記憶や意思決定に大きな影響を与える心理バイアスです。人間は経験の持続時間ではなく、ピークとエンドによって評価を下すため、時には重要な要素を見落としてしまいます。

このバイアスを理解し、より賢い意思決定を行うことで、医療、消費行動、人間関係などのあらゆる面でより良い選択ができるようになります。

あなたも、日常の小さな幸せをもっと大切にしてみませんか?

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