ふとした瞬間に心を支配してくる「不安」。
それがあまりに強くなると、頭の中がそればかりでいっぱいになり、まるでその感情と“自分が一体化してしまった”ような感覚になります。
「どうにもならない」「このまま何も変わらないかもしれない」――そんな思いがぐるぐると巡り、心が重くなっていく…。
でも実は、その「重さ」は不安との距離感に大きく関係しているのです。
心理学では、私たちが一つの感情に強く意識を向けすぎることで、それが人生全体に大きな影響を与えているように錯覚してしまう現象を「フォーカシング・イリュージョン」と呼びます。
このような心理的錯覚を軽くし、不安と上手に距離をとる方法があったら、試してみたいと思いませんか?
今回ご紹介する「一人称リリース」は、不安や感情との距離感を言葉ひとつで変える、簡単で実践的な心理テクニックです。
「自分の悩みなのに、なぜか軽くなる」「思考が整理されて冷静になれる」――そんな感覚をぜひ体験してみてください。
不安で苦しむのは「自分とくっついている」から
不安と自分がくっついていると、心が重くなります。
不安は感情を乱すので、感情のコントロールを失ってしまうからです。 不安が自分を支配する感覚があって、恐怖や苦痛にもつながってきます。
例えば、「私はひょっとしたらずっと独りなのかもしれない」という不安が大きい場合、孤独感が感情だけではなく、自分の人生を支配しているようにも錯覚します。そうなると、心が重くなり、苦痛が強くなります。
これが「フォーカシング・イリュージョン」と呼ばれる心理的錯覚です。
1つの思考に強い注意を向けるがあまり、その思考が自分の人生のすべてに影響与えるような気持ちになります。 あとで冷静になれば「どうしてあんなに悩んでいたんだろう?」となるんですが、そのときは「どうしようもない」と重く考えてしまうんですね。
フォーカシング・イリュージョンとは?
特定の要素に注意を向けすぎることで、その要素が人生全体に与える影響を実際よりも大きく感じてしまう心理的バイアスのことです。
フォーカシング・イリュージョンとは?—私たちの思考が生む錯覚
不安と心理的に距離を開けると、心が軽くなる
不安と心理的に距離を開けると、心がすっと軽くなります。
理由は簡単で、不安を客観的に見ることができるからです。 先ほどの「悩んでいるときには、どうしようもないとすら考えてしまう」のに、「あとから振り返ると、意外に大したことないよな」と思えるのも、この心理的な距離の違いがあるからです
「不安で苦しい時は、不安と自分が強くくっついているけど、時間がたつと不安と自分が離れて、心が軽くなる」流れになっています。
この不安と心の距離をコントロールする方法があれば、良いと思いませんか?
心理的距離を操ることができれば、寝る前に不安で考え込む時間が減ったり、集中したいときに気が散ることが少なくなったり、日常のちょっとした場面で、心に余裕が作れます。 心に余裕をできると、不安そのものを解決しやすくもなります。
心理的距離を開ける方法の中でもシンプルで使いやすいのが「一人称リリース」です。 現在、僕が最も好んで使っている方法でもあります。
心理的距離を開けるとは?
自分の感情や状況を客観視し、あたかも他人事のように捉えることで、冷静で理性的な判断を促す手法です。今回の記事の内容はより限定的な「自己距離化」のテクニックです。
一人称リリース|不安から離れる簡単な方法
一人称リリースは、不安を考えるときに「一人称」ではなく「広い三人称」で考える方法です。
「私は孤独」と一人称で考えるより、自分の苗字など使って「田中は孤独」と考えた方が、不安との距離が置きやすくなります。
一人称は、自分を指す言葉で「私、僕、俺、自分」などです。三人称は、他人を指す言葉で「名字、名前、性別、年齢」などが入ります。
例えば、一人称の場合で「私はひょっとしたらずっと独りなのかもしれない」と考えると、「孤独」が重く感じます。
※「私」を抜いた場合も、主語は「私」なので同じです。
三人称にすると、次のようになります。
「田中(苗字)は、ひょっとしたらずっと独りなのかもしれない」
「しもん(名前)は、ひょっとしたらずっと独りなのかもしれない」
「41歳男性の彼は、ひょっとしたらずっと独りなのかもしれない」
「ある一人の人間は、ひょっとしたらずっと独りなのかもしれない」
主語を「広い三人称」に変えていくと、「不安が遠のく感覚」が生まれます。 これが不安が離れていく感覚です。
この「不安が遠のいて、薄らぐ感覚」を覚えておくと、不安と付き合うのが楽になります。
不安なことを考えるときは、ぜひ「三人称」を使ってみてくださいね。
一人称リリースで「不安から離れる理由」
一人称を三人称にすることで、自分があいまいになって、ぼやーっとします。不安と自分がくっつこうにも、自分が薄らいでいるのでくっつきにくくなっているんですね。
「悩んでいるときは不安だけど、あとから振り返ると大したことがないと思える。」や「自分の悩みごとは不安が大きいけど、人の悩みは冷静に考えることができる。」と仕組みは同じです。
あとから振り返るときは、過去の自分の悩みなので、不安と距離が生まれて、くっつきにくい。
他人の悩みは、他人のことなので、不安と距離が生まれて、くっつきにくい。
今回はの場合は「言葉を自分にストレートに向けないことで、不安と距離が生まれて、くっつきにくい。」となっています。
このように、不安との距離感をコントロールすると、心が軽くなります。
人間関係と一緒で、感情との付き合いも「ほどよい距離感をコントロールできること」が大切です。
一人称リリース法の注意点
感情とほどよい距離を開けることが大事で、距離を開ければ開けるほど良いわけではありません。 これも人間関係と同じで、そのときそのときの向き合い方によります。
例えば、悩みを解決するときは「悩みと離れすぎず、心に負担はないけど解決するモチベーションがある三人称」がおすすめです。 僕の場合は、「しもんは~」と考えるぐらいがちょうどいい。
これがさらに不安と距離を開けて「広大な宇宙の1つの惑星である地球という1生命体が今後も独りかもしれない」ぐらいまで広げると、「もうどうでもいいや」となることがあります。心が楽になっても、問題を先送りしやすくなります。
不安に限らず、感情とは「適度な距離感で付き合っていくこと」が大切です。
まとめ
今回の「一人称リリース」を使っていくと、感情の種類や大きさによって自然と使い分けができるようになってきます。
一人称リリースは、感情と付き合っていくのに、言葉一つ変えるだけでできる手軽な心理テクニックです。ちょっと使ってみて、「不安が遠のく感覚」を味わってみてくださいね。
コツとしては、「自分の考えを他人の考えのように説明する感覚」です。