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十二国記「月の影 影の海」|何でもないようなことが幸せだった…に気づかされる怒涛の展開

月の影 影の海 十二国記シリーズ Amazonオーディオブック版もあり

小野不由美先生の「十二国記」シリーズはファンタジー小説です。
基本的には、中国のような国をモチーフにした異世界を舞台とするファンタジー小説なんですが、これが非常に面白い。

シリーズを通して、9割方は面白いですね。
1割ほど、僕の中では少しハズレだと感じるものもあります。特に短編集的な作品は、ちょっとどうなんだろうと思うところもあるんですが、本編につながるストーリーラインは、やっぱりすべて面白いんですね。


その中でも、特に衝撃的なのが、第1作目の『月の影 影の海』です。
『魔性の子』を除けば、「十二国記」の本編で最初の物語になります。

何が面白いのかというと、下巻では何でもないようなことまで、すべてきらびやかで、幸せに感じられるように設計されているところですね。
下巻の一つ一つの文章を読むだけでも、高揚感や充実感のようなものが湧き起こってくるんです。

なので、下巻はずっと楽しい。ずっと興奮のようなものが得られて、それが怒涛のようにやってきます。

なぜそうなっているのかというと、上巻には、もう希望も何もないからなんですよね。

主人公の陽子さんが、ずっと裏切られたり、苦しんだりします。
どうしようもない状況の中で自分すら疑い、希望の一つも見えないまま、ずっと物語が進んでいく。そして、そのまま上巻が終わってしまうんですよね。

上巻でどん底まで落とされるからこそ、下巻に出てくる普通のことが、すべてきらびやかに見えます。素直に人と話ができること、信じられる人と出会えること、目指すべきものが見え始めること。
そういった一つ一つの出来事が、すべて幸せに感じられるんですね。

その分、上巻は非常に苦しいです。
僕は上下巻ともに3回くらい読んでいるんですが、毎回、上巻で心が折れそうになるくらいしんどいですね。先の展開が分かっていてもしんどいです。


「十二国記」シリーズは、基本的にこういった展開が多いんですよね。
最初に登場人物がどん底へ落とされて、そこから上がっていくという、V字回復的な物語になっています。そこがすごく面白いところなんですが、最初の『月の影 影の海』には、ほかの作品とは違うところがあります。

何が違うのかというと、『月の影 影の海(上巻)』には、本当に希望が何もないんですよね。

ほかの物語では、主人公がたくましさや輝きを持っています。
環境が悪かったり、時代の流れが悪かったりして苦しんではいるものの、常に何とかしようとする力強さを感じるんですね。

そのため、読んでいる側も少し救われるところがあります。
主人公が諦めず、頑張って前を向こうとするからです。それがたとえ間違った方向だったとしても、前へ進もうとする力があります。

『月の影 影の海』の主人公である陽子さんは、何度も心が折れます。
陽子さんは、最初から魅力的でたくましい人物として描かれているわけではありません。等身大の人間界の女子高校生という感じで、自分が傷つきたくないと思ったり、人のせいにしたり、事なかれ主義的なところがあったりします。自分を出すこともできず、諦めたり、心が折れそうになったりするんですね。

それでも、「生きるために生きるぞ」というようなたくましさはあります。
ただ、この物語は、その生きようとする気持ちすら折ろうとしてきます。

人物においても、物語においても、環境においても、本当に希望がないんですよね。
ここまで希望がない描き方をしているのは、「十二国記」の中でも『月の影 影の海』だけなんじゃないかなと思います。

その分、そこからのV字回復がすごく良かったんですね。
まだ読んだことがなくて、ファンタジー小説が好きな方には、ぜひ『月の影 影の海』を読んでいただければと思います。


あとに出てくる『白銀の墟 玄の月』も、V字回復的な物語ではあります。
希望のようなものが、環境的にも、登場人物の心情的にも、だんだんなくなっていき、最終的にV字回復するような話ですね。

ただ、『白銀の墟 玄の月』では、最終的に味方してくれそうな強者たちが、伏線として散りばめられています。そういった希望が残されています。なので「希望がある」と思いながら読むことができます。

僕が初めて『月の影 影の海』を読んだときは、「下巻も絶望が続くのかな。これはどうなるの?」と思いながら読んでいました。その分、下巻の展開には驚かされました。


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