「心配が頭から離れない」「嫌なことを何度も反芻してしまう」といった反復性ネガティブ思考(RNT)に、認知行動療法(CBT)はどのくらい効くのでしょうか。
この研究では、さまざまな精神疾患を対象にした55件のランダム化比較試験、合計4,970人のデータをまとめて分析しました。その結果、CBTにはRNTを減らす効果があり、特にRNTそのものを狙って治療する方法のほうが、一般的なCBTより大きな効果を示しました。
反復性ネガティブ思考(RNT: Repetitive Negative Thinking)とは、反芻と心配を含めたもの。
反芻(rumination):過去や現在のつらい出来事・気分について繰り返し考える
心配(worry):将来起こるかもしれない悪いことについて繰り返し考える
参考:反復的な否定的思考、反芻思考、および心配に対する認知行動療法の有効性 – トランスダイアグノスティックメタ分析【2025年】
【研究や論文は、chatGPTに著作権に配慮して、要点をまとめてもらっています。[ ]のメモは僕の意見・感想です】
結論
認知行動療法(CBT)は、心配・反芻などの反復性ネガティブ思考を全体として中程度に減らしました。
特に、RNTを直接の治療ターゲットにしたCBTでは、一般的なアプローチより大きな改善がみられました。
訂正後の効果量は、
- RNT特化型:Hedges’ g = −0.87
- 一般的なアプローチ:g = −0.48
で、その差は統計的に有意でした(Q(1) = 8.05、p = 0.005)。負の値は、対照群と比べてRNTが減ったことを意味します。
また、「心配」「反芻」「内容に依存しないRNT」のどれを測定したかによって、CBTの効果に有意な違いはありませんでした(p = 0.884)。
内容の信頼性:7.5 / 10
比較的信頼性の高い研究ですが、結果をそのまま全員に当てはめられるほど確実ではありません。
評価を上げる要素として、この研究は55件のランダム化比較試験を統合したメタ解析で、PRISMAに従い、研究開始前にPROSPEROとOSFへ登録されています。研究選択やデータ抽出も複数の研究者が独立して行い、感度分析でも全体的な効果は大きく変化しませんでした。
評価を下げる要素もあります。55研究のうちバイアスリスクが低かったのは9研究で、25研究が中程度、21研究が高リスクでした。また研究間のばらつきが大きく(I² = 79.5%)、出版バイアスを示唆する結果もありました(Egger検定:t(66) = 4.39、p < 0.001)。著者自身も、効果が過大評価されている可能性を指摘しています。
さらに2026年、RNT特化治療の分類方法について訂正が行われ、一部の数値が修正されています。著者によれば、この再分析で研究全体の結論は変わっていません。
何の研究か?
認知行動療法が「反復性ネガティブ思考」をどれくらい減らせるのかを調べたメタ解析です。
反復性ネガティブ思考、英語で「Repetitive Negative Thinking(RNT)」とは、ネガティブな内容について、繰り返し、受け身的に、あるいは自分では止めにくい形で考え続けてしまう思考プロセスを指します。
この中には主に、
- 過去や現在の嫌なことについて繰り返し考える「反芻」
- 将来起こるかもしれない問題について考え続ける「心配」
などが含まれます。研究では、これらを診断名を超えて共通してみられる「診断横断的なプロセス」として扱っています。
対象となったのは、標準的な診断基準によって精神疾患が確認された18歳以上の成人を対象とするランダム化比較試験です。
最終的に、
55研究・4,970人
が解析対象となりました。
内訳は、
- CBT治療群:2,644人
- 対照群:2,326人
- 平均年齢:43.31歳(SD = 10.42)
- 女性の割合:平均 70.9%
でした。
研究した理由は?
これまでの研究では、RNTに対する心理療法の効果について、
「うつ病だけ」
「不安症だけ」
「心配だけ」
「マインドフルネスだけ」
といったように、特定の疾患・治療法・思考タイプに限定したメタ解析が多く行われていました。
そこで研究チームは、診断名を超えて、
「CBTは反復性ネガティブ思考そのものにどのくらい効くのか?」
を広く調べることにしました。
主な研究テーマは、
- CBTにはRNT全体を減らす効果があるのか
- 「心配」「反芻」「診断横断的RNT」のどれに最も効果があるのか
- RNTを直接狙った治療は、一般的なCBTより効果が高いのか
- 個人療法・集団療法、対面・オンラインなどによって効果が変わるのか
という点でした。
結果はどうだったか?
※今回使用したRNT特化治療の効果量については、2026年の訂正版を反映しています。
| 項目 | 結果 | 分かりやすく言うと |
|---|---|---|
| 対象研究 | 55研究 | 複数のRCTをまとめて解析 |
| 参加者 | 4,970人 | CBT群2,644人、対照群2,326人 |
| CBT全体のRNTへの効果 | g = −0.67 | CBTでRNTが中程度改善 |
| 95%信頼区間 | −0.82 ~ −0.53 | 全体としてCBTに有利 |
| 心配 | g = −0.70 | 心配も改善 |
| 内容に依存しないRNT | g = −0.60 | RNT全般も改善 |
| 反芻 | g = −0.55 | 反芻も改善 |
| RNTタイプ間の差 | p = 0.884 | 3種類で有意差なし |
| RNT特化型治療 | g = −0.87 | より大きな改善 |
| 一般的な治療 | g = −0.48 | 改善するが特化型より小さい |
| 特化型 vs 一般型 | Δg = 0.39、p = 0.005 | 特化型のほうが有意に効果大 |
| 個人療法 vs 集団療法 | p = 0.094 | 有意差なし |
| 対面 vs その他 | p = 0.243 | 有意差なし |
| セッション数 | 1回につきgが0.04増加、p = 0.025 | 20回までの範囲では回数が多いほど効果が大きい傾向 |
| 約4.2か月後 | g = −0.66 | 短期的には効果がおおむね維持 |
| 研究間のばらつき | I² = 79.5% | 研究によって効果にはかなり差がある |
| 研究のバイアスリスク | 低9/中25/高21研究 | 含まれた研究の質は一定ではない |
| 信頼性評価 | 7.5 / 10 | 強い研究デザインだが、異質性・出版バイアスなどに注意 |
① CBTは、反復性ネガティブ思考を減らした
極端な効果量を示した2研究を除外した分析では、CBTは対照群と比較してRNTを減少させ、
g = −0.67
95%信頼区間:−0.82 ~ −0.53
でした。
著者はこの効果を中程度としています。
② 「心配」「反芻」のどれかによって効果が大きく変わるわけではなかった
それぞれの効果量は、
心配:g = −0.70
95% CI:−0.89 ~ −0.52
内容に依存しないRNT:g = −0.60
95% CI:−0.98 ~ −0.22
反芻:g = −0.55
95% CI:−0.76 ~ −0.34
でした。
数字だけを見ると心配への効果が最も大きいものの、3種類の間に統計的に有意な違いはありませんでした(p = 0.884)。
③ RNTを直接狙った治療のほうが効果が大きかった
ここはこの研究の重要な結果です。
2026年の訂正後の分析では、
RNT特化型治療:g = −0.87
一般的な治療:g = −0.48
となりました。
両者の差は、
Δg = 0.39
で、統計的にも有意でした(Q(1) = 8.05、p = 0.005)。
つまり、この研究では、CBTを行うだけでもRNTは改善しましたが、心配や反芻などのRNTを直接治療ターゲットにしたほうが、改善効果が大きいという結果でした。
④ 個人療法だから特に効く、という結果ではなかった
個人療法と集団療法を比較しても、効果に有意差はありませんでした。
p = 0.094
でした。
⑤ 対面だから特に効く、という結果でもなかった
対面治療と、それ以外の提供方法を比較した場合も有意差はなく、
p = 0.243
でした。
⑥ 治療回数が多いほど、効果が大きくなる傾向があった
治療セッションが1回増えるごとに、効果量gが0.04大きくなると推定されました。
t(64) = −2.29、p = 0.025
でした。
この分析に含まれた治療は最大20セッションまでだったため、著者はそれ以上の回数について一般化できないとしています。
⑦ 効果は短期フォローアップでも維持されていた
治療終了後、平均4.2か月の最初のフォローアップでは、
g = −0.66
95% CI:−1.08 ~ −0.24
I² = 78.3%
k = 16
でした。
治療直後の g = −0.67 とほぼ同程度だったため、著者は治療効果が短期的には維持されていることを示唆しています。
発表者・所属機関
発表者(著者)
- キリアン・レアンダー・ステンツェル
- ジョシュア・ケラー
- ルーカス・キルヒナー
- ヴィンフリート・リーフ
- マックス・ベルク
所属機関
フィリップ大学マールブルク(マールブルク大学) 心理学部・臨床心理学/心理療法部門、ドイツ・マールブルク
原論文では5名全員が同所属として記載されています。筆頭著者・責任著者はキリアン・レアンダー・ステンツェルです。
参考元
Stenzel et al. (2025). Efficacy of cognitive behavioral therapy in treating repetitive negative thinking, rumination, and worry – a transdiagnostic meta-analysis. Psychol Med, 55, e31.
Stenzel et al. (2026). Efficacy of cognitive behavioral therapy in treating repetitive negative thinking, rumination, and worry – a transdiagnostic meta-analysis – CORRIGENDUM. Psychol Med, 56, e31.


