「何度考えても、同じようなアイデアしか浮かばない」「問題を解決しようと頑張っているのに、なかなか前に進まない」。そんな経験はありませんか?
私たちは問題に直面すると、今までのやり方を改善したり、原因を細かく調べたりしがちです。もちろん、それは大切なことです。でも、問題の捉え方そのものを変えると、思いがけない選択肢が見つかることもあります。
そこで役立つのが、ラテラルシンキング(水平思考)です。
この記事では、ラテラルシンキングの意味、ロジカルシンキングとの違い、メリットとデメリット、発想力を鍛える5つの方法を紹介します。仕事や日常生活での具体例も交えながら、今日から試せる形で解説します。
ラテラルシンキングとは?前提を変えて新しい発想を生む思考法
ラテラルシンキングとは、慣れ親しんだ考え方や前提をいったん見直し、別の視点から問題を捉えることで、新しいアイデアを探す思考法です。
日本語では「水平思考」と呼ばれます。マルタ出身の医師・著述家エドワード・デ・ボノ(Edward de Bono)が提唱・発展させた考え方で、1960年代から広まりました。[1][2]
例えば、ある店で「レジの待ち時間が長い」という問題が起きているとします。
一般的には「レジの人数を増やそう」「会計をもっと速くしよう」と考えるでしょう。これも有効な改善策です。
一方、ラテラルシンキングでは、こんな問いも立てます。
- そもそも、全員が同じレジに並ぶ必要はある?
- 会計は買い物の最後でなければいけない?
- 待つこと自体が問題なのか、それとも待ち時間が分からないことが問題なのか?
このように、解決策を増やす前に、問題の見方を変えるのが特徴です。
ラテラルシンキングは「思いつき」とどう違う?
ラテラルシンキングは、ただ自由に思いついたことを口にする方法ではありません。
デ・ボノは、既存の枠組みに疑問を向ける「チャレンジ」、無関係な言葉をきっかけにする「ランダム・エントリー」、あえて極端な仮定を置く「プロボケーション(挑発的発想)」など、発想を意図的に広げる技法を整理しました。[2][3]
つまり、偶然ひらめくのを待つのではなく、新しい視点が生まれやすい問いを自分で作る方法だといえます。
誰が、いつ、どんな場面で使うの?
ラテラルシンキングは、特定の職業だけのものではありません。
商品やサービスを考える人はもちろん、仕事の進め方を改善したい人、勉強方法を見直したい人、家事の負担を減らしたい人にも役立ちます。
特に、今の方法を改善しても行き詰まるときや、当たり前だと思っている条件が多いときに使ってみるとよいでしょう。
ラテラルシンキングとロジカルシンキングの違い
この2つは、対立する考え方ではありません。役割が違います。
| 比較項目 | ラテラルシンキング(水平思考) | ロジカルシンキング(論理的思考) |
|---|---|---|
| 主な目的 | 新しい可能性を見つける | 考えや結論の筋道を確かめる |
| 注目すること | 前提・見方・別の選択肢 | 根拠・因果関係・矛盾 |
| 代表的な問い | 「そもそも別の方法はない?」 | 「なぜそう言える?」 |
| 得意な場面 | アイデア出し、行き詰まりの打開 | 問題分析、比較、説明、実行判断 |
| 注意点 | 実現性の低い案も生まれる | 最初の前提に縛られることがある |
例えば、売上が伸び悩むカフェがあるとします。
ロジカルシンキングでは、客数、客単価、時間帯、商品の売れ方などを分析し、どこに問題があるのか調べます。
ラテラルシンキングでは、「売上を増やすには来店客を増やすしかないのか?」「店内で食べてもらうことが前提になっていないか?」など、別の方向から可能性を探します。
そして、新しい案が浮かんだら、費用や需要を調べて実行するか判断します。
「水平思考で選択肢を増やし、論理的思考で選択肢を確かめる」。この組み合わせが実用的です。デ・ボノ自身も、水平思考と垂直思考を補い合うものとして説明しています。[4]
クリティカルシンキングとの違い
クリティカルシンキング(批判的思考)は、情報や主張をうのみにせず、証拠や前提が妥当かを検討する考え方です。
ラテラルシンキングが「ほかの見方はあるか?」と問いかけるのに対し、クリティカルシンキングは「その見方を信じてよい根拠はあるか?」を確かめます。
新しいアイデアを考える場面と、それを採用する場面で使い分けるとよいでしょう。
ラテラルシンキングの5つのメリット
1. 思い込みから抜け出すきっかけになる
「これまでずっとこの方法だったから」と思うと、ほかの選択肢が見えにくくなります。
ラテラルシンキングでは、当たり前だと思っている条件をあえて言葉にします。すると、変更できる条件と変更できない条件を区別しやすくなります。
2. アイデアの選択肢を増やせる
最初に思いついた案だけで決めず、違う視点から複数の案を出せます。
例えば勉強時間を増やしたいとき、「早起きする」以外にも、「移動時間を使う」「教材を短い単位に分ける」「学ぶ順番を変える」といった選択肢が見つかるかもしれません。
3. 行き詰まった問題を別の角度から見直せる
同じ対策を繰り返しても成果が出ない場合、解決方法よりも問題の定義を見直すほうが有効なことがあります。
「作業を速くする」ではなく、「その作業は毎回必要か?」と問い直すことも、水平思考の一例です。
4. チームで違う意見を出しやすくなる
最初から正解・不正解を決めると、意見が出にくいことがあります。
発想する時間と評価する時間を分ければ、立場の違う人もアイデアを出しやすくなります。ただし、実際にどれだけ意見が増えるかは、職場の雰囲気や進め方にも左右されます。
5. 日常の不便を改善する発想が生まれる
家事、片付け、予定管理なども、見方を変えることで改善できます。
例えば「洗濯物をもっと速く畳む」だけでなく、「畳まずに収納できるものはないか?」と考えることもできます。
ラテラルシンキングの4つのデメリット・注意点
1. 実現できないアイデアも生まれる
自由に発想すると、予算や安全性、法律などの制約に合わない案も出てきます。
アイデアを出す段階では否定しすぎず、採用する段階で条件を確認しましょう。
2. 発想を広げすぎると結論が出にくい
選択肢を増やすことばかり続けると、何を実行するのか決まらなくなります。
「最初の10分は案を出す」「次の10分で候補を絞る」など、時間を区切るのが効果的です。
3. 問題の事実確認を省くと的外れになる
そもそもの問題を取り違えていると、どんなに面白い案でも役に立たないことがあります。
「誰が困っているのか」「何が起きているのか」「どんな条件があるのか」は、発想する前後に確認しましょう。
4. 奇抜さだけを重視しやすい
新しいアイデアだからといって、良いアイデアとは限りません。
新しさに加えて、役立つか、続けられるか、問題を悪化させないかも大切です。発想と検証はセットで考えましょう。
ラテラルシンキングを鍛える5つの方法
1. 「当たり前」を3つ書き出して疑う
まず、解決したい問題を一つ選びます。
例えば「会議が長い」という問題なら、次のような前提が考えられます。
- 全員が最初から最後まで出席する
- 会議で情報共有と意思決定の両方をする
- 意見は会議が始まってから出す
このうち、一つだけ変えられるとしたらどうでしょうか。
「情報共有は事前に文章で済ませる」「決める必要がある人だけ集まる」など、新しい案が生まれます。
練習のコツ: 「本当に必要?」「誰が決めたルール?」と問いかけてみましょう。
2. 問題を別の言葉に言い換える
同じ現象でも、問題の表現が変わると考え方が変わります。
例えば「朝、起きられない」を次のように言い換えてみます。
- 朝にやることが多すぎる
- 夜の準備が十分ではない
- 起床後に楽しみが少ない
- 睡眠時間を確保しにくい
すべてが正しいとは限りません。しかし、複数の見方を試すと、対策の方向も変わります。
練習のコツ: 「ほかの人なら、この問題をどう説明する?」と考えましょう。
3. 無関係な言葉を使って発想を広げる
これは、デ・ボノの技法でいう「ランダム・エントリー(Random Entry)」に近い方法です。[3]
例えば「勉強を続ける仕組み」を考えているときに、偶然選んだ言葉が「駅」だったとします。
駅から連想する言葉を並べます。
- 時刻表
- 乗り換え
- 定期券
- 案内表示
ここから「勉強の予定を時刻表のように見える化する」「難しい内容へ進む前に乗り換え地点を作る」といった発想を試せます。
練習のコツ: 先に言葉を選んでから結びつきを探し、都合のいい言葉ばかり選ばないようにしましょう。
4. あえて極端な仮定を置く
現実には難しそうな条件を、アイデアを広げるためだけに置きます。
例えば「もし会議が5分しかできなかったら?」と考えてみましょう。
すると「結論が必要な議題だけ扱う」「資料を事前共有する」「報告だけの会議を減らす」といった案につながります。
デ・ボノはこうした挑発的な仮定を、現実の提案そのものではなく、新しい方向へ思考を動かすきっかけとして扱っています。[3][5]
練習のコツ: 極端な案をそのまま実行せず、「その案から使える部分は何か?」を探しましょう。
5. アイデアを3つ出してから検証する
一つ目の案が浮かんでも、そこで止めないことが大切です。
例えば「部屋を片付けたい」なら、次の3つを考えます。
- 収納場所を増やす
- 物の数を減らす
- 使う場所の近くに物を置く
次に、費用、手間、安全性、続けやすさを比較します。
練習のコツ: 発想するときは選択肢を広げ、決めるときはロジカルシンキングで整理しましょう。
ラテラルシンキングの具体例:小さなカフェの待ち時間を変えた発想
※ここからは考え方を説明するための架空の事例です。
ある小さなカフェでは、お昼休みに行列ができていました。
店長は最初、「レジを増やすしかない」と考えました。しかし、店は狭く、新しいレジを置く場所もありません。
そこでスタッフの一人が、こんな質問をしました。
「お客さんが困っているのは、レジの数が少ないことですか? それとも、注文が終わるまで時間が読めないことですか?」
話し合ってみると、メニューを選ぶ時間と会計の時間が重なり、列が長くなっている可能性に気づきました。
そこで店は、入口にメニューを掲示し、混雑時には注文前に商品を決めてもらいやすくする方法を試しました。
さらに、よく注文される商品を分かりやすく表示することにしました。
この話で重要なのは、対策が必ず成功したということではありません。「レジを増やす」という前提から離れ、「お客さんは何に困っているのか」を問い直した点です。
実際に効果があったかどうかは、待ち時間や利用者の反応を測って確かめる必要があります。
仕事や日常で使えるラテラルシンキングの質問集
考えが行き詰まったら、次のように自分へ問いかけてみてください。
| 問いかけ | 使いどころ |
|---|---|
| そもそも、何を解決したいのか? | 問題の定義を見直す |
| それは本当に必要な手順なのか? | ムダな作業を見直す |
| 逆のことをしたらどうなる? | 固定観念から離れる |
| お金や時間に制限がなければ? | 選択肢を広げる |
| 制限が今の半分になったら? | 発想を切り替える |
| 初めて見る人ならどう考える? | 慣れた視点を変える |
| ほかの業界ではどうしている? | 異なる分野からヒントを得る |
すべての質問を一度に使う必要はありません。今の問題に合う問いを一つ選ぶだけでも、発想を切り替えるきっかけになります。
ラテラルシンキングについてよくある質問
Q. ラテラルシンキングは才能がないとできませんか?
特別なひらめきだけに頼るものではありません。前提を疑う、言い換える、無関係な言葉を使うなど、手順として練習できます。ただし、誰でも必ず画期的なアイデアを出せるという保証はありません。
Q. 水平思考クイズを解くと鍛えられますか?
水平思考クイズは、思い込みを疑ったり、質問の角度を変えたりする練習にはなります。ただし、クイズの正解を当てることと、現実の問題で役立つ案を生み出すことは同じではありません。身近な課題にも応用してみましょう。
Q. ロジカルシンキングとどちらを先に使えばよいですか?
状況によります。問題自体が不明確なら、まず事実を整理することが必要です。一方、原因がある程度分かっていて解決案が出ないなら、ラテラルシンキングで選択肢を広げるとよいでしょう。その後は、実現性や効果を確かめます。
Q. ラテラルシンキングとブレインストーミングは同じですか?
同じではありません。ブレインストーミングは複数の案を出すための進め方の一つです。ラテラルシンキングは、前提や視点を変えて発想するための考え方・技法です。ブレインストーミングの中でラテラルシンキングの技法を使うこともできます。
まとめ:発想を広げたら、現実に使える形へ整えよう
ラテラルシンキングとは、今までの前提を見直し、別の視点から新しいアイデアを探す思考法です。
特に覚えておきたいのは、次の5つです。
- 当たり前だと思っている条件を疑う
- 問題を別の言葉で言い換える
- 無関係な言葉から連想する
- 極端な仮定からヒントを探す
- 複数の案を出してから実現性を確かめる
発想を広げることと、良い案を選ぶことは別の作業です。ラテラルシンキングで可能性を増やし、ロジカルシンキングで確かめる。この順番を意識すると、日常の問題にも取り入れやすくなります。
まずは今日、いつも同じようにやっていることを一つ選び、「そもそも、これを別の方法でできないだろうか?」と問いかけてみてください。
参考資料
- American Psychological Association, APA Dictionary of Psychology: lateral thinking. https://dictionary.apa.org/lateral-thinking
- Edward de Bono 公式サイト, About & Contact. https://www.debono.com/about-and-contact
- De Bono Group, Lateral Thinking. https://www.debonogroup.com/services/core-programs/lateral-thinking/
- Edward de Bono (1970), Lateral Thinking: Creativity Step by Step, ERIC ED075989. https://eric.ed.gov/?id=ED075989
- Edward de Bono, The Teaching of Creative Thinking. https://www.debono.com/_files/ugd/acf405_f7da56967f834145a6a22e7a33eae881.pdf
- University of Derby, Creative Problem Solving: Lateral Thinking. https://libguides.derby.ac.uk/develop-at-derby/creative-problem-solving/lateral_thinking


