最近、「睡眠の質」に関する関心が高まっており、睡眠トラッカーやスマートウォッチなどのガジェットを使って、自分の睡眠を計測する人が増えています。
その一方で、こうした機器で得た情報に過剰に依存するあまり、かえって眠れなくなる――そんな逆説的な現象が報告されています。
この新しい睡眠障害の形を「オルトソムニア(orthosomnia)」と呼びます。
オルトソムニアとは?
オルトソムニアは、2017年にアメリカの睡眠研究者らによって初めて報告された比較的新しい概念です。
「ortho(正しい)」と「somnia(睡眠)」を組み合わせた造語で、「正しい睡眠を求めすぎて眠れなくなる状態」を意味します。
特徴的な症状
- 睡眠トラッカーのデータに過敏に反応し、不安を感じる
- 睡眠時間や深い睡眠の時間に執着する
- 「もっと良い睡眠をとらなければ」というプレッシャーでかえって眠れない
- 実際には眠れているのに「眠れていない」と思い込む
- 睡眠に対する強迫観念が強くなる
なぜオルトソムニアが起こるのか?
1. テクノロジーの普及
スマートウォッチやアプリは便利な反面、数値ばかりに目が向いてしまい、「今日は深い睡眠が足りなかった」「入眠までに30分かかった」といったデータが気になり、不安が生まれやすくなります。
2. 完璧主義的傾向
完璧な生活を目指す人ほど、「完璧な睡眠」も求めがち。そのため、少しでも理想的でないデータが出ると過剰に反応してしまいます。
3. 情報過多の現代社会
SNSや健康記事で「○○時間寝ないとダメ」「○時には寝ないと体に悪い」といった情報があふれており、それがプレッシャーになります。
オルトソムニアと一般的な不眠症の違い
項目 | オルトソムニア | 一般的な不眠症 |
---|---|---|
原因 | 睡眠トラッカーやデータへの過度な関心 | ストレス、生活習慣、疾患など |
自覚 | 「眠れていない」と強く思い込む | 実際に眠れないことが多い |
行動 | 睡眠時間を延ばそうと無理をする、日中も睡眠のことを考える | 対処法として薬などに頼る場合が多い |
治療法 | 心理的アプローチが中心 | 投薬+行動療法が主流 |
対処法・改善方法
1. 睡眠トラッカーとの距離をとる
一時的に使用を中止する、またはデータを見ないようにすることで、過剰な不安を減らすことができます。
2. 認知行動療法(CBT-I)
不眠症に対する認知行動療法の一種で、睡眠に関する考え方や習慣を見直すことで改善を図ります。
3. 「完璧な睡眠」という考えを手放す
睡眠は日によってバラつきがあるのが普通です。「今日は少し眠れなくても大丈夫」という柔軟な心がけが重要です。
4. リラックスできる習慣を取り入れる
入浴、読書、アロマ、ストレッチなど、眠る前に心と体を落ち着かせる習慣を作りましょう。
最後に
オルトソムニアは、現代人が陥りやすい「デジタル依存型の不眠症」とも言えます。
自分の体の声に耳を傾けることが、質の良い睡眠への第一歩です。
便利なテクノロジーを上手に使いつつも、睡眠を「評価」するのではなく、「感じる」ことを大切にしてみてください。