私たちは日々、多くの体験をしていますが、それらすべてを詳細に覚えているわけではありません。
実は、人の記憶に強く残るのは「一番印象的だった瞬間」と「最後の瞬間」――これが、「ピーク・エンドの法則」と呼ばれる記憶のメカニズムです。
この法則は、ノーベル経済学賞を受賞した心理学者ダニエル・カーネマンが提唱し、私たちの記憶や評価の仕組みを理解するうえで非常に重要な理論とされています。
日常生活からビジネスシーンまで幅広く応用可能なこの法則を理解することで、体験の質を大きく向上させるヒントが得られるでしょう。
ピークエンドの法則とは?
「ピーク・エンドの法則」 とは、ある体験を記憶する際、体験の最も強烈な瞬間(ピーク)と、最後の瞬間(エンド)が、全体の印象に強い影響を与えるという心理的な法則です。人は体験の全てを記憶するのではなく、印象的な瞬間や終わり方を特に重視するため、ピークとエンドの記憶によって全体の評価が左右される傾向があります。
この法則は、ノーベル賞受賞の心理学者ダニエル・カーネマンによって提唱され、行動経済学やマーケティング、心理学で広く研究されています。
ピーク・エンドの法則の3つの仕組み
1. ピーク(最も印象的な瞬間)
体験の中で特に強烈な瞬間(ピーク)は、喜びや感動、驚き、不快感などの強い感情を伴う出来事として記憶されます。
例えば、旅行の最中に見た美しい景色や、友人との盛り上がった瞬間などが「ピーク」に該当します。
ピークはポジティブでもネガティブでも印象に残りやすく、体験全体の評価に大きく影響します。
2. エンド(最後の瞬間)
体験の最後の瞬間(エンド)は、経験を締めくくる重要な部分です。
終わりが良いと、その体験全体が好意的に評価されやすくなります。
たとえば、デートの最後に楽しさが増すような出来事があれば、そのデート全体をポジティブに感じやすくなります。
3. 総体験の評価とピーク・エンドの効果
人は体験の全ての瞬間を均等に評価するのではなく、ピークとエンドに強い影響を受けるため、経験全体がポジティブでなくても、ピークやエンドの印象が良い場合、体験の満足度が高くなることが分かっています。
これにより、体験全体の記憶は実際以上に良く、あるいは悪く記憶されることがあります。
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ピークエンドの法則の3つの効果
1. 記憶に残りやすくなる
ピークとエンドの瞬間が印象的であると、その体験がより強く記憶に残り、後々まで思い出されやすくなります。
これは、楽しい出来事や感動的な瞬間があると、体験全体の評価が引き上げられるためです。
逆に、最後が悪いと、良い体験が記憶の中で台無しになることもあります。
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2. 意思決定に与える影響
ピーク・エンドの法則は、意思決定にも影響を与えます。
例えば、過去に楽しい旅行体験があれば、また旅行に行きたくなりやすく、逆に終わりが不愉快だった経験があると、同じ場所に行くことを躊躇するかもしれません。
このように、体験の記憶は次の行動選択に影響を及ぼします。
3. 幸福感や満足度の向上
日常生活においても、ピークとエンドの印象を意識することで、幸福感や満足度を向上させることができます。
たとえば、日常の出来事に小さな「ピーク」を設けたり、1日の終わりにリラックスした時間を設けたりすることで、日々の生活がより豊かに感じられるでしょう。
ピーク・エンドの法則を日常生活に活用する3つの方法
1. 毎日の終わりを充実させる
1日の最後にリラックスする時間や楽しみを取り入れることで、1日全体がポジティブに感じられるようになります。
寝る前に好きな音楽を聴いたり、感謝の日記をつける習慣を持ったりすることで、心地よい終わりを迎えることができます。
2. ピークとなる出来事を意識的に作る
日常の中で「ピーク」を作ることで、生活に満足感や充実感が増します。
例えば、週末に自分の趣味に没頭する時間を作ったり、特別なディナーを楽しんだりすることで、印象に残る瞬間ができ、日常生活への満足度が高まります。
3. 短時間でも「良い終わり」を意識する
デートや仕事、趣味など、どのような出来事にも「良い終わり」を意識することで、その体験全体がポジティブに感じられやすくなります。
たとえば、食事の最後にデザートを楽しむ、最後のメールに感謝を伝える一言を加えるといった小さな工夫が効果的です。
ビジネスにおけるピークエンドの法則の3つの活用法
1. 顧客体験をデザインする
ビジネスでは、顧客体験を向上させるために「ピーク」と「エンド」を意識したサービスを提供することが効果的です。たとえば、商品購入時にサプライズのギフトを用意したり、接客の最後に丁寧な挨拶やお礼の言葉を伝えることで、顧客の満足度が向上し、リピート購入や口コミに繋がりやすくなります。
2. プレゼンテーションや会議での印象付け
ビジネスシーンでのプレゼンや会議では、「ピーク」と「エンド」を意識して内容を構成することで、聞き手に強い印象を残すことができます。
たとえば、途中に印象的なエピソードを挟んだり、最後に心に残るメッセージを伝えると、会議全体の印象が向上します。
3. 顧客の最後の体験に工夫を加える
商品やサービスを提供する際、最終段階に工夫を加えることで、顧客の記憶に残るポジティブな体験が形成されます。
例えば、ECサイトで商品購入後に「ありがとう」メッセージや次回の割引クーポンを提供する、ホテルでのチェックアウト時に丁寧なお見送りをするなど、顧客体験の最後の部分をポジティブなものにすることで、全体の印象が良くなりやすいです。
リラックスが苦手な人は、ピークエンドの法則で改善できる
リラックスしようとするとストレスや緊張や恐怖につながるリラグゼーション誘発性不安は、ピークエンドの法則を使うことで改善がしやすくなります。
リラクゼーション誘発性不安とは、リラックスしようとしたり、安静な状態に入ったりすると逆に不安や緊張が生じる心理現象です。これは一般的な不安障害の一つの形として考えられることがありますが、リラックス状態がきっかけになるのが特徴です。
リラクゼーション誘発性不安とは?「リラックスは、心に負担をかけることもある」
行動を好きになるには、ピークエンドの法則を使う
ピークエンドの法則を使って、行動を好きになる方法を「ポジティブリインフォースメント」と呼びます。これは行動のあとにご褒美を与えることで、行動そのものが楽しかったものとして記憶されるピークエンドの法則を使っています。
ポジティブリインフォースメントとは?継続したい行動をのあとでご褒美を与えると、「行動そのものが楽しくなる心理」
まとめ
ピークエンドの法則とは、人がある出来事を「最も印象的だった瞬間(ピーク)」と「終わりの瞬間(エンド)」で評価するという心理法則です。この仕組みを活用することで、どんな行動も「楽しかった」と感じられるよう記憶をコントロールすることが可能になります。
心身ともに健康で、充実感や幸福感を感じている状態「ウェルビーイング」は、ピークエンドの法則を活用することで、記憶の中から実現することも可能です。
1日の中で、「強烈なポジティブ体験(ピーク)」と「寝る前のポジティブ体験(エンド)」を意識的に取り入れることで、脳はその日を「充実した1日だった」と記憶します。
たとえば──
- 日中に好きなことに没頭する時間を持つ
- 寝る前に感謝できることを3つ思い出す
こうした小さな工夫を積み重ねるだけで、日々の幸福感が自然と高まり、ウェルビーイングの実感につながります。