起床直後の短時間運動は、睡眠慣性を軽減できる可能性があります。しかし、この論文の時点では実際に起床直後の運動で睡眠慣性が改善するかは、まだ系統的に検証されていません。
著者らが注目したのは、運動によって、
という、目覚めるときに変化する3つの生理機能を促進できる可能性です。これらの変化を運動によって早められれば、頭が完全に働き始めるまでの時間も短くできるのではないか、と考えています。
著者ら自身も、運動の強度や時間を変えた実験が必要であり、現段階では実用的な運動方法を断定できないと結論づけています。
参考:Exercising Caution Upon Waking–Can Exercise Reduce Sleep Inertia?【2020年研究】
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内容の信頼性:7 / 10
この点数は、ご指定に基づく論文内容を踏まえた評価であり、論文そのものに記載された点数ではありません。
『Frontiers in Physiology』に掲載された論文で、利益相反について著者らは、研究に影響し得る商業的・金銭的関係はなかったと申告しています。資金についても、中央クイーンズランド大学の内部資金と南オーストラリア・コモンウェルス奨学金による支援であることが明記されています。
評価を満点にしない最大の理由は、「起床直後に運動すると睡眠慣性が改善する」という中心的な仮説を、この論文自体では実験していないことです。著者らも、起床直後の短時間運動について、今後実験的な検証が必要だとしています。
何の研究か?
これは、新たに参加者を集めて実験した研究ではありません。
過去の研究をもとに、
「運動によって、目覚めるときの身体の変化を早めれば、睡眠慣性も早く解消できるのではないか」
という仮説を検討した論文です。
主に次の3つの仕組みが検討されています。
① 脳血流
起床後、脳全体が一気に完全覚醒するわけではありません。先行研究では、起床後5分以内には視床や脳幹への血流が目立つ一方、注意力などに関係する前頭部の脳血流が覚醒時の状態に戻るのは起床後20~30分とされています。
運動に関する先行研究では、脳血流は高強度運動で13%増加、低強度運動で6%増加、非常に短い最大運動では約16%増加したと報告されています。
② コルチゾール覚醒反応
起床すると、コルチゾール濃度は起床後30~45分以内に50~160%上昇し、その後低下します。このピークの時間帯は、睡眠慣性が弱まっていく時間帯とも重なっています。
別の運動研究では、1.5分間の高強度運動で35%、30秒間の最大強度運動で63%、安静時よりコルチゾール濃度が上昇したとされています。著者らは、こうした結果から、起床直後の短時間運動でも同様の反応を促せる可能性を考えています。
③ 深部体温
睡眠中には深部体温が低下し、起床後は再び上昇していきます。著者らは、この体温変化も覚醒度や認知機能の回復に関係している可能性を取り上げています。
先行研究では、
- 15秒高強度運動+15秒休息を5分間 → 深部体温 0.5℃上昇
- 中強度の自転車運動を6分間 → 0.2℃上昇
- 5秒間の最大運動 → 約0.1℃上昇
と報告されています。また、深部体温が0.15℃上昇した場合に認知パフォーマンスの改善が観察された研究も紹介されています。
研究した理由は?
睡眠慣性への対策として、これまでカフェイン、光、音、体温操作、洗顔などが研究されてきました。
しかし著者らによると、起床後15分以内に睡眠慣性を十分に解消できるという証拠は限定的です。
消防士などのオンコール勤務者は、目を覚ましてから十分に頭が働くまで待つことができません。論文で紹介されている都市部の消防士の例では、呼び出しを受けてから90秒以内に防護装備を着け、車両に乗ることが求められます。
そこで著者らは、起きた後すぐに実行でき、身体の覚醒反応そのものを促す方法として、短時間の運動に注目しました。
結果はどうだったか?
| 項目 | 先行研究で示された結果 | この論文での意味 |
|---|---|---|
| 脳血流 | 高強度運動で13%増加、低強度運動で6%増加、短時間の最大運動で約16%増加 | 運動によって、起床後の脳の覚醒を早められる可能性がある |
| コルチゾール | 1.5分の高強度運動で35%増加、30秒の最大強度運動で63%増加 | 覚醒に関係するホルモン反応を、運動で促せる可能性がある |
| 深部体温 | 5分間の高強度インターバル運動で0.5℃上昇 | 体温上昇を通じて覚醒を促せる可能性がある |
| 深部体温 | 6分間の中強度運動で0.2℃上昇 | 短時間の運動でも体温を上げられる |
| 深部体温 | 5秒間の最大運動で約0.1℃上昇 | ごく短い運動でも変化が起こる可能性がある |
| 認知機能と体温 | 深部体温が0.15℃上昇した研究で認知パフォーマンスの改善が確認された | 運動による小さな体温上昇でも意味がある可能性がある |
この論文で最も重要なのは、「起床直後に運動させた結果、睡眠慣性が改善した」という実験結果は出ていないことです。
この論文では起床直後の運動を直接検証していません。
既存研究を整理した結果、
運動には、脳血流・コルチゾール・深部体温という、覚醒に関係すると考えられる生理反応を促す作用があるため、睡眠慣性への対策になる可能性がある
という仮説が示されました。
今後は、起床直後に実際に運動を行わせ、
どの程度の強度なら有効なのか、何秒・何分必要なのか、夜中に起こされた場合や睡眠不足の場合でも有効なのか
を実験する必要があるとしています。緊急業務では30秒の遅れでも長すぎる可能性がある一方、予定された仮眠後などでは最大10分程度の運動も検討対象になると述べられています。
発表者
カティア・コヴァック、サリー・A・ファーガソン、ジェシカ・L・パターソン、ブラッド・アイズベット、キャシー・J・ヒルディッチ、エイミー・C・レイノルズ、グレース・E・ヴィンセント。著者名は論文掲載情報に基づきます。
所属機関
カティア・コヴァック、サリー・A・ファーガソン、ジェシカ・L・パターソン、エイミー・C・レイノルズ、グレース・E・ヴィンセント:
アップルトン研究所/中央クイーンズランド大学 健康・医学・応用科学部(オーストラリア・アデレード)
ブラッド・アイズベット:
身体活動・栄養研究所(IPAN)/ディーキン大学 運動・栄養科学部(オーストラリア・ジーロング)
キャシー・J・ヒルディッチ:
疲労対策研究所/サンノゼ州立大学研究財団(米国カリフォルニア州モフェット・フィールド)。
Kovac et al. (2020). Exercising Caution Upon Waking–Can Exercise Reduce Sleep Inertia? Front. Physiol., 11, 254.

