睡眠に悩んでいる方の中には、長い時間ベッドで横になっているにもかかわらず、十分な休息が取れないと感じている方も多いのではないでしょうか。
そのような方に効果的とされるアプローチの一つが「睡眠制限療法」です。睡眠効率療法と呼ぶこともあります。
この記事では、睡眠制限療法の基本的な概念と、それをどのように実践すれば良いかをわかりやすく解説します。
睡眠制限療法とは?
睡眠制限療法(Sleep Restriction Therapy)は、眠る時間を意図的に制限して、睡眠密度と効率を高める方法です。睡眠効率85~90%を基準にして、睡眠密度を高めて睡眠時間を伸ばすことから睡眠効率療法とも呼ぶこともあります。
主に不眠症の治療や改善に用いられる認知行動療法(CBT-I)の一部です。
睡眠効率とは、以下の計算式で求められる指標です:
睡眠効率 = (実際に眠っていた時間 ÷ ベッドにいた総時間)× 100%
理想的な睡眠効率は 85%以上 とされていますが、不眠症の方はこれが70%以下になっている場合が多いです。
睡眠効率が低いと起こる3つの問題
1. 「眠れない」という不安が強まる
睡眠効率が低いと、ベッドに長時間いるにもかかわらずなかなか眠れない状態が続きます。
そうすると、「今日も眠れないのでは…」という不安や焦りが強くなり、逆にそれがプレッシャーとなって眠れなくなるという悪循環が生まれます。このような精神的ストレスは、心身の緊張を高め、さらに入眠を妨げてしまいます。
2. ベッドを「眠れない場所」と脳が認識してしまう
本来ベッドは「眠る場所」として脳に認識されるべきですが、長時間横になっても眠れない経験を繰り返すと、脳は「ベッド=眠れない場所」と誤って学習してしまいます。
この結果、ベッドに入るだけで緊張したり不安を感じたりして、入眠がより困難になります。
これは「条件づけ」の一種で、不眠症を慢性化させる要因の一つです。
3. 睡眠の質が低下する
睡眠効率が悪い状態では、眠りが浅く、途中で目が覚めやすくなります。
そのため、夜中に何度も目を覚ます中途覚醒や、朝早くに目覚めてしまう早朝覚醒が起こりやすくなります。
このような睡眠の断片化によって、身体や脳が十分に休息できず、日中に疲労感が残ったり、集中力の低下、気分の落ち込みといった影響が現れることもあります。
睡眠制限療法の6つのメリット
睡眠効率の向上により、短時間でも質の高い睡眠が得られる
睡眠制限療法を続けることで、「実際に眠っている時間」と「ベッドで過ごす時間」の差が縮まり、睡眠効率が高くなります。
その結果、たとえ睡眠時間が短くても、深くて質の高い眠りが得られるようになります。
これにより、疲労回復の効率も向上し、日中の活動が楽になります。
「眠れないこと」への不安が軽減される
眠れない夜が続くと、「また眠れなかったらどうしよう」と不安にとらわれがちです。
睡眠制限療法によって、一定のリズムとルールに基づいて睡眠が管理されることで、「自分はコントロールできている」という安心感が生まれます。
これが、不安や焦りの軽減につながり、自然と眠りやすくなっていきます。
睡眠習慣や生活リズムの見直しができる
この療法では、自分の就寝・起床時間、睡眠時間を毎日記録することが推奨されます。
その過程で、「就寝前のスマホ操作が多い」「昼寝をしている」など、眠りに悪影響を与える行動パターンに気づきやすくなります。
この気づきが、生活全体の見直しやよりよい睡眠習慣の確立に役立ちます。
薬に頼らず自然な睡眠が目指せる
睡眠制限療法は、薬を使わずに睡眠の質を改善する方法です。
副作用や依存の心配がなく、長期的に健康的な睡眠を手に入れることができます。
特に、薬に頼らず自然な方法で改善を目指したい方にとっては、大きな利点です。
中途覚醒が減少・生活の質もあがる
2020年の不眠症における睡眠制限療法と就寝時間規則化の研究では、不眠症改善効果が高く、夜中の睡眠維持能力や生活の満足度にも改善がみられました。
米国睡眠医学会の大人の慢性不眠症に対する行動療法と心理療法において、単独での効果が認められている方法です。
睡眠制限療法の具体的なステップ
①睡眠効率を計算する
睡眠効率=睡眠時間÷ ベッド時間。
WEBで自動計算するページはこちら。
②睡眠効率が85%未満であれば、ベッドにいる時間を減らす
実際の睡眠時間とベッド時間が同じになるように、ベッドに入る時刻を遅らす。
1週間は睡眠スケジュールを厳守。日中の昼寝は禁止。
③睡眠時間の調整:睡眠効率が85%以上になったら、睡眠時間を15~30分延長する
A:睡眠効率85%未満
眠気が感じない場合はベッド時間を15分短縮
B:睡眠効率85~90%
②の睡眠スケジュールを維持
C:睡眠効率90%超え
十分な睡眠がとれていない場合は、ベッド時間を15分長くする
④睡眠に満足するまで③を繰り返します
目安としては推奨の睡眠時間である「7時間以上」。ただ個人差があるため、睡眠の満足感で決めてOKです。
睡眠制限療法の方法は「Sleep Foundation(スリープ・ファウンデーション)」を参考にしています。
以下は実際の睡眠時間別の「ベッドにいる間の覚醒時間」

注意点
- 初期段階では睡眠時間が短く感じられるため、日中に眠気を感じる可能性があります。そのため、重要な仕事や予定が少ない期間に始めることをお勧めします。
- 睡眠記録は正確に記録することが鍵です。
無意識に「過大評価」や「過小評価」をしてしまうことがあるため、可能であれば睡眠トラッカーの併用も良いでしょう。 - 双極性障害など一時的な睡眠制限が症状悪化につながる可能性がある場合は、要注意。
まとめ
睡眠制限療法は、単なる睡眠時間の確保だけでなく、「いかに効率的に眠るか」に焦点を当てたアプローチです。特に不眠症に悩んでいる方には、日常の習慣を少しずつ改善するための有効な方法といえるでしょう。
まずは、自分の睡眠パターンを記録し、ステップごとに試してみてください。焦らず、少しずつ進めることが成功への鍵です。