不眠症に悩む人は多くいますが、その「最も効果的」とされる治療法である認知行動療法(CBT-I)は、専門家不足やアクセスの難しさから受けるのが困難な現状があります。そんな中、「電話ガイド付き睡眠制限療法(SRT)」という新しいアプローチが注目を集めています。
今回紹介するのは、わずか6週間の電話サポートのみで不眠症の症状が改善したという最新の研究結果です。治療群の47%が臨床的に改善し、30%が不眠症を克服(寛解)しました。さらに、その効果は3か月後・6か月後にも持続していたことが確認されています。
しかもこのSRTは、認知行動療法の中核となる「睡眠制限」のパートに特化しており、短時間の電話指導で実行可能な点が大きな魅力です。不眠に苦しむ多くの人々にとって、「続けやすく、効果が高い治療法」として、今後ますます広がる可能性があるのではないでしょうか。
参考:不眠症に対する電話誘導睡眠制限:ランダム化睡眠日誌対照試験
【研究や論文は、chatGPTに著作権に配慮して、要点をまとめてもらっています。緑のメモは僕の意見・感想です】
結論
「電話ガイド付き睡眠制限療法(SRT)」は、不眠症に対して有効な治療法であり、限られた専門家の手間で広く提供できる可能性がある。
内容の信頼性:9/10点
研究はランダム化比較試験(RCT)に基づき、信頼性の高い心理学雑誌に掲載。
参加者数も147人と妥当。唯一の課題は、一部条件違反の参加者が含まれた点。
一部条件違反の参加者とは、本来の参加基準を満たしていなかったにもかかわらず、誤って治療群に割り当てられた3人の参加者のことです。3人なので2%ぐらいの影響を与えていますね。
何の研究か?
この研究は、不眠症の治療法として知られる「認知行動療法(CBT-I)」の中核部分である「睡眠制限療法(SRT)」を、6週間の電話サポートのみで提供したときの効果を検証したもの。
睡眠制限療法は、具体的なやり方があるので個人でも行いやすいですが、苦手な方もいらっしゃいます。「睡眠を制限するストレス」と「睡眠効率計算」を考えなくちゃいけないなどですね。他にも就寝時間を遅らせれば良いか、起床時間を早めればいいかなど、細かいところで迷いが生まれることがあります。ただ、電話サポートで伝えられる範囲なので、睡眠制限療法の電話サポートは良さそうですね。
研究した理由は?
CBT-Iは効果的だが、実施できる専門家が少なく、治療を受けられる人が限られている。
そのため、少ないリソースで実施可能な治療法の開発が求められていた。
CBT-Iは不眠症治療には効果的だけど、なかなか受けられないのが問題ですよね。結果的に、睡眠薬を投与するのみになったり、睡眠衛生指導ぐらいで睡眠改善を進めていくことが多い印象です。実際のところはどうなんでしょうか。
結果はどうだったか?
比較対象と方法
参加者は以下の2つのグループにランダムに分けられました:
- SRTグループ(76人):電話で週1回(10~15分)の指導を受けながら6週間にわたり睡眠制限療法を実施。
- 対照群(71人):睡眠制限療法は行わず、睡眠日誌の記入のみ。
睡眠日誌の記入のみは、不眠症の特性を考えると、悪化する人もいそうですね。
臨床的改善と寛解の割合
- 47%(36人)
治療終了後、「臨床的に改善した」と評価(Insomnia Severity Index: ISIのスコアが有意に減少)。 - 30%(23人)
「不眠症が寛解」(ISIスコアが7以下)という判定。
※ISIスコアとは:0〜28点で不眠の重症度を数値化する国際的な指標です。
臨床的に改善した47%(36人)の中の23人は、不眠症症状がなくなったという意味です。
6週間の電話サポートだけで、この寛解率は高いですよね。電話サポートをしているので、睡眠制限療法だけではなく、睡眠認知が整う簡易的なCBT-Iレクチャーも入っていたかもしれません(リラクゼーション法や睡眠の仕組みを伝えるなど)
不眠症重症度の改善
- 効果量d = 1.52、p < 0.001
これは「非常に大きな効果」を意味します。治療群と対照群の間に統計的に有意な差があり、SRTの有効性が証明されました。
睡眠制限療法は睡眠システムの「体内時計・睡眠圧・睡眠認知」を網羅的に攻略するので、想定通りですよね。睡眠制限療法のネックは、「方法にストレスがかかるため、1人だと継続できないこと」だからです。電話サポートでその部分がクリアできたんだと思います。運動でいうと、独りだと続けられないけど、一緒に行うトレーナーがいれば続けられる理論ですね。
副次的な症状の改善(SRT群 vs. 対照群)
- 抑うつ症状
- 不安症状
- 寝る前の興奮状態(プレスリープ・アラウザル)
- 睡眠への不安行動(安全行動)
- 睡眠に関する非合理的思考
これらの症状についても、効果量d = 0.53〜1.18の中〜大の改善が見られました。
※ただし、「日中の眠気」と「総睡眠時間」には有意な群間差は見られませんでした(=改善は限定的)。
「「日中の眠気」と「総睡眠時間」には有意な群間差は見られませんでした」だと、意味がないのでは?と一瞬思うのですが、以下につながります。
長期的な効果(3か月後、6か月後)
- SRTグループでは、すべての評価指標(主要・副次)で改善が維持されていた。
- 特に3か月、6か月経っても「不眠の重症度」は初期に比べて有意に低いままでした(効果量d = 0.50〜1.93)
継続することで、「改善が維持、またはより改善できていた」という結果です。睡眠制限療法は、仕組みとして「日中の眠気」と「総睡眠時間」は、時間経過ごとに改善して行くからです。単に総睡眠時間だけであれば、睡眠制限をしない睡眠日誌のほうが最初は優位な可能性が高いと思います。浅い睡眠の時間を伸ばすことができるので。