「鉄分は貧血予防のために必要」というイメージを持っている方は多いかもしれません。
しかし、鉄の役割はそれだけではありません。
鉄は、全身へ酸素を運んだり、細胞がエネルギーを作ったりするために欠かせないミネラルです。
一方で、体内で必要とされる量はわずかであり、たくさん摂ればよいというものでもありません。
この記事では、鉄分の働きや不足した場合の影響、ヘム鉄と非ヘム鉄の違い、多く含む食品、1日の推奨量までわかりやすく解説します。
鉄分とは?
鉄分とは、私たちの身体に欠かせない「必須ミネラル」の一つです。
成人の体内には約3〜4gの鉄が存在し、その多くは血液中の赤血球に含まれる「ヘモグロビン」や、筋肉中の「ミオグロビン」の構成成分として存在しています。
残りは肝臓や骨髄などに貯蔵されています。
鉄の重要な特徴が、酸素や電子のやり取りに関係できることです。
血液中では、ヘモグロビンに含まれる鉄が肺で酸素と結びつき、その酸素を全身へ運びます。
そして筋肉や脳、内臓などで酸素を放します。
さらに鉄は、細胞内のミトコンドリアでエネルギーを作る過程にも関与しています。
つまり鉄分は、単に「血を作る材料」というだけではなく、
酸素を運ぶことと、身体がエネルギーを生み出すことを支える栄養素
と考えると、その重要性がわかりやすくなります。
鉄分のメリット
鉄分を適切に摂取することには、主に次のような役割があります。
①全身への酸素供給を支える
鉄は、赤血球に含まれるヘモグロビンの重要な構成成分です。
ヘモグロビンは肺で取り込んだ酸素を受け取り、血液によって全身の細胞へ運びます。
筋肉を動かすときも、脳を働かせるときも、内臓が活動するときも酸素が必要です。
そのため、鉄は身体全体の活動を根本から支えている栄養素といえます。
②エネルギー産生を支える
鉄は、細胞の中にあるミトコンドリアでも利用されています。
ミトコンドリアでは、食事から得た糖質や脂質などを利用してATPと呼ばれるエネルギーを作っています。この過程では電子の受け渡しが行われており、鉄を含むタンパク質が重要な役割を担っています。
そのため鉄は、
「酸素を運ぶ」だけでなく「その酸素を利用してエネルギーを作る」
という両方の段階に関わっています。
③筋肉の働きを支える
筋肉には「ミオグロビン」と呼ばれる、酸素を保持するためのタンパク質があります。
ここにも鉄が含まれています。
運動すると筋肉のエネルギー需要が増えるため、鉄を適切に摂取することは、日常的な身体活動や運動機能を維持するうえでも重要です。厚生労働省も、鉄が不足すると貧血だけでなく、筋力低下や疲労感、運動機能低下などにつながることを示しています。
鉄分が不足すると?
鉄が不足すると、まず身体に蓄えられている「貯蔵鉄」が減少していきます。
身体は、すぐに赤血球を作れなくなるわけではありません。
肝臓などに蓄えていた鉄を利用しながら、できるだけ血液中のヘモグロビンを維持しようとします。
しかし、不足が続いて貯蔵している鉄まで少なくなると、十分なヘモグロビンを作れなくなり、鉄欠乏性貧血につながります。
ヘモグロビンが不足すると、血液が全身へ運べる酸素量も減少します。
その結果、
- 疲れやすい
- だるさを感じる
- 息切れしやすい
- 運動時のパフォーマンスが低下する
- 筋力が低下する
といった症状が現れることがあります。
特に注意したいのが、月経のある女性です。
月経では血液とともに鉄も体外へ失われます。
そのため、月経のない女性よりも必要な鉄の量が多く設定されています。
また、妊娠中は母体の血液量が増えることに加え、胎児や胎盤の発育にも鉄が必要になるため、鉄の必要量が増加します。
ヘム鉄と非ヘム鉄とは?
食品に含まれる鉄は、大きく「ヘム鉄」と「非ヘム鉄」の2種類に分けられます。
ヘム鉄
ヘム鉄は、主に肉や魚などの動物性食品に含まれている鉄です。
代表的な食品には、
- レバー
- 赤身肉
- 赤身の魚
- 魚介類
などがあります。
ヘム鉄の特徴は、比較的身体に吸収されやすいことです。
非ヘム鉄
非ヘム鉄は、主に野菜、豆類、穀類などに含まれています。
代表的な食品には、
- 小松菜
- ほうれん草
- 大豆製品
- 豆類
などがあります。
非ヘム鉄はヘム鉄と比べると、食事に含まれる他の成分の影響を受けやすく、吸収率が変化しやすいという特徴があります。
ただし、「非ヘム鉄だから意味がない」ということではありません。
非ヘム鉄は、ビタミンCや動物性たんぱく質を含む食品と組み合わせることで吸収されやすくなります。 厚生労働省も、肉や魚に含まれるヘム鉄は非ヘム鉄より吸収されやすく、ビタミンCや動物性たんぱく質との組み合わせが鉄の吸収に役立つとしています。
例えば、
小松菜+肉
ほうれん草+魚
豆類+パプリカ
大豆製品+ブロッコリー
などの組み合わせが考えられます。
鉄を摂るときは「食品に何mg入っているか」だけでなく、身体にどの程度吸収されやすいかまで考えることがポイントです。
多く含む食品
鉄は、動物性食品にも植物性食品にも含まれています。
特に鉄を含む食品として代表的なのが、次のようなものです。
| 食品の種類 | 主な食品 | 主な鉄の種類 |
|---|---|---|
| レバー | 豚レバー、鶏レバーなど | ヘム鉄 |
| 肉類 | 牛肉などの赤身肉 | ヘム鉄 |
| 魚類 | 赤身の魚など | ヘム鉄 |
| 魚介類 | 貝類など | 主にヘム鉄など |
| 葉物野菜 | 小松菜、ほうれん草など | 非ヘム鉄 |
| 大豆・豆類 | 大豆、納豆など | 非ヘム鉄 |
| 大豆製品 | 豆腐など | 非ヘム鉄 |
厚生労働省も、レバー、赤身の肉や魚、小松菜、ほうれん草などを鉄を多く含む食品として挙げています。
鉄を効率よく摂るには、一つの食品だけから摂取しようとするより、肉・魚・大豆製品・野菜などを組み合わせることが現実的です。
特に非ヘム鉄を多く摂る食事では、ビタミンCを含む野菜や果物などを一緒に取り入れるとよいでしょう。
鉄分の摂りすぎにも注意
鉄は不足しやすい栄養素ですが、多く摂れば摂るほどよいわけではありません。
その理由の一つが、鉄には「酸化反応を促進する性質」があるためです。
鉄は電子を受け取ったり渡したりできる性質を持っており、この性質によって酸素運搬やエネルギー産生など、私たちの生命活動を支えています。
一方で、体内に反応性の高い鉄が増えすぎると、過酸化水素などと反応して酸化力の強い物質を生み出し、脂質やタンパク質、DNAなどに酸化ダメージを与える可能性があります。
これが、鉄の過剰摂取で酸化ストレスが問題になる理由の一つです。
通常、体内の鉄はトランスフェリンやフェリチンといったタンパク質に結合し、反応しすぎないよう管理されています。
そのため、普段の食事から適量の鉄を摂ることを過度に心配する必要はありません。
注意したいのは、鉄を含むサプリメントなどによって必要以上の量を継続して摂取する場合です。
鉄分の1日の推奨量(成人の目安)
厚生労働省の「日本人の食事摂取基準(2025年版)」では、成人の鉄の推奨量を年齢や性別、女性では月経の有無によって設定しています。
| 年齢 | 男性 | 女性・月経なし | 女性・月経あり |
|---|---|---|---|
| 18〜29歳 | 7.0mg | 6.0mg | 10.0mg |
| 30〜49歳 | 7.5mg | 6.0mg | 10.5mg |
| 50〜64歳 | 7.0mg | 6.0mg | 10.5mg |
| 65〜74歳 | 7.0mg | 6.0mg | ― |
| 75歳以上 | 6.5mg | 5.5mg | ― |
成人男性では1日6.5〜7.5mg程度、月経のない成人女性では5.5〜6.0mg程度、月経のある成人女性では10.0〜10.5mg程度が目安です。
月経のある女性で必要量が多くなるのは、月経によって血液と一緒に鉄が失われるためです。
また、妊娠中や授乳中は必要量がさらに増えます。「日本人の食事摂取基準(2025年版)」では、通常の推奨量に対し、妊娠初期は+2.5mg、妊娠中期・後期は+8.5mg、授乳中は+2.0mgの付加量が設定されています。
鉄は、ほんの数mg単位で必要とされる微量ミネラルですが、全身への酸素供給やエネルギー産生を支える重要な栄養素です。
大切なのは単純に「鉄をたくさん摂る」ことではなく、肉や魚に含まれるヘム鉄と、野菜や豆類などに含まれる非ヘム鉄を食事の中でバランスよく取り入れることです。
特に非ヘム鉄はビタミンCや動物性たんぱく質と組み合わせながら、毎日の食事の中で無理なく摂取していきましょう。


