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失敗から学ぶ訓練は本当に効果的?24研究・2183人のメタ分析を解説

「間違えないように練習してください」と言われたら、慎重に手順を確認しますよね。

では、反対に「練習中は間違えてもいい。そこから学んでください」と言われたら、学習の結果はどう変わるのでしょうか。

2008年、ドイツのギーセン大学に所属していた研究者Nina Keith(ニーナ・キース)とMichael Frese(ミヒャエル・フレーゼ)は、『Journal of Applied Psychology』にエラーマネジメント訓練(Error Management Training:EMT)の効果に関するメタ分析を発表しました。

対象となったのは24研究、合計2,183人です。仕事で使うソフトウェアの操作やコンピューター上の意思決定課題などを中心に、失敗を学習に活用する訓練と、正しい手順を教える訓練などを比較しています。

研究全体では、EMTのほうが学習成果で優れる傾向が見られました。とりわけ大きかったのは、訓練で経験していない新しい問題に対応する力への効果です。

なぜ、失敗が学習に役立つのでしょうか。論文で実際に調べられた内容を見ていきましょう。

エラーマネジメント訓練とは?失敗を情報として使う学び方

エラーマネジメント訓練は、学習者が自分で試行錯誤し、練習中に生じた間違いを次の行動を改善する情報として扱う訓練方法です。

KeithとFreseは、EMTの特徴として2つの要素を挙げています。

1. 手順を細かく教えすぎず、自分で試す

最初からすべての正解や操作手順を教えるのではなく、必要な基本情報を伝えたうえで、学習者が課題を試しながら進めます。

たとえば、新しい表計算ソフトを学ぶとき、全操作の説明を聞いてから作業するのではなく、簡単な説明を受けて、自分で表を作りながら機能を確かめる方法です。

うまく動かない場面もありますが、その場面こそ「何を理解できていないか」を知る機会になります。

2. 失敗を予想し、学習に利用するよう明確に伝える

EMTは、単に「自分で操作させる」だけの方法ではありません。

訓練担当者は、学習中に間違いが起こるのは自然なことだと伝え、間違いが出たら、その原因や次の試し方を考えるよう促します。

このように「自分で探索すること」と「間違いから学ぶよう明示的に促すこと」の組み合わせが、今回の論文で扱われたEMTの特徴です。

一般的な訓練との違いは?3つの方法を比較

研究に含まれた実験では、EMTを主に次の方法と比較していました。

訓練方法 進め方の特徴 失敗の扱い
エラーマネジメント訓練(EMT) 基本情報を受け取り、自分で探索する 間違いから学ぶよう明確に促す
手順型訓練(proceduralized training) 正しい操作を段階的に教える 間違いをできるだけ防ぐ
探索型訓練(exploratory training) 学習者が自分で探索する 間違いから学ぶ指示はない、または回避を促す

違いが分かるでしょうか。

EMTと探索型訓練はどちらも自分で操作しますが、EMTでは失敗の受け止め方まで訓練に組み込む点が異なります。

著者たちは、この差が学習結果を左右するのではないかと考えました。

研究方法:24研究・2183人をどのように分析した?

著者たちは、EMTとほかの訓練方法を比較した先行研究を集め、訓練後の成果を統計的にまとめるメタ分析を行いました。

対象になったのは24研究で、参加者は合計2,183人です。21研究がソフトウェア操作の学習で、残りの3研究はコンピューター上の意思決定課題を扱っていました。

研究によって比較方法や成績の測定方法が異なるため、著者たちは平均的な効果だけでなく、どんな条件で効果が大きくなるかも分析しました。

主な着眼点は次の4つです。

  1. 訓練している最中と、訓練が終わった後では効果が違うのか。
  2. 習った内容に似た課題と、新しい解き方が必要な課題では効果が違うのか。
  3. 学習者が間違いに気付けるほど明確なフィードバックがあるかどうかで違うのか。
  4. 自分で探索することと、失敗を前向きに捉える指示の両方に意味があるのか。

この比較によって、単に「EMTがよいかどうか」だけでなく、どのような学習目的で使うと有効なのかを調べたのです。

研究結果①:全体としてEMTの学習成果は高かった

24研究を統合した全体の結果では、EMTの平均効果量はCohenのd=0.44でした。

Cohenのdは、2つのグループの結果がどの程度違うかを標準化して表す指標です。今回の正の値は、比較対象の訓練方法よりも、EMTの学習成果が平均的に良好だったことを意味します。

ただし「44%成績が上がった」という意味ではありません。効果量の単位と、点数の上昇率は別のものです。

また、個別の先行研究ではEMTが優れていたものだけでなく、従来型の訓練のほうが良かったものもありました。研究者たちが知りたかったのは、結果に違いが出る条件だったのです。

研究結果②:訓練中より、訓練後の応用課題で効果が大きかった

最も重要な発見の一つが、いつ学習成果を測るかで結果が違ったことです。

評価の時点 研究数 参加者数 効果量(d)
訓練中の成績 4 505人 −0.15(有意でない)
訓練後に別の課題を行った成績 20 1,678人 0.56

練習の最中には、EMTの優位性は統計的に確認されませんでした。一方、訓練後に別の課題に取り組んだときは、中程度の正の効果が確認されました。

どうしてでしょうか。

EMTでは、学習者が自分で操作し、間違いの原因を考え、別の方法を試します。練習中には遠回りになり、すぐには正解にたどり着けないこともあるでしょう。

著者たちは、練習の途中で速く正確にできることと、学んだ知識を後で使えることは違うと指摘しています。

研究結果③:特に「初めての問題への応用」で大きな効果が出た

訓練後に学んだことを別の場面で使うことを、心理学では転移(transfer)と呼びます。

論文では、転移を2種類に分けていました。

  • 類似的転移(analogical transfer):習ったことと似た問題に、学んだ方法を応用する。
  • 適応的転移(adaptive transfer):習った問題とは構造が異なり、学んだ方法を組み替えたり、新しい解決策を考えたりする。

2種類を比べると、次のような結果でした。

課題の種類 効果量(d)
習った問題に似た課題(類似的転移) 0.20
新しい解決策が必要な課題(適応的転移) 0.80

適応的転移の効果量は大きく、類似的転移の効果量よりも明確に大きくなりました。

たとえばソフトウェアの操作を覚えるとき、研修と同じ手順を繰り返すだけなら、最初に操作方法を教わる訓練でも対応できるかもしれません。

しかし、画面の構成が変わったり、見たことのない問題が起きたりした場合には、単なる手順の暗記では足りません。操作の仕組みを理解し、その場で考え直す必要があります。

新しい問題にも対応できる力を育てる場面で、EMTの強みが目立ったというのが、この研究の重要な結果です。

研究結果④:「自分で試すこと」と「失敗を学びに変える指示」の両方が重要だった

研究者たちは、EMTがどの訓練と比較されたかによっても効果を調べました。

比較した訓練方法 EMTに有利な効果量(d)
正しい手順を教える手順型訓練 0.58
自分で探索するが、失敗を学びに変える指示のない訓練 0.19

EMTは、手順型訓練に対して有利でした。それだけでなく、同じように自分で探索する訓練と比べても、小さいながら有意な優位性がありました。

ここから研究者たちは、学習者に考えさせることに加えて、「間違いは学習の手がかりになる」と伝えることも役に立つと解釈しています。

ただし、この比較には複数の訓練条件を含む研究もあり、同じ24研究から一部を重複して集計しています。表の2つの値を足して全体効果にすることはできません。

研究結果⑤:フィードバックの明確さについては結論が定まらなかった

間違いが起きても、なぜ間違えたのか分からなければ学びにくいですよね。

著者たちは、操作の結果が分かりやすい課題と、結果が分かりにくい課題とで、EMTの効果を比較しました。

明確なフィードバックが得られる課題では平均効果量がd=0.56で、有意でした。フィードバックが不明確な課題ではd=0.19で、有意な効果は確認されませんでした。

ただし、2つの条件の差そのものは、通常の5%水準では統計的に有意ではありませんでした(p=0.08)。

したがって、この研究から「フィードバックが明確な場合にしかEMTは効かない」と結論づけることはできません。研究者たちも、この仮説については限定的な支持にとどまったとしています。

失敗から学ぶ訓練の3つのメリットとは?

今回の結果からは、EMTを採用する場合に期待できる利点を、主に3つに整理できます。

1. 新しい問題が起きたときの応用力を高めやすい

最も大きかったのは適応的転移への効果です。研修で覚えた操作をただ再現するだけでなく、問題に合わせて方法を変える力を育てる目的では、EMTが有力な選択肢になると考えられます。

2. 正しい手順を覚える以外の学びが生まれる

手順型訓練と比べたときに優位性が見られたことは、自分で試行錯誤する経験の価値を示唆しています。操作がうまくいかなかったときに原因を考える過程が、より柔軟な問題解決につながる可能性があります。

3. 間違いを反省材料だけでなく、情報として扱える

探索型訓練との比較でもEMTに小さな優位性があったため、間違えたときの受け止め方を明確に伝えることにも意味があると考えられます。

単に「自分でやってみて」と指示するのではなく、失敗したときに何が分かったのかを振り返ることが重要です。

デメリットや注意点は?いつでもEMTが最善とは限らない

EMTには、研究上、注意しておきたい特徴もあります。

1. 練習中の成績がすぐによくなるとは限らない

訓練中の効果量はd=−0.15で、有意な優位性は見られませんでした。作業を試しながら学ぶため、正しい手順を教えられた人より時間がかかる場合も考えられます。

練習の途中で作業が遅いからといって、学習方法として失敗だとは限らない一方、その場で速く正しく実行する必要がある訓練では、手順を教える方法のほうが目的に合う場合があります。

2. 学習目的が「決まった手順の習得」なら利点は小さくなる

似た課題への応用では効果量がd=0.20と小さく、適応的転移ほどの優位性はありませんでした。

毎回同じ手順を正確にこなすことが目的なら、直接的な指導でも十分な場合があるというのが著者たちの解釈です。

3. 学習環境や課題の種類によって使い方を考える必要がある

今回の研究の大部分はコンピューター上での訓練です。実際の業務や安全に重大な影響がある状況まで、練習中の失敗を積極的に起こしてよいという意味ではありません。

実践する場合は、安全に試せる練習環境と、問題を振り返る機会を設けることが重要だと考えられます。

エラーマネジメント訓練を取り入れる4つの具体的な方法

ここからは、論文に記載されたEMTの要素をもとに、研修や個人学習での活用を考えてみましょう。以下は研究から導いた実践例であり、記載した手順の組み合わせそのものの効果を、このメタ分析が個別に検証したものではありません。

方法1:安全に試せる課題を用意する

練習用のデータ、模擬環境、保存したコピーなどを使い、失敗しても元に戻せる状態を整えます。

たとえば表計算ソフトを学ぶなら、実際の顧客データではなく練習用の表で操作します。間違えたら操作を取り消したり、データを復元したりできるようにしておきましょう。

方法2:最初から正解をすべて教えず、少し自分で考えてみる

まず必要な基本情報を伝え、簡単な目標を示します。そのうえで、学習者に試行錯誤する時間を設けます。

EMTの特徴は、解き方をただ暗記するのではなく、どうすれば目的を達成できるかを自分で考えるところにあります。

方法3:間違えたときは「原因」と「次の試し方」を確認する

間違いが起きたら、「どの操作で期待と違う結果になったのか」「何を変えてみるか」を考えます。

学習者を責めるのではなく、間違いが教えてくれる情報に注目します。EMTで重視されていた、失敗を学習の機会にするという考え方に対応します。

方法4:練習とは少し違う問題を解いてみる

最後に、練習と同じ問題だけでなく、条件を変えた新しい課題にも取り組みます。

たとえば、学んだ表計算の操作を使って、別形式の売上データを整理してみる方法です。練習した手順を再現できるかだけでなく、未知の問題に応用できるかを確かめます。

具体例:新しい表計算ソフトを学ぶ2人の社員

ここで、架空の会社の研修を想像してみましょう。

新しく導入された表計算ソフトを使うため、AさんとBさんは別々の研修を受けることになりました。

Aさんの研修では、講師が操作手順を細かく説明します。Aさんは指示どおりにクリックし、同じ見た目の表を完成させます。練習中はほとんど間違えず、順調です。

一方、Bさんの研修では、最初に基本操作を教わったあと、練習用データで表を作る課題に取り組みます。途中で計算式が動かなくなりましたが、講師は「何が原因なのか調べて、別の方法も試してみましょう」と促します。

Bさんは何度か操作をやり直し、最終的に計算が動くようになりました。練習中はAさんのほうが速かったかもしれません。

翌週、二人は研修では扱わなかった形式のデータを整理することになりました。Aさんは、教わった手順と違うため、どこから始めればよいか迷います。Bさんは以前の失敗を思い出し、計算式やデータの形を確認しながら方法を考え直します。

この架空の話は、訓練中の成績と、新しい課題への応用力は一致しない場合があるという研究結果を説明するためのものです。実際の参加者を描いたものではなく、全員がこのように行動するという意味でもありません。

研究のエビデンスと限界:どこまで分かっているのか?

1. 比較実験を中心にしたメタ分析である

この論文に含まれた24研究のうち、23研究では訓練条件への無作為割付を伴う比較実験が行われていました。単なる相関調査ではなく、学習方法を比較した研究が中心だったことは、結果を評価するうえで重要です。

2. 対象となった学習内容が偏っている

24研究のうち21研究がソフトウェアの技能訓練で、残り3研究もコンピューターを使った意思決定課題でした。

接客、交渉、医療手技、機械操作など、ほかの技能にも同じ効果が得られるかは、この研究だけでは分かりません。

3. 実際の職場での業績改善は直接測定されていない

研究者たちが明記している重要な限界は、訓練後に行う評価課題の成績は測られていても、実際の職場での業務成績は測定されていなかった点です。

新しい問題への応用課題で成績がよくても、それが長期的な職場の生産性や成果にそのまま結び付くかは追加研究が必要です。

4. 研究数は24件で、条件別の研究はさらに少ない

全体で24研究、条件によっては数件しか含まれていません。たとえば、訓練中の成績を評価した研究は4件です。条件別の効果量は、その研究数も一緒に確認する必要があります。

また、課題から得られるフィードバックの明確さについては、条件間の差が統計的に明確ではありませんでした。仮説がすべて十分に支持されたわけではありません。

まとめ:失敗が役立つのは、そこから考え直すとき

KeithとFreseの2008年のメタ分析では、24研究・2,183人の結果を統合したところ、エラーマネジメント訓練は比較対象の訓練よりも平均的に良い成果を示しました。全体の効果量はd=0.44です。

特に、訓練後の応用課題でd=0.56、見たことのない種類の課題への適応的転移ではd=0.80と、効果が大きくなりました。

この研究から分かるのは、学習中に間違えないことと、後から未知の問題を解決できることは、同じではないという点です。

失敗したときに原因を考え、別の方法を試す。そして、間違いを学びにつながる情報として受け止める。こうした学習の仕組みが、応用力を育てる助けになる可能性があります。

参考論文

Keith, N., & Frese, M. (2008). Effectiveness of error management training: A meta-analysis. Journal of Applied Psychology, 93(1), 59–69.

※本文の数値と研究上の限界は、論文の公開要旨および公開されている著者最終稿に基づきます。日常的な実践例と人物のストーリーは、論文の内容を理解するための解説です。