旅行に行く前、かなり念入りに準備したとします。
行きたい場所を調べる。
移動時間を調べる。
持ち物を確認する。
天気を確認する。
念のため、別の移動手段まで調べておく。
ある程度準備できたあとも、
「ほかに忘れていることはないかな」
と気になって、さらに調べる。
そして旅行当日。
特に大きなトラブルもなく、予定していた場所を回れて、楽しく過ごせた。
すると、こんな感覚が残ります。
「あれだけ準備したから、うまくいった」
だから次の旅行でも、同じくらい調べる。
またうまくいく。
すると、
「やっぱり、ここまで準備する必要がある」
という感覚が少しずつ強くなります。
頑張りすぎる理由というと、
「失敗するのが不安だから」
「ちゃんとできるか心配だから」
と考えがちです。
もちろん、それもあります。
でも、もう一つ見落としやすいものがあります。
それが、過去の成功体験です。
「ここまでやった。そして、うまくいった」
この経験が、
「ここまでやったから、うまくいった」
という学習に変わる。
たくさん準備する
↓
うまくいく
↓
「たくさん準備したからうまくいった」と考える
↓
次も同じだけ準備する
そして、そのときの頑張り方が、次からの基準になっていきます。
頑張りすぎは、不安に押されて起こるだけではありません。
うまくいった経験によって、同じ頑張り方が強くなっていくこともあります。
「ここまでやって成功した」と「ここまで必要だった」は違う
ここで、先ほどの旅行をもう一度見てみます。
かなり時間をかけて調べた。
そして、旅行はうまくいった。
確実に言えるのは、
「たくさん準備した状態で、うまくいった」
ということです。
でも、
「あれだけ準備しなければ、うまくいかなかった」
ことまでは分かりません。
行きたい場所と移動方法だけ調べておけば、十分だったかもしれない。
念のため調べた別ルートは、結局使わなかったかもしれない。
何度も確認した持ち物も、一度の確認で足りていたかもしれません。
もちろん、準備したからこそ防げたトラブルもあるでしょう。
問題は、
役立った準備と、なくても結果が変わらなかった準備を、まとめて「必要だった」と考えてしまうこです。
私たちは、「ここまでやった」
そのあと、「うまくいった」と続くと、
「ここまでやったから、うまくいった」と考えやすくなります。
でも、その間には一つ問いが残っています。
「本当は、どこまで必要だったのだろう?」
この問いを飛ばすと、成功するたびに、その前にやったこと全部が「必要なこと」になっていきます。
成功したやり方ほど、減らして試しにくくなる
では、「そこまで準備しなくても楽しめたのか」を知るには、どうすればいいのでしょうか。
少しだけ準備を減らしてみれば分かります。
たとえば次の旅行では、
行きたい場所と移動方法だけ決めて、細かい予定は現地で考えてみる。
そうすれば、
「これくらいでも十分楽しめた」のか、
「ここは事前に決めておいた方がよかった」のかが分かります。
でも、ここに難しさがあります。
前回、細かく準備してうまくいっているからこそ、
「わざわざ減らす必要があるの?」と感じやすいのです。
だから、また同じだけ準備する。
そして、またうまくいく。
すると、
「やっぱり、これくらいやっておいた方がいい」と思う。
ここで少し不思議なことが起きています。
「ここまで必要だった」という確信は強くなっているのに、本当にそこまで必要だったかは一度も比べていません。
毎回同じだけやっているからです。
そのため、「少し減らしても大丈夫だった」という経験が生まれません。
そして、その経験がないまま、
「やっぱり、ここまでやる必要がある」
という感覚だけが強くなっていきます。
前回の頑張りが、いつの間にか「普通」になる
この流れが続くと、もう一つ変化が起きます。
最初は「かなり頑張ったこと」だったものが、いつの間にか「普通」になります。
たとえば最初は、
「今回は久しぶりの旅行だから、しっかり調べておこう」だった。
それでうまくいく。
次は、「前回くらい調べるのが普通」になります。
さらに、「今回はもっと楽しみたいから、前回より調べておこう」となることもあります。
これは旅行だけではありません。
勉強でも、
「今回は毎日2時間勉強して結果が出た」
↓
「次も最低2時間はやらないと」となる
料理でも、
「細かくレシピを調べてうまく作れた」
↓
「次も事前にきちんと調べないと」となる
片付けでも、
「人が来る前に家中をきれいにして気持ちよく過ごせた」
↓
「誰かを呼ぶなら、毎回ここまで掃除しないと」となる。
このように、「これだけやって成功した」が少しずつ、
「これだけやらないと成功できない」に変わっていきます。
でも、この二つは同じではありません。
前者は実際に起きたことです。
後者は、その経験から作られたルールです。
成功したときほど、この違いは見えにくくなります。
「少し減らしても大丈夫だった」を増やしていく
では、どうすればいいのでしょうか。
急に、「もう頑張らない」と決める必要はありません。
これまでの成功体験を無視する必要もありません。
必要なのは、新しい比較経験を少しずつ増やすことです。
いつも旅行前に何時間も調べているなら、一つだけ調べる項目を減らしてみる。
料理をするとき、何度もレシピを確認しているなら、一回だけ減らしてみる。
片付けなら、「今日はここまでできたら十分」と、いつもより少し早く終えてみる。
そして、その結果を見る。
特に問題が起こらなければ、
「ここまでしなくても大丈夫だった」という新しい経験ができます。
これまで、「10やって、うまくいった」という経験しかなかったところに、
「9でも、うまくいった」という経験が加わります。
さらに、「8でも大丈夫だった」という経験が増えるかもしれません。
すると、「10全部が必要だったわけではないのかもしれない」と分かってきます。
これは、手を抜くことが目的ではありません。
自分に本当に必要な頑張り方を知っていくことです。
頑張りすぎているときは、
「もっとやったらどうなるか」は何度も試しています。
でも、「少し減らしたらどうなるか」は、意外と試していません。
だからこそ、減らせる部分が見つからないまま、前回の頑張りが次の基準になっていきます。
「うまくいった」の中身を見直してみる
たくさん頑張って、うまくいった。
その経験は、そのままで構いません。
ただ、「うまくいった」ことと、「やったこと全部が必要だった」ことは別です。
ここを分けて見るだけで、成功体験の意味が少し変わります。
「前回はここまでやったから、今回も同じだけ」ではなく、
「前回はここまでやってうまくいった。では、本当に必要だったのはどこまでだろう?」と考えられるようになります。
そうすると、成功体験は、
「次も同じだけ頑張らなければならない証拠」ではなく、
「自分に合った頑張り方を見つけるための材料」になります。
【ワーク】「うまくいったから全部必要だった」を分けてみる
最近、かなり頑張ってうまくいったことを一つ思い出してみてください。
旅行、勉強、料理、片付け、趣味など、身近なことで構いません。
その出来事について、次の4つを書き出します。
① 何をして、どううまくいったか
例:「旅行前に細かく計画を立てて、当日は楽しく過ごせた」
② うまくいくために、役立ったと思うことは何か
例:「行きたい場所と移動方法を調べておいた」
③ やったけれど、本当に必要だったか分からないことは何か
例:「使わなかった別ルートまで何度も確認した」
④ 次に一つだけ減らしてみるなら、何を減らせそうか
例:「移動方法は一つだけ調べて、予備ルートまでは調べない」
ポイントは、
「成功したから、やったこと全部が必要だった」とまとめないことです。
次に何かがうまくいったときは、一度だけこう問いかけてみてください。
「今回うまくいった。では、本当に必要だったのはどこまでだろう?」
ここまで読んだあなたは今、
「たくさん頑張って成功した」
という経験を、少し違う角度から見られています。
これまでは、
「ここまでやったから、うまくいった」と考えていたことにも、
「本当に全部必要だったのだろうか?」という問いを入れられます。
その問いがあると、次の行動を自分で選びやすくなります。
いつも通りやることもできます。
少しだけ減らしてみることもできます。
そして結果を見ながら、自分に本当に必要な量を知っていけます。
一つ確認を減らす。
一つ予定を決めずに残す。
「今日はここまで」と少し早く終える。
そうした小さな経験から、
「これくらいでも十分だった」という感覚が増えていきます。
頑張ることをやめる必要はありません。
今は、
「どこまでやれば安心か」だけではなく、「自分はどこまでやりたいか」も基準にできます。
前回の成功に合わせ続けるのではなく、
今の自分に合った頑張り方を選べる余地があります。

