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呼吸筋を広げるとは?胸郭の動き・呼吸筋ストレッチ・呼吸を整える7つの方法を解説

「長い時間パソコンに向かっていると、肩や胸の周りが窮屈に感じる」「深く息を吸おうとしても、胸がうまく動かない気がする」。そんな経験はありませんか?

私たちが息を吸うとき、働いているのは肺だけではありません。横隔膜や肋間筋といった呼吸筋が動き、肋骨に囲まれた胸郭の容積が変わることで、空気が肺に入ります。[1][2]

そのため、日常でいう「呼吸筋を広げる」は、呼吸に関わる筋肉や胸の周りを気持ちよく動かし、胸郭が広がったり戻ったりする動きを意識することとして理解すると分かりやすくなります。

では、呼吸筋にはどのような種類があり、ストレッチや呼吸練習には何ができるのでしょうか。呼吸の基本から具体的な方法、研究で分かっている範囲まで確認していきましょう。

呼吸筋を広げるとは?肺を包む「胸郭」の動きを引き出すこと

呼吸筋とは、息を吸ったり吐いたりするときに胸郭の大きさや圧力を変える筋肉です。主なものは、胸とお腹を隔てる横隔膜と、肋骨の間にある肋間筋です。[1][2]

息を吸うときには、横隔膜が収縮して下がり、外肋間筋などが肋骨を動かします。すると胸の内部の容積が大きくなり、肺へ空気が入ります。安静時に息を吐くときは、横隔膜などが緩み、肺や胸郭の弾性によって空気が外へ出ていきます。[1][2]

ここで「広がる」ものは主に胸郭や胸腔の空間です。筋肉そのものを無理に引き伸ばして大きくする、という意味ではありません。

呼吸に関わる主な筋肉

筋肉 主な位置と働き 呼吸との関係
横隔膜 胸とお腹の境にあるドーム状の筋肉 収縮して下がり、息を吸うのを助ける
外肋間筋 肋骨と肋骨の間 肋骨を動かし、胸郭を広げる方向に働く
内肋間筋の一部 肋骨と肋骨の間 呼気を助ける部分などがある
腹筋群 お腹の前面・側面など 強く息を吐くときに働く
首・肩周囲の補助呼吸筋 斜角筋、胸鎖乳突筋など 運動時や努力呼吸時に吸気を補助する

呼吸には多くの筋肉が関わります。深呼吸するときに、いつも肩を大きく持ち上げる必要があるわけではありません。リハビリテーションの資料では、むしろ首や肩の力を抜き、横隔膜と胸郭の動きを利用することが勧められています。[3][4]

呼吸筋ストレッチ・胸郭拡張運動・呼吸筋トレーニングの違い

似た名前の方法がいくつかありますが、目的は同じではありません。

方法 主に意識すること 具体例
呼吸筋ストレッチ 胸やわき腹周囲の筋肉の伸び・動かしやすさ 腕を無理なく上げ、体を横に傾ける
胸郭拡張運動 吸気に合わせて胸郭を動かす 背すじを伸ばして穏やかに深呼吸する
呼吸コントロール 呼吸の速さや力みを整える 横隔膜を意識した呼吸、口すぼめ呼吸
吸気筋トレーニング(IMT) 息を吸う筋肉への負荷を利用する 専用器具で抵抗をかけながら吸う

ストレッチは動きやすさ、筋力トレーニングは筋力や持久力の向上を狙う方法です。呼吸コントロールは、力まない呼吸の仕方を練習します。それぞれの成果を同じものとして扱わないことがポイントです。[3][5][6]

呼吸筋や胸郭を動かすことで期待できる3つのメリット

メリット1:胸の動きを意識できる

普段は呼吸を意識しなくても生活できます。その一方で、胸やお腹がどのように動くか、あまり気にしたことがない人もいるでしょう。

胸郭を意識してゆっくり呼吸すると、息を吸ったときの肋骨の広がり、吐いたときの戻りを感じやすくなります。呼吸リハビリテーションでも、こうした胸郭の動きを利用する練習が行われています。[3][4]

メリット2:首や肩に頼りすぎない呼吸を練習できる

緊張したり息苦しかったりすると、肩や首にも力が入りやすくなります。肩を落とし、無理のない速さで息を吐く練習は、呼吸に伴う余分な力みに気づく手がかりになります。[3][4]

ただし、姿勢や呼吸練習だけで、すべての息苦しさが改善するわけではありません。

メリット3:状況によっては息切れへの対処に役立つ

米国肺協会は、COPDなどの人に対する呼吸練習として、横隔膜呼吸や口すぼめ呼吸を紹介しています。口すぼめ呼吸は、息をゆっくり吐き、呼吸のペースを整える方法です。[3]

呼吸練習の効果は、健康状態や実施する方法によって異なります。胸郭の動きを意識する一般的な運動と、病気に対する専門的な呼吸リハビリテーションは、目的や指導内容が異なります。

「呼吸筋を広げる」ために試したい7つの方法

ここからは、普段の生活で取り入れやすい方法を紹介します。苦しくなるまで吸ったり、痛むところを無理に伸ばしたりする必要はありません。回数は始めるときの無理のない例であり、すべての人に適した医療上の処方ではありません。

1. まず肩と首の力を抜く

椅子に座り、足の裏を床につけて、背中を楽に伸ばしましょう。肩を軽く下げ、首を固めないようにします。腕も楽な位置に置きます。

この姿勢で、数回、普段どおりに息を吸って吐きます。大切なのは「大きく吸うこと」より、落ち着いて呼吸できる姿勢を見つけることです。[4]

2. 肋骨の横に手を添え、動きを確かめる

左右の下の肋骨のあたりに、手を軽く当てます。鼻から穏やかに息を吸い、胸の横側がわずかに外へ動く感覚を探してみましょう。息を吐くときには、自然に戻る様子を感じます。

3〜5呼吸程度から始めます。大きく膨らませることよりも、動いている場所を知るための練習です。

3. 横隔膜を意識した呼吸をする

片手をお腹に添えます。首と肩を緩め、鼻からゆっくり息を吸って、お腹が自然に少し動くのを感じてください。口から穏やかに息を吐き、お腹が戻るのを確かめます。[3][4]

お腹の中に空気を送り込むわけではありません。横隔膜が下がる動きに伴って、お腹が動くのです。力いっぱいお腹を突き出す必要はありません。

4. 息を吸う時間より、吐く時間を少し長くする

鼻から無理なく息を吸い、口を軽くすぼめて、細く長く吐いてみましょう。例えば、吸うときに心の中で「1、2」、吐くときに「1、2、3、4」と数える方法があります。[3]

口すぼめ呼吸は、特にCOPDなどで息切れがある人に使われる方法です。息を強く吹き出すのではなく、楽なペースを優先してください。

5. 胸郭拡張運動を少ない回数で行う

背中を楽に伸ばした姿勢で、鼻からゆっくり息を吸い、胸郭が広がるのを感じます。息を吐くときは力を抜いて自然に戻します。3〜5回程度から試しましょう。

英国の病院が紹介する胸郭拡張運動でも、胸や肩を力ませず、数回の深呼吸を行う方法が説明されています。[4] 病気や手術後の指導では息を短く止める方法もありますが、家庭で無理に息を止める必要はありません。

6. 胸とわき腹をやさしく動かす

椅子に座るか、立った状態で片腕を無理のない範囲で上げ、体をほんの少し反対側へ傾けます。わき腹や胸の横側の伸びを感じたら、数呼吸して戻しましょう。反対側も同じように行います。

これは胸周囲を楽に動かすための一般的なストレッチ例です。これだけで肺活量が増える、呼吸筋が強くなるといった効果は確認できません。肩や背中に痛みがある場合は行わないでください。

7. 日常の動作と組み合わせて続ける

机に向かっている途中に姿勢を整える、仕事の区切りに数回呼吸を意識する、散歩中に肩を緩めるなど、生活の中に小さな機会を作ります。

息切れが起こりやすい動作では、立ち上がるときや物を持ち上げるときに息を吐く工夫が役立つ場合があります。英国の医療機関も、活動中に息を止めず、力を入れる動作に合わせて吐く方法を紹介しています。[7]

呼吸筋を「伸ばす」と「鍛える」は何が違う?研究で分かったこと

研究1:胸郭の動きを改善する理学療法の効果は、まだ十分に確定していない

2024年のシステマティックレビューでは、気道が狭くなるタイプの呼吸器疾患を対象に、胸郭の動きへの理学療法の効果を検討しました。[5]

採用されたランダム化比較試験は5研究、合計139人でした。呼吸筋ストレッチや胸郭周囲への手技、横隔膜呼吸などが含まれていましたが、方法や評価が異なり、研究者はさらに質の高い試験が必要と結論づけています。

胸を動かす感覚が得られることと、医療的な改善効果が確実に示されていることは分けて捉える必要があります。

研究2:吸気筋トレーニングには、特定の患者で一定の根拠がある

2023年のコクランレビューは、COPD(慢性閉塞性肺疾患)の人を対象に、専用器具などで息を吸う筋肉に負荷をかける吸気筋トレーニング(IMT)を検証しました。[6]

55件のランダム化比較試験が含まれ、IMTを行わない場合と比較すると、息切れや運動能力、生活の質が改善する可能性が報告されました。一方で、通常の呼吸リハビリテーションにIMTを上乗せしても、患者が実感する利益が明確に増えるとは限らないという結果でした。

これは主にCOPDの人に関する研究であり、健康な人が自宅でストレッチを行ったときの効果を直接示したものではありません。

なぜ2つを区別する必要があるのか

息を吸う筋肉に抵抗をかけるIMTは、筋力・持久力を目指す運動です。一方、わき腹を伸ばしたりゆっくり胸を動かしたりする練習では、同じ負荷はかかりません。

「呼吸に関わる筋肉を使う」という共通点があっても、目的・負荷・検証されている効果は異なります。日常の運動を選ぶときにも、この違いが役立ちます。

呼吸筋を動かす際の4つのデメリット・注意点

1. 深く吸おうとしすぎると、かえってつらくなることがある

大きく息を吸うことに集中しすぎると、肩が上がり、呼吸が速くなる人もいます。めまい、しびれ、気分不良が出た場合は中止して、自然な呼吸に戻してください。呼吸を「頑張る運動」にしないことが大切です。[4]

2. 胸や肩の痛みを無視して伸ばさない

腕を上げる動作や体をひねる動作で痛みが出る場合、無理に続ける必要はありません。特に手術後、肋骨のけがのあと、胸部・背部に強い痛みがある場合は、医療者の指示を優先してください。

3. 呼吸筋の動きと肺の病気は別に評価する

息切れが続く理由には、肺や心臓の病気、貧血など複数の可能性があります。「胸が硬いだけ」と考えてストレッチを続けるのではなく、息苦しさが持続・悪化する場合は医療機関に相談しましょう。

突然の強い息苦しさ、胸の痛み、意識の異常などがある場合は、緊急の医療対応が必要です。

4. 専用器具の負荷は自分で強くしすぎない

吸気筋トレーニング器具には、息を吸うときに抵抗をかける製品があります。呼吸器疾患がある人や治療中の人は、自己判断で負荷を上げず、医師や理学療法士に確認してください。[6]

具体例:デスクワーク中に呼吸を見直した会社員

ここで、架空の会社員・佐藤さんの一日を見てみましょう。

佐藤さんは、朝からパソコンで資料を作る仕事をしています。夕方になると肩に力が入り、胸のあたりが窮屈に感じられることがありました。

ある日、休憩中に椅子へ座り直し、背中を少し伸ばしてみました。それから肩を緩め、左右の肋骨に軽く手を添えて、静かに息を吸いました。

「あれ、胸の横も少し動くんだ」

普段は息を吸うことばかり意識していましたが、ゆっくり吐くと、自然に次の息が入ってくる感覚もありました。

その後、佐藤さんは作業の区切りごとに姿勢を整え、数回だけ呼吸を意識することにしました。体を無理に反らしたり、限界まで息を吸い込んだりはしません。

これは呼吸の動きを理解するための架空の話です。ストレッチで病気が治った、呼吸機能が改善したという実際の研究事例ではありません。

よくある質問

呼吸筋を広げると肺活量は増えますか?

胸郭の動きを意識することと、肺活量が増えることは同じではありません。肺活量は年齢、体格、呼吸器の状態などの影響を受けます。特定の呼吸運動をすれば健康な人の肺活量が必ず増える、という十分な根拠はありません。[5]

腹式呼吸と胸式呼吸はどちらがよいですか?

通常の呼吸では横隔膜と肋骨周囲の筋肉が協調して働きます。どちらか一方だけを使う必要はありません。呼吸コントロールでは、首・肩の余分な力みを減らし、自然に呼吸できることが大切です。[1][3]

何回くらいストレッチを行えばよいですか?

健康な人が日常で行う軽い呼吸練習について、全員に共通する「正しい回数」はありません。初めは3〜5回程度の穏やかな呼吸で様子を見て、気分が悪くならない範囲で行いましょう。医療上のリハビリテーションでは個別の指示に従います。[4]

息苦しいときは深呼吸をしたほうがよいですか?

原因によって適切な対応は異なります。焦って大きく吸おうとせず、楽な姿勢で呼吸を落ち着ける方法が役立つこともありますが、新しく生じた息苦しさや悪化する息苦しさの原因を自己判断しないことが重要です。[7]

まとめ:呼吸筋を広げるなら、胸郭の動きと楽な呼吸を意識しよう

「呼吸筋を広げる」という言葉は、日常では胸やわき腹を伸ばす、胸郭を動かす、呼吸を深くするなど、いくつかの意味で使われます。

呼吸の中心となるのは横隔膜や肋間筋です。これらが働くと胸郭が広がり、肺に空気が入ります。普段の生活では、肩の力を抜く、肋骨の動きを感じる、ゆっくり吐く、無理のない範囲で胸の周りを動かすといった方法から始められます。

一方、胸郭のストレッチと、器具で負荷をかける呼吸筋トレーニングは別の方法です。科学的な効果を考えるときは、何を行った研究なのか、誰を対象にした研究なのかを確認することが大切です。

呼吸を無理に大きくするのではなく、楽に、自然に、胸とお腹が動くことを目指してみましょう。

参考文献・参考資料

  1. 九州大学附属図書館. 「呼吸機能検査ってなんだろう?:呼吸運動」. https://guides.lib.kyushu-u.ac.jp/c.php?g=775121&p=5560254
  2. 岡崎達馬. 「呼吸リハビリテーションにおける呼吸筋の役割」. The Japanese Journal of Rehabilitation Medicine. 2025;62(6):582–588. https://mol.medicalonline.jp/newbunken?GoodsID=ch7remed%2F2025%2F006206%2F012&name=0582-0588j
  3. American Lung Association. Breathing Exercises. https://www.lung.org/lung-health-diseases/wellness/breathing-exercises
  4. Leeds Teaching Hospitals NHS Trust. Active Cycle of Breathing Techniques (ACBT). https://www.leedsth.nhs.uk/patients/resources/acbt-active-cycle-of-breathing-techniques/
  5. Physiotherapy interventions on chest wall mobility in obstructive lung diseases: A systematic review. 2024. PubMed PMID: 38763581. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/38763581/
  6. Ammous O, et al. Inspiratory muscle training, with or without concomitant pulmonary rehabilitation, for chronic obstructive pulmonary disease (COPD). Cochrane Database of Systematic Reviews. 2023;(1):CD013778. DOI: 10.1002/14651858.CD013778.pub2. https://www.cochrane.org/ja/evidence/CD013778_are-exercises-strengthening-breathing-muscles-effective-people-chronic-obstructive-pulmonary-disease
  7. Cambridge University Hospitals NHS Foundation Trust. Breathing techniques to ease breathlessness. https://www.cuh.nhs.uk/patient-information/breathing-techniques-to-ease-breathlessness/