風が強くなるほど、人は姿勢と力の出し方を変えて対応していました。
向かい風では体を前に傾け、空気抵抗を受ける「抗力面積(CdA)」を小さくする方向に適応します。
それでも風に逆らうための仕事は大きく増えました。追い風では反対に、体を後ろに傾け、前に押されすぎないよう負の仕事、つまりブレーキ方向の仕事が増えました。
15 m·s⁻¹の向かい風では、風による抗力は歩行で約60 N、走行で約50 N。15 m·s⁻¹の追い風では、歩行・走行ともに−55 Nでした。強い風では、風に対して行う仕事が外的仕事に占める割合は、歩行で約80%、走行で約50%まで増えました。
この論文が評価したのは主にバイオメカニクス、つまり体にかかる力と力学的仕事です。酸素消費量などの代謝データは測定していましたが、この論文の解析結果には含めず、別の研究で扱う予定とされています。
【研究や論文は、chatGPTに著作権に配慮して、要点をまとめてもらっています。[ ]のメモは僕の意見・感想です】
内容の信頼性:8 / 10
研究方法そのものはかなりしっかりしています。
風洞と計測機能付きトレッドミルを使用し、地面反力から抗力を直接求めています。被験者数は事前の統計的検出力分析をもとに決められ、合計8,850ストライド、内訳は走行5,443ストライド、歩行3,307ストライドが解析されました。風洞の不均一性による全身抗力の推定最大誤差は3%とされています。
評価を満点にしない理由も論文自身が明記しています。対象は8人と少なく、全員が男性のプロまたはセミプロ選手です。また、実験順序の都合から疲労や慣れの影響が入り得ること、歩行の両脚接地中に左右それぞれの地面反力を個別に測定できないことが限界として挙げられています。
さらに、風洞トレッドミル上の風速を、そのまま屋外で受ける風速と考えることはできません。論文では例として、トレッドミル上を4 m·s⁻¹で走りながら15 m·s⁻¹の向かい風を受ける条件は、地上を4 m·s⁻¹で走る場合の「真の風速」では11 m·s⁻¹に相当すると説明しています。
何の研究か?
対象はプロまたはセミプロの男性ランナー8人で、平均身長は1.77 ± 0.05 m、平均体重は66 ± 7 kg、平均年齢は31.2 ± 6.2歳でした。
被験者は風洞内に置かれた計測機能付きトレッドミル上で、歩行1.5 m·s⁻¹、走行4 m·s⁻¹を行いました。風は、論文上の符号で向かい風をプラス、追い風をマイナスとして、0、±5、±7.5、±10、±12.5、±15 m·s⁻¹に設定されました。
研究チームは主に、足が地面を押す力である地面反力、体に加わる空気抵抗(抗力)、体の重心を動かすための外的仕事、そしてCdAを調べました。CdAとは「空気抵抗係数 × 風を受ける正面投影面積」で、同じ風速なら基本的にCdAが小さいほど空気抵抗を抑えやすくなります。
研究した理由は?
通常の実験室やトレッドミルでは、空気抵抗は比較的小さくなります。
しかし実際の屋外では向かい風や追い風があり、体には無視できない力が加わることがあります。従来、人が風から受ける空気抵抗については、コンピューターによる流体シミュレーションや人体模型を使った研究が多く、実際の人を風洞内で測定したデータは少ないという問題がありました。
特に著者らによると、風を受けながら歩いたり走ったりしたとき、人が体の動かし方をどのように変えるのかを直接調べた研究はほとんどありませんでした。そこで、風速によって抗力がどう変わるかに加え、人が姿勢や歩行・走行の力学をどう変えて適応するのかを調べることが研究目的になりました。
結果はどうだったか?
| 項目 | 結果 |
|---|---|
| 対象 | 男性プロ/セミプロランナー 8人 |
| 年齢 | 31.2 ± 6.2歳 |
| 身長 | 1.77 ± 0.05 m |
| 体重 | 66 ± 7 kg |
| 歩行速度 | 1.5 m·s⁻¹ |
| 走行速度 | 4 m·s⁻¹ |
| 風洞内の風速条件 | 0、±5、±7.5、±10、±12.5、±15 m·s⁻¹ |
| 解析したストライド数 | 合計 8,850:走行 5,443、歩行 3,307 |
| 15 m·s⁻¹の向かい風による抗力 | 歩行 約60 N、走行 約50 N |
| 15 m·s⁻¹の追い風による抗力 | 歩行・走行とも −55 N |
| 風に対する仕事/外的仕事 | 強風時に歩行 約80%、走行 **約50%**まで増加 |
| CdA | 風速が高くなるにつれて低下 |
| 無風時の体幹 | 歩行:ほぼ垂直、走行:約5°前傾 |
| 風があるときの体幹 | 向かい風:約11°前傾、追い風:約5°後傾 |
| 向かい風での仕事 | 正の仕事が増加、負の仕事が減少 |
| 追い風での仕事 | 正の仕事が減少、負の仕事が増加 |
| 歩行の歩幅 | −15 m·s⁻¹の追い風で無風時より約5%減少 |
| 全体的な結論 | 風は抗力を増減させるだけでなく、姿勢、CdA、歩幅、正・負の力学的仕事のバランスまで変化させる |
抗力は風が速くなるほど急激に増加しました。 歩行・走行とも風速の影響は統計的に有意で、同じ風速では全体として歩行の方が走行より抗力が大きく、特に10 m·s⁻¹以上の向かい風で両者の差が明確になりました。15 m·s⁻¹では、向かい風の抗力が歩行で約60 N、走行で約50 Nに達しています。
人は姿勢を変えて空気抵抗を抑えていました。 CdAは風速が高くなるにつれて歩行・走行とも低下しました。無風時は歩行では体幹がほぼ垂直、走行では約5°前傾していました。風がある条件では、向かい風で両方とも約11°前傾し、追い風では約5°後傾しました。
脚が行う仕事の配分も変わりました。 向かい風が強くなると、前へ進むための正の仕事が増え、減速方向の負の仕事は減少しました。追い風ではその逆で、正の仕事が減り、負の仕事が増えました。つまり向かい風では「より強く押す」、追い風では「より強くブレーキをかける」方向へ力学的な仕事が変化したことになります。
風に対する仕事の割合も非常に大きくなりました。 無風では抗力に対する仕事は外的仕事のごく一部ですが、強風になると抗力に対する仕事の割合は歩行で約80%、走行で**約50%**まで増えました。
歩幅にも変化がありました。歩行では、無風と**−15 m·s⁻¹の追い風を比べると歩幅が約5%減少**しました。走行では向かい風が強くなるにつれて歩幅が短くなり、15 m·s⁻¹の向かい風と無風の差は統計的に有意でした。
| 所属機関 | 発表者 |
|---|---|
| ルーヴァン・カトリック大学 神経科学研究所・運動生理学/バイオメカニクス研究室(ベルギー) | ラファエル・M・メスキータ、パトリック・A・ウィレムス、ジョヴァンナ・カタヴィテッロ、アーサー・H・デウォルフ |
| ミラノ工科大学 航空宇宙科学技術学科(イタリア) | ジュゼッペ・ジベルティーニ |
| ミラノ大学 病態生理学・移植学科 生理学部門・生理力学研究室(イタリア) | ヴァレンティーナ・ナタルッチ、フランチェスコ・ルチアーノ、アルベルト・エンリコ・ミネッティ、ガスパレ・パヴェイ |
Mesquita RM et al. (2024). Biomechanics of human locomotion in the wind. J Appl Physiol, 137(3), 616–628.

