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変化可能性の信念とは?成長マインドセットとの関係・メリット・育てる7つの方法を解説

「自分は昔から数学が苦手だから、これからも無理だろう」

こんなふうに思ったことはありませんか? 一方で、同じように苦手意識を持ちながら、「やり方を変えて練習すれば、今より理解できるかもしれない」と考える人もいます。

この違いに関わるのが、心理学で研究されている変化可能性の信念(beliefs about malleability)です。知能や能力、性格などが、どの程度変わり得るものだと考えているかを指します。[1][2]

この考え方は、心理学者キャロル・ドゥエック(Carol S. Dweck)らの暗黙理論(implicit theories)やマインドセットの研究と深く関係しています。学校の勉強だけでなく、仕事、人間関係、困難への向き合い方などでも研究されてきました。

変化可能性の信念は、なぜ大切なのでしょうか。反対の信念とは何が違い、どうすれば柔軟な捉え方ができるのでしょうか。代表的な研究と具体例から見ていきましょう。

変化可能性の信念とは?「人の特徴は変わり得る」という考え方

変化可能性の信念とは、ある能力や性質が固定されたものではなく、経験、学習、環境などによって変わる余地があると考えることです。[1][2]

例えば、次のような考え方です。

  • 「今は人前で話すのが苦手でも、練習や経験で上達する部分がありそう」
  • 「失敗したときの反応は、経験を通じて変わるかもしれない」
  • 「相手の性格を一つの出来事だけで決めつけず、変化する可能性も考えたい」

ここでいう「信念」は、宗教的な意味ではなく、人の特徴について普段どのように捉えているかという考え方です。心理学では、必ずしも自覚して言葉にしているわけではないことから「暗黙理論」と呼ばれます。[1]

また、変化可能性の信念が強いからといって、すべての能力や性格が思いどおりに変わるという意味ではありません。変化する可能性についての考え方と、実際にどれだけ変化できるかは別の問題です。

変化可能性の信念は何に向けられる?

研究で扱われる対象は、知能だけではありません。[1][2]

対象 変化可能性を信じる考え方の例
学習能力 学び方や練習によって理解力が伸びる余地がある
対人関係の力 経験やフィードバックで接し方を改善できる
性格の特徴 長い時間の中で考え方や振る舞いに変化が起こり得る
感情への対処 不安や怒りとの付き合い方は学んでいける
他者の特徴 いま見えている姿だけで、その人の将来を決めつけない

ただし、ある領域で「変わる」と考える人が、別の領域でも同じ考え方をするとは限りません。勉強については成長を信じていても、性格は変わらないと思う人もいます。[1][2]

変化可能性の信念と固定的な信念の3つの違い

ドゥエックらの研究では、能力などが変わり得るという捉え方を増加理論(incremental theory)、基本的に固定されているという捉え方を実体理論(entity theory)と呼びます。一般にはそれぞれ「成長マインドセット」「固定マインドセット」とも呼ばれます。[1][2]

比較する点 変化可能性を重視する捉え方 固定性を重視する捉え方
能力の理解 努力や方法、経験によって変わり得る 能力の基本部分はあまり変わらない
失敗の受け止め方 方法を見直す材料になる可能性がある 自分の適性がない証拠と考えやすい場合がある
次の行動 練習や別の方法を試すことにつながり得る その課題を避けたり、別の適性を探したりすることがある

これらは研究で考えられている傾向であり、誰にでも当てはまる行動の分類ではありません。信念の強さは二者択一ではなく、連続的なものとして測定される場合もあります。[1]

自己効力感とはどう違う?

よく似た言葉に「自己効力感」があります。違いは、問いの向き先です。

  • 変化可能性の信念:「能力や特徴は、そもそも変わり得るのか?」
  • 自己効力感:「この課題に必要な行動を、自分は実行できそうか?」

例えば「英語は練習で伸びる」と信じていても、「自分が今月、毎日学習できる自信はない」ということはあります。

また、楽観主義は将来に好ましい結果を期待する傾向ですが、変化可能性の信念は、特定の人間的特徴が変わるかどうかに関する考え方です。関連はしても同じ概念ではありません。

変化可能性の信念を持つ3つのメリットとは?

1. 失敗を「能力の最終判定」と捉えにくくなる

試験で点数が悪かったとき、「私は頭が悪い」と決めつけるのではなく、「今回の勉強法で理解できなかった部分は何か」と考える余地が生まれます。

Burnetteらが2013年に発表した、113の研究・延べ28,217人を対象としたメタ分析では、能力などを変えられると考える信念は、学習目標を重視する傾向(r=0.187)や、課題の習得に向かう方略(r=0.227)と関連していました。[3]

2. 改善するための行動を選びやすくなる可能性がある

「変われるかもしれない」と考えることが、質問する、方法を変える、フィードバックを求めるといった選択につながる場合があります。

ただし、そう考えるだけで自動的に行動や成果が変わるわけではありません。時間、練習できる環境、適切な支援なども重要です。[4][5]

3. 自分や他人を一度の出来事で決めつけにくくなる

「一度失敗した人はずっと失敗する」「嫌なことを言った人は絶対に変わらない」と考えると、出来事を固定的な性質だけで説明しやすくなります。

Yeagerらの2013年の研究では、人格が変わらないとする信念と、他人の行動に敵意を読み取りやすい傾向との関連が調べられ、人格の変化可能性を伝える介入によって、敵意の推測や攻撃的な反応が減る結果も報告されています。ただし、対象は主に青年期の参加者であり、誰にでも同じ効果が起こるとまでは言えません。[6]

変化可能性の信念の3つのデメリット・注意点

1. 「努力すれば何でもできる」という無理につながることがある

変化する可能性を重視しすぎると、成果が出ないときに「努力が足りない」と自分や周囲を責めてしまうことがあります。

能力の変化には、健康状態、資源、学習環境、課題との相性など、多くの条件が関わります。信念だけに原因を求めないことが大切です。[1][7]

2. 別の道を選ぶ機会を見逃す場合がある

目標に向かって粘り強く続けることは、いつも最善とは限りません。

日本の研究者による2025年の論考では、複数の課題から選べる状況では、適性に合う別の課題を探すことにも価値があると論じられています。「続けるか、変更するか」を考えられる環境が重要なのです。[1]

3. 信念を変えるだけで成果が伸びるとは限らない

学校で成長マインドセットを教えれば成績が大きく上がる、と単純には言えません。

2018年のメタ分析では、マインドセットと学業成績との関連、また介入の平均的な効果は全体として小さいと報告されました。一方で、学習面のリスクが高い生徒など、一部の集団で効果が見られる可能性も示されています。[4]

2023年の別のメタ分析では、63研究・97,672人の介入研究を再検討したところ、全研究を合わせた効果量は小さく、研究の質や出版バイアスを考慮すると、学業成績への効果を確実とは言えないと結論づけています。[5]

変化可能性の信念に関する研究では何が分かった?

研究①:自己調整の仕方との関連(2013年)

Burnetteらのメタ分析は、113研究・28,217人について、暗黙理論と自己調整の関連をまとめました。[3]

変化可能性を信じる傾向は、学習目標を重視することや習得に向けた方略と正の関連があり、無力感につながる方略とは負の関連(r=−0.238)がありました。

つまり、失敗そのものが変わるというより、失敗した後の目標の立て方や対処の仕方に違いが現れる可能性があるということです。

研究②:学校での介入と成績(2019年)

Yeagerらの研究では、米国の公立高校65校に通う9年生12,490人を無作為に割り付け、1時間未満のオンライン介入を検証しました。[7]

介入は、知的能力は伸ばせると学ぶ内容でした。その結果、もともと成績が低い生徒では主要教科の成績が改善し、全体では上級数学科目の履修率が高まりました。また、学校の同級生たちが挑戦を支持するような環境にあることが、成績改善の効果に関わっていました。

この結果は、信念と学校環境の両方が大切だという見方を支えます。ただし、特定の介入が特定の条件下で示した結果です。

研究③:人は性格を変えられると考えることの影響(2014年)

Yeagerらは、高校への進学という変化の多い時期に、人格は変わり得るという信念とストレス反応の関係を調べました。[8]

3つの研究のうち実験研究では、人格の変化可能性を伝える短い介入を受けたグループで、社会的な困難への否定的反応が減り、8か月後のストレスや身体的不調の自己報告、学業面にも改善が報告されました。

ただし、この結果から、成人の性格を短時間で変えられる、あるいは介入が誰にでも有効であると結論づけることはできません。

変化可能性の信念を育てる7つの具体的な方法

次の方法は研究を参考にした日常での考え方の工夫です。7つすべてを組み合わせた方法として効果が実験で確認されたわけではありません。

1. 「できない」を「今はできない」に言い換える

例えば「プレゼンができない」を「今はプレゼンの組み立て方に慣れていない」と言い換えてみましょう。

言い換える目的は無理に自信を持つことではなく、現在の状態と将来の可能性を分けて考えることです。

2. 何を変えたいのか具体的に決める

「頭がよくなりたい」では曖昧です。「資料の要点を3分で説明できるようになりたい」など、行動で確かめられる形にすると改善策を考えやすくなります。

3. 努力量だけでなく、方法も振り返る

同じやり方で何度も失敗するなら、練習方法や課題の難しさ、相談する相手を変えてみましょう。努力の量だけを増やすことが唯一の解決策ではありません。

4. 小さな変化を記録する

以前の自分と今の自分を比べてみましょう。「先月は質問できなかったが、今週は一つ質問できた」といった小さな変化にも注目します。

5. フィードバックを「人物評価」と「行動への助言」に分ける

「あなたは向いていない」という言葉と、「説明の順番を変えた方が分かりやすい」という助言は違います。修正できる行動に関する情報を探しましょう。

6. 周囲の環境を調整する

挑戦を評価する職場や、質問しやすい教室では、新しい方法を試しやすくなります。行動を変えたいときは、自分の考え方とともに、練習時間や相談できる人も見直しましょう。[7]

7. 続けることと方向転換することを両方選択肢にする

一定期間試しても成果が出なければ、課題の選び方を見直すこともできます。変化可能性を信じるとは、「一つの道だけを続けなければならない」という意味ではありません。[1]

変化可能性の信念の具体例:発表が苦手な新人社員の話

ここからは、考え方の違いを説明するための架空のストーリーです。

入社2年目の佐藤さんは、会議で担当企画を説明することになりました。しかし、発表の途中で言葉に詰まり、うまく答えられない質問もありました。

帰り道、佐藤さんは考えます。

「自分は話すのが下手だ。きっと向いていない」

翌週にも発表があります。最初は辞退しようと思いましたが、先輩から「内容の説明はよかった。質問を受けたときに結論から答える練習をしてみよう」と言われました。

佐藤さんは、前回の失敗を「自分という人間の評価」ではなく、「練習できる具体的な部分」に分けてみました。次の発表までに、質問への答えを一文でまとめる練習をし、先輩に一度だけ聞いてもらいます。

次の会議でも緊張はしましたが、前回より落ち着いて返答できた場面がありました。

ここでのポイントは、佐藤さんが急に別人になったことではありません。能力の一部には改善の余地があると捉え、具体的な方法を試したことです。

変化可能性の信念を活かすときの注意点と対策

結果が出なかったときは?

練習量、方法、環境、課題との適性を分けて見直しましょう。結果が出ないことだけを理由に、自分の価値を判断する必要はありません。

他人にも「変われるはず」と要求してよい?

他人の変化には、その人自身の意思や環境、時間が関わります。変化可能性の信念を、他人を無理に変えようとする理由に使わないようにしましょう。

信じれば必ず成績が上がる?

信念と学業成果の関連や介入効果については、肯定的な結果と限定的な結果の両方が報告されています。特に介入の平均効果は小さいか不確実とするメタ分析もあるため、考え方だけを変えれば十分だとは言えません。[4][5]

よくある質問

Q. 変化可能性の信念と成長マインドセットは同じですか?

深い関係があります。知能や能力が変わり得ると考える信念は、一般に成長マインドセットと呼ばれます。一方、変化可能性の信念という表現は、性格や感情など、より広い対象に使うこともできます。[2]

Q. 固定マインドセットを持っている人は成長できませんか?

そのような意味ではありません。固定的な信念を持っていても、学習や経験によって能力が変化することはあり得ます。また、人の信念は対象によって異なります。[1][2]

Q. 年齢を重ねても変化可能性の信念は意味がありますか?

人生のさまざまな段階で、学習や行動をどう考えるかを整理する手がかりにはなります。ただし、紹介した学校での介入研究の結果を、成人や高齢者にそのまま当てはめることはできません。

まとめ:変化可能性の信念は「変われる余地を考える」ための視点

変化可能性の信念とは、人の能力や性格などが変わり得ると考える信念です。ドゥエックらが研究してきた暗黙理論や成長マインドセットの考え方とつながっています。

研究では、この信念が目標設定や失敗後の対処、学習行動などと関連することが報告されています。一方、信念を変える介入の学業成績への効果は、研究によって結果が異なり、全体では小さいとする分析もあります。

日常で大切なのは、ただ「頑張れば変われる」と繰り返すことではありません。

どの部分なら変えられそうか。何を試し、何を記録し、いつ方法を見直すか。

そんな問いを持つことが、自分自身や他人の可能性を考える第一歩になるでしょう。

参考文献・出典

  1. 鈴木啓太・村本由紀子(2025)「能力の可変性に関する暗黙理論の影響を規定する境界条件の検討:課題選択とその自由度に着目して」『社会心理学研究』40(3), 227–249. https://doi.org/10.14966/jssp.2024-001
  2. Kyler, E. N., & Moscicki, M. K. (2024). Measuring many mindsets: A systematic review of growth mindset domains, and discussion of domain relationships, with implications for growth mindset interventions. Social and Personality Psychology Compass, 18(11), e70015. https://doi.org/10.1111/spc3.70015
  3. Burnette, J. L., O’Boyle, E. H., VanEpps, E. M., Pollack, J. M., & Finkel, E. J. (2013). Mind-sets matter: A meta-analytic review of implicit theories and self-regulation. Psychological Bulletin, 139(3), 655–701. https://doi.org/10.1037/a0029531
  4. Sisk, V. F., Burgoyne, A. P., Sun, J., Butler, J. L., & Macnamara, B. N. (2018). To What Extent and Under Which Circumstances Are Growth Mind-Sets Important to Academic Achievement? Two Meta-Analyses. Psychological Science, 29(4), 549–571. https://doi.org/10.1177/0956797617739704
  5. Macnamara, B. N., & Burgoyne, A. P. (2023). Do growth mindset interventions impact students’ academic achievement? A systematic review and meta-analysis with recommendations for best practices. Psychological Bulletin, 149(3–4), 133–173. https://doi.org/10.1037/bul0000352
  6. Yeager, D. S., Miu, A. S., Powers, J., & Dweck, C. S. (2013). Implicit theories of personality and attributions of hostile intent: A meta-analysis, an experiment, and a longitudinal intervention. Child Development, 84(5), 1651–1667. https://doi.org/10.1111/cdev.12062
  7. Yeager, D. S., Hanselman, P., Walton, G. M., et al. (2019). A national experiment reveals where a growth mindset improves achievement. Nature, 573, 364–369. https://doi.org/10.1038/s41586-019-1466-y
  8. Yeager, D. S., Johnson, R., Spitzer, B. J., et al. (2014). The far-reaching effects of believing people can change: Implicit theories of personality shape stress, health, and achievement during adolescence. Journal of Personality and Social Psychology, 106(6), 867–884. https://doi.org/10.1037/a0036335