ランニングの記録向上には持久力だけでなく、「少ないエネルギーで効率よく走れる能力(ランニングエコノミー)」も重要です。本研究は、中長距離ランナーを対象に、どの種類の筋力トレーニングがランニングエコノミーの改善に最も効果的なのかを、31件の研究・652人のデータを統合して分析したものです。
参考:中長距離ランナーの異なる走行速度における筋力トレーニングプログラムの効果:メタ分析を含む系統的レビュー【2024年】
【研究や論文は、chatGPTに著作権に配慮して、要点をまとめてもらっています。[ ]のメモは僕の意見・感想です】
結論
中長距離ランナーのランニングエコノミーを改善するには、「高負荷筋力トレーニング(1RMの80%以上)」と「プライオメトリックトレーニング(ジャンプ系)」、さらにそれらを組み合わせたトレーニングが有効である可能性が高いことが分かりました。
特に高負荷トレーニングは、VO2maxが高いランナーや高速走行時に効果が大きい傾向がありました。一方で、中程度の負荷による筋トレやアイソメトリック(静止した状態で力を発揮する)トレーニングは、明確な効果が確認されませんでした。
内容の信頼性:8.5/10点
評価理由
- 31件の研究、合計652人のランナーを対象とした大規模なメタ分析である
- 複数の主要データベースを用いた系統的レビュー
- エビデンス評価(GRADE)を実施
- ただし、証拠の確実性は「中程度~低程度」と評価されており、一部の結果には限界がある
そのため、信頼性は高いものの、今後の研究によって結論が修正される可能性もあります。
何の研究か?
中長距離ランナーにおいて、さまざまな筋力トレーニング方法がランニングエコノミー(効率的に走る能力)へどのような影響を与えるかを比較した研究です。
比較した主なトレーニング方法は以下の5種類です。
- 高負荷筋力トレーニング(1RMの80%以上)
- 中程度負荷筋力トレーニング(1RMの40~79%)
- プライオメトリックトレーニング
- アイソメトリックトレーニング
- 複数の方法を組み合わせたトレーニング
また、「どの走行速度で効果が出やすいか」も分析しました。
研究した理由は?
ランニングエコノミーは、VO2maxと並んでランニングパフォーマンスを左右する重要な要素です。
これまで筋力トレーニングがランニングエコノミーを改善することは知られていましたが、
- どの筋トレ方法が最も効果的なのか
- 走るスピードによって効果は変わるのか
については十分に整理されていませんでした。
そこで研究チームは、既存研究をまとめて分析し、最適な筋力トレーニング方法を明らかにしようとしました。
結果はどうだったか?
①高負荷筋力トレーニング(1RMの80%以上)
本研究では、高負荷筋力トレーニングがランニングエコノミー(RE)を有意に改善することが確認されました。
メタ分析の結果、効果量はES = -0.266(p = 0.039)で、小さいながらも統計的に有意な改善が認められました。対象となった研究では、8.64~17.85km/hの速度範囲でREが評価されています。
さらに興味深いのは、改善効果がすべてのランナーで同じではなかった点です。
モデレーター分析では、
- 走行速度が高いほど改善効果が大きい
- β = -0.117
- p = 0.027
- VO2maxが高いほど改善効果が大きい
- β = -0.040
- p = 0.020
ことが示されました。
つまり、高負荷筋トレは特に
- レベルの高いランナー
- 高速域で走る競技者
に有効である可能性があります。
著者らはその理由として、
- 最大筋力の向上
- 力発揮速度(RFD)の向上
- 腱や脚全体の剛性(stiffness)の向上
- 地面反力を効率よく利用できること
を挙げています。
②プライオメトリックトレーニング(ジャンプ系)
プライオメトリックトレーニング単独では、全速度をまとめて分析した場合、有意な改善は確認されませんでした。
しかし、速度別に分析すると結果が異なりました。
時速12.00km以下の条件では有意な改善が認められ、効果量はES = -0.307(p = 0.028)でした。
一方で、12.00km/hを超える速度では明確な改善は確認されませんでした。
そのため論文の正確な表現としては、「プライオメトリックトレーニングはランニングエコノミーを改善する可能性があるが、その効果は主に12.00km/h以下の走行速度で認められた」となります。
プライオメトリックトレーニングは、
- ジャンプ
- ドロップジャンプ
- バウンディング
など、伸張反射と伸張短縮サイクル(SSC)を利用する運動です。
これにより、
- 筋腱複合体の弾性利用
- 接地時間の短縮
- エネルギー再利用効率の向上
が起こり、比較的低~中速域でのランニング効率改善につながると考えられています。
③複合トレーニング(複数手法の組み合わせ)
本研究で最も大きな改善を示したのが複合トレーニングです。
複合トレーニングとは、
- 高負荷筋トレ+プライオメトリック
- 高負荷筋トレ+中負荷筋トレ
- プライオメトリック+中負荷筋トレ
など、2種類以上の筋力トレーニング方法を組み合わせたものです。
外れ値を除外した分析では、
- 効果量:ES = -0.426
- p = 0.018
となり、中程度の改善効果が確認されました。評価速度は10.00~14.45km/hです。
著者らは、
- 高負荷筋トレによる最大筋力向上
- プライオメトリックによるSSC機能向上
といった異なる適応が相互補完的に働くことで、単独実施より大きな効果が得られる可能性があると考察しています。
④中程度負荷筋力トレーニング(1RMの40~79%)
中程度負荷トレーニングでは、
- 効果量:ES = -0.365
- p = 0.131
となり、統計的に有意な改善は認められませんでした。評価速度は9.75~16.00km/hでした。
著者らは、
- 高負荷トレーニングほど最大筋力を高められない
- プライオメトリックほどSSC機能を高められない
ため、RE改善には刺激が不十分だった可能性を指摘しています。
⑤アイソメトリックトレーニング
アイソメトリックトレーニング(静止した状態で力を発揮するトレーニング)についても、
- 効果量:ES = -0.269
- p = 0.253
となり、有意な改善は確認されませんでした。評価速度は10.00~15.28km/hです。
ただし、この分析はわずか3研究に基づいており、著者らも「現時点では結論を出すには研究数が少ない」としています。
全体まとめ
31研究・652人の中長距離ランナーを統合した結果、
- 高負荷筋力トレーニング(1RM80%以上)は有効
- プライオメトリックは12.00km/h以下で有効
- 複合トレーニングが最も大きな改善効果を示した
- 中程度負荷トレーニングとアイソメトリックは有意な効果を示さなかった
という結果でした。特に高負荷筋力トレーニングは、VO2maxが高い競技レベルのランナーや高速走行時ほど効果が大きく、複合トレーニングは複数の神経筋適応を同時に引き出せるため、ランニングエコノミー向上に最も有望な方法として位置付けられています。
総じて、「重い重量を扱う筋力トレーニング」と「ジャンプ系トレーニング」がランニング効率向上に有効であり、両者を組み合わせることでさらに大きな効果が期待できることが示されました。
