心療内科に通院していた頃、「自分はできる。 うつ病は治る。 自分はポジティブになる。」という、ポジティブな言葉を録音して繰り返し聞き続けていました。
ポジティブな自己暗示をすることで、ポジティブになれるのでは、と考えていたからです。
かなり追い詰められていたんですよね。
今となっては、「自分にかなり悪いことをしていたな」と思います。
「ポジティブ思考になる」という自己暗示は、 今の自分はネガティブでダメという強い自己否定の繰り返しにもなっているからです。
いや、本当に、あの頃の自分ごめんなさい。
双極性障害のうつ症状で長く苦しんでいたとき、もっと ポジティブにならなくちゃいけないと思っていました。
ネガティブ思考は悪いことで、ポジティブ思考は良いこと。
うつ症状で苦しんでいるのも 、子どもの頃からのネガティブ思考の強さから来ている。
だから、ポジティブにならなくちゃいけない。
ポジティブ思考にならなくちゃいけないという思いは、強迫観念に近かったです。
ポジティブな言葉を繰り返し聴き続ける自己暗示という方法をとったのも、人格を変えてでもポジティブになりたいという思いがあったからです。
とても強い自己否定感を抱えていました。
この「ポジティブ思考にならなくちゃいけない」という思いが、「有害なポジティブさ(トキシック・ポジティビティ)」を生みます。
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「有害なポジティブさ」とは?
「有害なポジティブさ」とは、 ネガティブな感情を完全に認めずに、過度にポジティブな感情を強くしようとして、 苦しくなってしまう感情コントロールのことです。
怒りや悲しみなどの感情を無視して、他人のネガティブな感情すらも「 そんなこと考えちゃいけないよ」と否定するようになります。
偽物のポジティブ思考は、すべての状況でポジティブでいることを要求して、あるがままの感情を否定します。
自分を偽りのポジティブ思考で着飾っている状態です。
もしも、あなたがポジティブ思考を不快に感じたことがあるのであれば、 この偽物のポジティブ思考を見てきたからかもしれません。
あらゆる思考と感情は、すべて必要があって生まれています。
恐怖も不安も悲しみも孤独感も、すべて大切なものです。
ネガティブな思考があるからこそ、今の自分の状態を知ることができ、 自分がどのように生きればいいかが分かってくるからです。
それは自分が自分に届けてくれる大切なメッセージです。
否定して見ないふりをするというのは、自分の声を無視していることにつながります。
自分に無視される自分って、すごく切ないですよね。
本物のポジティブ思考を身に付けるには、この偽物のポジティブ思考を着飾らないことが大切です。
偽物のポジティブ思考の4つのデメリット
まず偽物のポジティブ思考のデメリットをお伝えします。
偽物のポジティブ思考のデメリットを知ることで、有害なポジティブさの特徴が見えてくるからです。
この4つのデメリットを取り除くことができれば、本物のポジティブ思考になっていきます。
①感情の否定
偽物のポジティブ思考の人は、 ネガティブな感情を否定して、抑え込む癖を持っています。
ネガティブなことを言っちゃいけないというだけではなく、考えてもいけないみたいな、 完璧な偽物のポジティブ思考になってしまうと本当にしんどいです。
それは偽物の人生を歩くことになるからです。
しかも、どれだけ偽物のポジティブ思考を演じようとも、 感情は自然と生まれてしまうものです。
ネガティブな感情を否定して抑え込んでいくと、 溜まっていき、 後になって、強いストレスとなって、苦しむことになります。燃え尽き症候群にもつながりやすいです。
②自己否定感が強くなる
偽物のポジティブ思考の人は、自己否定感が高まります。
自分の感情の否定をしていているからです。
しかも、自己否定というネガティブ思考に気づくと、また無視します。
でも、偽物のポジティブ思考でメンタルが苦しくなってくると、自己否定感が強まり、ネガティブ思考が無視できなくなってきます。
ポジティブ思考が正解で、ネガティブ思考は間違いと思っているので、ネガティブなことを考えることに罪悪感を劣等感を持つようになります。
ネガティブなことを考えた瞬間、「こんなことを考えてしまう自分はダメだ」と思ってしまうんですよね。過去の僕は完全にこれでした。
ポジティブ思考になろうとして、より強くネガティブ思考になってしまうという、切ない結果です。
③現実逃避をする
偽物のポジティブ思考の人は、 現実逃避をします。
これはある意味仕方がなくて、自分のネガティブな感情を否定して、ポジティブな思考を偽っているので、 そもそも物事を現実的に考えることが難しいからです。
ネガティブな事実にも目をつむるようになるので、失敗を恐れたり、失敗を無理に肯定したりして、現実を良くしていくことを苦手とすることがあります。
④健康が悪化する
偽物のポジティブ思考の人は、心と体の健康を悪くしやすいです。
感情を抑え込み、自己否定につながっているので、強いストレスを感じているからです。
また、健康面で悪いことがあったとしても、ネガティブなものを無視するので、健康を改善するのを苦手とすることがあります。
結果、無理をして心と体を壊すことがあります。
でも、偽物のポジティブ思考にもメリットがあります。
僕たちは必要ではない思考や感情は持たないからです。
偽物のポジティブ思考にもメリットがあるからこそ、 ハマってしまうんです。
偽物のポジティブ思考のメリット
偽物のポジティブ思考のメリットを知ることで、偽物のポジティブ思考から抜け出すことができます。
悪いところだけを見るのではなく、良いところも悪いところも知ることで、冷静に偽物のポジティブ思考と距離を置くことができるからです。
一時的にモチベーションがあがる
偽物のポジティブ思考は、一時的にモチベーションが上がり、困難を乗り越える力となります。
長期間であれば、とても苦しい思考なんですが、短期間であれば使えることはあります。
例えば、 オリンピックなどに出るスポーツ選手が、「自分はできる。自分はできる」と自己暗示することがあります。
ポジティブ思考の自己暗示をすることで、不安を排除してパフォーマンスを上げることができるからです。
僕たちの身近なところでも、緊張する面接の前であるとか、 好きな人との初めてのデートであるとか、 緊張する仕事のイベントとか、 こういう時には、自分をポジティブ思考に奮い立たせて、行動していくという使い方ができます。
※僕が「ポジティブな自己暗示は良い」と勘違いした原因です。
繰り返しますが、一時的に効果があるだけなのでお気を付けください。
一時的にポジティブを演じることは特に問題はないですが、長期間演じ続けると自分を見失って苦しくなるからです。
「どうしようもない時」や「もう何もできることがないと思った時」に、「何とかなる」「 何とかできる」と、 ポジティブに奮い立たせて、乗り越えるのはOKだと思います。
厄介なのは、一時的なモチベーションさえあがれば、脳は「それで良し」と考えてしまうことです。
脳は長期ではなく、目の前の一時的なことが良ければOKと考えるものなので、偽物のポジティブ思考には魅力を感じやすいからです。
未来の高い報酬より、目の前の小さな報酬を思わず選んでしまう双曲割引の心理にも表れていますね。
偽物ではなく、本物のポジティブ思考になる方法
世の中にあるポジティブ思考のすべてが間違いなわけではありません。
そこには本物のポジティブ思考につながるものもあれば、 偽物のポジティブ思考につながるものもあります。
なので、 大切なのはポジティブ思考を全否定するのではなく、 偽物のポジティブ思考の毒を抜くことです。
それでは、本物のポジティブ思考になるにはどうすればいいのか?
- ネガティブな感情を否定して、抑え込まない。
- 自己否定しない。
- 現実を楽しく生きていく。
この3つのポイントを押さえていれば、ポジティブ思考の知識を使っても OK です。
例えば、「何とかなるさ」 という言葉も、「現実逃避してなんとかなるさ」と思うのではなく、「 今までやるだけやったからあとは何とかなるさ」と現実的に使うことが大切です。
僕は双極性障害やうつ症状が改善してから、ポジティブに思われることが増えました。
個人的にはネガティブ思考だとは思っているので、不思議な感じはします。
ただ今回の「有害なポジティブさ」を考えると、「確かにポジティブに見えるだろうな」と思います。
ネガティブな感情を否定しないですし、抑え込もうともしません。
ネガティブな感情と「どのようにコミュニケーションをとるか」「どのようにこの感情を楽しむか」というところを大切にして、人生がより良くなる行動をしているからです。
ではどのようにして、有害なポジティブさを失くして、ポジティブな状態でいるのか?というと。
「自己否定をせず、自然体の自分を大切にして、自分が望む行動をしていく」という先ほどの3つのポイントの知識を身に付けたからです。
それがセルフコンパッションと ACT(アクセプタンス&コミットメントセラピー)です。
この2つの考えをシンプルにまとめたものが、マインドフルネスRAINです。
本物のポジティブ思考の近道という意味では、 ACT が最も近いと思います。
自己否定をせず、感情とコミュニケーション取りながら 望む行動をしていくことができるからです。
ACT は今メンタルが良い悪い関係なく、ほとんどの人に重要な知識です。
ACT を「いきなりやると難しい」と感じる方で、自己否定がとても強い方はセルコンパッションから始めてみましょう。
「今の自分が見えていない」のが問題と思えば、マインドフルネスのRAINの考え方を使って、マインドフルネスを始めてみるのがおすすめです。
僕の場合は、次の順番で始めました。
- セルフコンパッション
- マインドフルネス系の心理療法
※RAINはマインドフルネス系の心理療法を簡単にまとめたもの。 - ACT(アクセプタンス&コミットメントセラピー)
どれか1つでも良いですが、僕の場合はうまく理解できない場合、他の方法を組み合わせながら理解していく方法をとっています。
実は僕が29年間の不眠症が改善しているのも、 セルフコンパッションやマインドフルネス系の心理療法やACTのおかげです。
というのも、 何年も長く続く慢性的な不眠症に最も効果があるのは薬ではなく、睡眠の認知行動療法(CBT-I)です。でも、睡眠におけるACTも高い効果があると言われています。
認知における最終的な効果は似ているんですが、簡単にまとめると「認知行動療法は思考や行動から認知を変える。ACTなどのマインドフルネス系は体験から認知を変える」という感じです。
科学的な知識はそれぞれ繋がっているので、1つ取り組んでいくと別の悩みも同時に解決しやすくなってきます。
続き
1.偽物のポジティブ思考の毒を高めてしまう3つのこと
2.自分の人生を選び、自分の手でコントロールする
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